AWC みにくいアヒルの恋(1):さくらももも



#5433/5495 長編    *** コメント #5428 ***
★タイトル (BRM     )  01/03/21  12:07  (119)
みにくいアヒルの恋(1):さくらももも
★内容
 ある小学校の門の前に登校途中の生徒たちを遠目に伺いながら
ウロウロしていた怪しい男がいた。
男は一応整ったスーツを着ていたのだが、ただあまりあか抜けた
感じではなく、”いま一”いや”いま二”位スーツになじんでいな
かった。しかも背中を丸めながらウロウロしていたので、これでは
不審人物ですと自ら名乗っているようなものである。
運悪く最近は近所でちかんが出始めていて、地域ではかなり警戒を
強めていた時期でもあった。
案の定、六年一組の学級委員長である佐々木教子に目を付けられていた。
「あいつ、絶対怪しいわ。」
彼女の母親も実はPTAの会長をしている。
そういう家庭である。
「私にはクラスをそして学校を守る義務がある。」
・・・と彼女は思い込んでいた。
「こんな時は大人の人にまずしらせなきゃ!」
一念発起で思い立つと急いで学校の中に走っていった。
入り口の前に大きな鳥小屋があるのだが、ちょうどそこで校務員さんが
鳥小屋の掃除をしているところだった。
「おじさん!たいへんだよ」
「んっ!?どうしたんだい?」
「学校の前に”ちかん”がいるよ」
「ええっ!?」
行って見ると確かに若い男が小学生を物色するようにきょろきょろ見回し
ているところだった。
「こりゃ、大変だ!」
この後、すぐに大騒ぎになった事は言うまでもない。

「だから、ちかんじゃないですって!」
そういうと男はむくれてしまった。
ここは校長室である。
「しかしねえ、あんな風にしてたら誰だって怪しいと思うもんだよ。」
と校長は言った。
実は問題の男は教育実習生だったのだ。
彼の名は桜井和友と言う。年は23歳で、体格は中肉中背。
黒縁眼鏡をかけてくせっ毛という出で立ちも手伝ってか顔は正直ぱっと
しなかった。
恐らく、眼鏡をはずして髪の毛を整えてもぱっとしないだろうが・・・。
もちろん恋愛経験はゼロである。
自慢ではないが義理チョコの一つさえもらったことがない。
つまり、全くと言って良いほど女っけがない人生を歩んできた。
そして、残念ながら(?)彼がこの話の主人公である。
その彼によると学校の前でウロウロしていた理由はこうである。
彼は予定の時間より早くついてしまったらしい。
しかし、近くに時間をつぶせるようなところもなかった。
かといって、緊張するのがいやなので学校にはなるべくギリギリの時間
に着きたかった。(もちろん心の中で思っていた事だが・・・)
それで、どうしようか迷ってウロウロしていたのだ。
まあ、なんとも情けない理由だが。
「とにかく、我々は失礼させていただきますよ。」
と警察の関係者らしい人物はめんどくさそうにそう言って出ていった・・・。

「やれやれ・・・。」
腰をポンポンたたきながら桜井は廊下を歩いていた。
ようやく辛い(?)教育実習の一日目が終わったのだ。
ふと、「教師になるの、考え直そうかな?」
などと情けないことまで考えていた。
彼は子供が好きなほうではあったが、予想以上に今の小学生は手強
かったのだ。初めは
「どうせ、相手は”がきんちょ”だから何とかなるだろう。」
と簡単に思っていたのだが、とんでもなかった。
なにせうるさかった。
全く落ち着きがなかった。
言うことを聞かなかった。
少し強く怒ると泣き出した。
そんな彼らを操縦するにはかなりのエネルギーが必要なのだと言うことを
痛感していた。
ただ、彼も昔落ち着きがないと通知票に書かれていた事が良くあり、そのことを
すっかり忘れていたのだが・・・。
どうやら大人になるにつれて何かと棚にあげるのが得意になるものらしい。
そんな事を考えていると突然どこからともなく音楽が聞こえてきた。
どこかで聞いたことのある懐かしいメロディーである。
「どこで聞いたのかな?給食の時間かな?そうだ!下校のときにかかって
た曲だ。」
などと納得していた。
まあ、彼のクラシックについての知識はこの程度である。
曲はドヴォルザークの「家路」だった。
彼はなにかに引き寄せられるようにその音に向けて歩き出した。
一つ上の階に音楽室があってそこから音がもれているようであった。
「たまにはクラシックもいいな。」
などと思いながら聞き入っていた。
もっとも、実際に彼が良く聞く音楽と言えばアイドルが歌うようなポップ
ソング位のはずだが・・・。
まわりに誰もいない事を確認すると、調子に乗って音楽室の前で目を
つむりながら指揮者のまねごとなんかをやってみせた。
本人はかなり悦に入っていたようだが、端から見る限りでは火事のなか
で目をつぶりながら手をばたつかせてる被災者のようにしか見えな
かった。
と、突然クスクスと笑い声が聞こえた。
ハッと目を開けると目の前に若い女性が立っていた。
彼は大口を開けて両手を広げたまま硬直してしまった。
女性とは縁のない人生を歩んできたせいかある種、女性恐怖症のように
なっていたのだ。
「情熱的な指揮をされるんですね。」
と笑顔で話かけてきた。
彼は普段から自分の方を見てクスクス笑う女性を見ては”きっとあの人は
僕を見て笑っているんだ”と思いこんでいたのだが、このときもそう思っ
た。
「あ・・・。」
次の言葉が見つからないでいると、その女性は
「ごめんなさい。からかうつもりじゃなかったんです。ただ、心から音楽
を楽しんでいる人を見るとつい嬉しくなってしまうんです。」
彼女の名は清水翔子と言う。年は桜井と同じ23歳である。
かたや教育実習生でかたや現役の教師というこのズレは当然ながら桜井が
浪人した結果である。
彼女は今年からこの小学校で教師をしている。
もともとはピアノが得意で一時、音楽の世界で挑戦したいという気持ちも
あったのだが、それ以上に子供が大好きだったので結局小学校の教師を志
すことにした。
ただ、休みがあれば地域の演奏会で演奏もするし、今日のように放課後に
一人でクラシックを聴いたりしていたので、結構自由に音楽ができて満足
だった。
そんな彼女の体格はあまり大きい方ではなかったが、実際の身長よりも大き
く見えた。
猫背の桜井とは違い彼女は姿勢がとにかく良かったのでそう見えるのだろう。
また、それに加えて彼女の存在感の強さがより大きく見せていたようである。
顔の方は顎がシュッとしていて大きな瞳と長いまつげがあり、口は小さく髪は
まっすぐ長い綺麗なストレートであった。
つまり、かなりの美人であった。
そして、非常に残念(?)だがここに桜井と翔子嬢のカップルが誕生する。



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