●長編 #0027の修正
★タイトルと名前
親文書
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
キャンセルと思われたクリスマスのミサが、場所を変えて行われることを姉か ら聞いたのはそれから数日後だった。 その時に、姉から見せられた写真を見て、葵はあの時の少女が妹の柚花である ことを知ることになる。 姉との再会や妹との出会い、こんな偶然が重なるなら少しくらい神様を信じて もいいかなと、葵は密かに思っていた。 そして、12月24日、日曜日。この日は応和学園中等部の終業式であった。 本来、22日に行われるはずだった終業式が、2週間前に発覚した中等部校舎の 安全性問題で、期末試験が2日ほど潰れ、安全点検と補修の応急工事にあてられ 学校スケジュールが変更されたこともあり、急遽24日が終業式にあてられたの である。 その日、美凪は玄関近くで大事なペンダントを落としたらしい。それを兄であ る西原が見つけ、学校で渡そうとそのまま登校したのだった。 その話を聞いたのは、登校してきた葵が教室でクラスメイトと挨拶を交わして いる時だった。 西原が葵の教室へ現れ、美凪を呼び出したらしいが彼女はまだ学校には来てい なかった。そこで葵が代わりに呼び出され、事情を聞いてペンダントを受け取っ たのだった。 だが、終業式が始まっても、その後のホームルームが始まっても、美凪は教室 には現れなかった。不審に思った葵は、すぐに西原の教室へと急ぐ。 「すいません。西原先輩をお願いします」 入り口の近くにいた男子生徒に彼を呼びだしてもらうことにした。 「なんだい?」 西原は眠そうな顔をして現れる。 「先輩! 美凪ちゃん、家を出て本当に学校に向かったんですか?」 葵は少しだけ焦りながら西原に問いかける。 「どういうこと?」 「美凪ちゃん、まだ来てないんです。普通だったら、終業式が始まる前には来る はずなのに。ホームルーム終わってもまだ来ないんです」 西原は少し考え込むそぶりを見せると、黙ってそのまま教室を出ていく。 葵は西原を追いかけ「事故じゃないですよね」と聞いた。 「制服姿のままだから、事故に巻き込まれていたら学校に連絡が来てるはずだ」 先輩は早足で歩いていき、葵はそれに必死でついていく。 「もしかして、このペンダントを探してるのかも」 先輩の足が止まる。 「ああ、可能性は高いかもしれない」 「先輩、美凪ちゃん探すんですよね。わたしも探します」 「御陵くん。これは僕のミスだ。学校についてから渡すことを考えず、僕が妹を ちゃんと追いかけていればこんなことにはならなかったんだ。キミに迷惑をかけ るわけにはいかない」 葵は静かに顔をふる。 「美凪ちゃんはわたしの友達ですよ。探すのはあたりまえじゃないですか」 「悪い、御陵くん」 葵は下駄箱で下履きに履き替えると、校門へと向かおうとした。その途中で、 呼び止められる。 「葵っち! どうしたん?」 振り向くと恵美香が駆け寄ってくる。 「うん、美凪ちゃん。もしかしたら、これ探してるかもしれないの」 葵は手に持ったペンダントを彼女に見せる。 「あのアホ、そんなん探すために学校フケとるんかいな」 「うん。でも美凪ちゃんにとってはとっても大事なものだから」 「そんなんわかっとる。よっしゃ、あたしも西原さん探すの手伝ったる」 「ありがとう」 「お礼なんて言わんでええ。お礼は西原さんに言うてもらう」 下履に履きかえた葵たちは、校門の所で西原と落ちあう。 「とりあえず家までの通学路ですよね」 葵は彼にそう切り出す。 「そうだな。じゃあ御陵くんにはそっちをお願いする。僕は他の心当たりを探し てみる」 西原は、そう言うと隣りの恵美香に気づき不思議そうな顔をする。 「こちらは?」 「あ、紹介してませんでしたね。美凪ちゃんと同じクラスの佐藤さんです」 「はじめまして、佐藤恵美香いいます。先輩のお噂はかねがね聞いとります」 「美凪が世話になってるそうだね」 二人はなんとも妙な感じの挨拶を交わす。どちらも個性が強いためなのであろ う。 「それじゃあ、手分けして」 葵がそう言いかけると、すかさず恵美香が口を挟んだ。 「あ、待った。葵っちも先輩もケイタイ持っとる?」 「いや、僕は持たない主義だから」 「わたしも持ってない」 なんとなく似たような感じの答えに、恵美香は苦笑する。 「まったく、この情報化社会に生まれていながら情報端末の一つも持っとらんと は」 「そうなのかなぁ」 葵は素直に恵美香の意見に納得しかける。 「まあ、ええ。三人でバラけるんやから連絡は密にとっといた方がええ。あたし のケイタイの番号教えたるから三十分おきにかけたって」 「だったら、佐藤さんは学校に残ってくれないか?」 「うん。そうですね。もしかしたら諦めて学校に戻ってくるかもしれないから」 葵は、先輩のその意見に賛成する。 「よっしゃわかった任しとき」 「じゃあ、三十分おきに連絡する」 「二人とも頼む」 校門前で三人は別れる。 葵はまず一番可能性の高い通学路を逆に辿ってみることにした。 途中までは見慣れた風景、葵はたまに朝の通学で美凪会うこともあった。 道すがら彼女らしき姿を見かけることはなかった。商店街に入るアーケードの 道を手前に曲がり、住宅地を抜けると美凪の住んでいるマンションが見える。 家にあがったことはないが、前に彼女と教会に行った時、帰り際に葵は家の場 所を教えてもらったのだ。 一応、マンションの階段を上がり、玄関の前まで行く。 もしかしたら家の中にいるのではないかと思い、葵は呼び鈴を鳴らしてみるも のの誰も出てくる気配がない。 もう一度通学路を見てみようと、再びもとの道へと戻った。 三十分が経過し、葵は恵美香に電話を入れる。 「もしもし、サトちゃん」 『おお、葵っち。西原美凪は見つかったんか?』 「ううん。だめ。西原先輩は、連絡あった?」 『あっちもまだみつかっとらんみたいや』 「そう、わかった」 『葵』 「何?」 『あんまり無理するんやないよ』 「わかってる」 お昼になっても美凪は見つからず、連絡してきた葵に、恵美香はいったん学校 へ戻ってくるように指示した。 戻る途中で、空からちらほらと白いものが降ってくるのを葵は確認する。そう いえば予報で雪が降るようなことを言っていたことを思い出した。 歩く速度を速め、途中から面倒になって葵は走り出す。 校門の前で西原と恵美香が立っているのが見えた。 「先輩! サトちゃーん!」 葵は息を切らせながらニ人に近づいていく。 「御陵くん、悪かったね。あとは僕が探すよ。これ以上キミたちに迷惑をかける わけにはいかないから」 「何言ってるんですか。美凪ちゃん、まだ見つかってないじゃないですか!」 「いや、赤の他人にこれ以上負担をかけるわけにはいかない。これはやっぱり僕 の家庭の問題だよ」 「先輩、何を意地はっているんですか。美凪ちゃんは私の大切な友達でもあるん です。そんなに簡単に見捨てられるわけがないじゃないですか」 「あたしも迷惑とは思っとらんです」 恵美香もぼそりと付け加える。 「すまない」 「謝らないでくださいよ。先輩が悪いわけじゃないですから」 「あ、そうや。午後からは私も動ける。水野さんがな、ケイタイ持っとるそうな。 夕方までは学校にいてくれる言うた」 「そうなんだ。水野さんにもお礼言っとかないとね」 「お礼言ってもしゃーないねん。脅し、かけただけやから」 「サ、サトちゃん……」 午後、葵たちは通学路だけじゃなく、街をくまなく探すことになった。心配な のは天候だ。恵美香からの情報では、夜半すぎから大雪になるようだ。それまで に葵は必ず美凪を探したかった。 だが、いつまでたっても見つからない。焦りだけが募る。 もしかしたら、この街を出たんじゃないか。葵は、ちょっと前の美凪の落ち込 みようからそんなことを考える。 思い出の教会が焼失し、親しかった神父は亡くなってしまう。どれだけ彼女の 心に深く傷を残したのか想像がつかなかった。きっと、その事をずっとひきずっ ていたのかもしれない。そんな彼女が、母親の形見であるペンダントまでなくし てしまう。 「ヤケになってなければいいが」そう、先輩が呟いたのを葵は聞き逃していなか った。 普段、冷静な人間ほど、我を失った時に自制がきかなくなる。 この街は彼女にとってあまり良い思い出はないはずだ。自分の家さえ帰るべき 場所ではないと考えている。唯一の安住の地であろう教会を失って、彼女はどこ へ行くのだろう。 ふと、嫌な考えが葵の頭をよぎる。 まさか、美凪に限ってそんなことはないだろう、そう言い切れないのは葵自身 も同じ道を辿ってきたからかもしれない。 7年前、両親の死を最初に伝えられて考えたのは、逃避ではなく、両親の場所 へ行きたいという願いだった。つまり死である。 葵は無神論者ではあるが、この時ばかりは神に祈った。 (もし、神様がいるならば、美凪ちゃんを連れて行かないで。わたしもっともっ と彼女と仲良くなりたいし、もっともっとお話がしたいの。だからお願い!) 夕方になり、雪はいったんやみ始めた。 葵は恵美香に連絡をとるが、未だ美凪は見つかっていないそうだ。 やはりこの街を出たんじゃないだろうか、と恵美香は言っていた。 だが、そうなるともう葵の手には負えなくなる。 彼女が美凪とこの街以外に行ったことがあるとしたら、隣街のショッピングモ ールしかない。 今の美凪の心境を考えると行くはずがないと思いつつも、葵にはそこを探すこ としか手は残っていなかった。 駅で切符を買うと最後の希望を握りしめ、葵はちょうどホームに来た電車に飛 び乗った。 もう日も沈んでからかなり経ち、雪も大降りになってきた。 やはりショッピングモールに彼女の姿はなかった。 葵は冷えた身体を暖めるため、いったん近くのバーガーショップに入りカフェ オレを飲む。 しばらくの間、あれこれと美凪の行き先について考えてみるものの、結局、大 した答えにはたどり着かなかった。 時計の針は10時を過ぎていた。いつまでもここにいてもしょうがないと思い、 葵はひとまず戻ることにした。 駅を出ると吹雪いていた。ショッピングモールにいた時は、赤と緑のイルミネ ーションが心に染みるほどクリスマスを感じていたが、ここはあまり大きな駅で はなく、駅前商店街の電気はほとんど点いてはいなかった。ただ、寂しさだけが 広がる風景である。 電話ボックスを見つけると葵は、恵美香へと電話する。 「もしもし、サトちゃん」 『ああ、葵っちか』 さすがの恵美香も少し疲れたような声で返答する。 「見つかんないよね」 葵はさらに疲れていた。だが、それ以前に、もう気力のほとんどを使い果たし たようでもあった。 『ああ、まだぜんぜんや』 「寒いね」 『ああ、寒いな。気合いでなんとかするしかあらへんかな』 「わたしも気合いでなんとかしたいなぁ……」 『大丈夫か?』 「うん。たぶん……」 『あ、そうや。こんな時に言うのもなんやけど、言わへんと日付変わってしまい そうやからな』 「メリークリスマス」 『そうやなくて……こんな時にボケてどないする』 「違うの?」 『誕生日おめでと。あんた13才になったんやろ』 「あ、そっか。忘れてた」 『あかんな、あんたは13年前の今日生まれて、そんで今日まで必死で生きてき たんやろ』 「うん」 『『ばあや』がよう言うとったんやけどな。生きてきたってことを誰かに伝える 為に人間は生きとるんよ。だから、人間はそう簡単に諦められない動物なんやっ て。人間は好んで一人になるわけやない。誰だって一人にはなりたくないんや。 最近の西原美凪だってそうやったろ。あいつはめっちゃ諦めの悪い人間やん』 「うん。そうだね」 『きっと見つかる。賭けとってもええよ』 「賭けは成立しないよ。だって、わたしだって見つかると思ってるもん』 『だったら、もうちょっとがんばってみよか」 「うん」
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