AWC ▼聖戦の道▼ 天下大道 対決の巻     ワクロー3



#2644/3137 空中分解2
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▼聖戦の道▼ 天下大道 対決の巻     ワクロー3
★内容

 【聖戦の道】 天下大道 対決の巻





 友人Pが運転する車に乗って、ある道を走っていたときのことで
す。

 一方通行の、車がやっと一台通れる幅の狭い道でした。そこをゆ
っくりと走っていると、むこうからタクシーがやってきたのです。

 友人Pは、タクシーに向かって ぴっかぴかと前のランプを点滅
させて『ここは一方通行ですよ』と知らせました。

 けれどもそんなことにお構い無しに、タクシーは確信を持って走
って来るので、ついに僕らの車とタクシーとが、離合不可能な場所
で角突き合わせて、止まってしまいました。

  友人Pは、今度はクラクションを鳴らしました。『ここは一方通行だ
ぜ、おめえ、さがらんかい』という気持ちを込めて。

 もちろんタクシーの方が無理を通してきているので、クラクションを鳴
らすと同時に、僕らは二人で『さがらんかいー』と気合いを込めて、
相手の運転手の顔をにらみつけました。

 ところが、タクシーの運転手は、いっこうにひるむところがあり
ません。そればかりか、手まねで言うには『おまえら、ちょっとさ
がってんかー』と合図しているではありませんか。

 なんちゅうあつかましいやつか。友人Pの裂帛の気合いが車の中
にみなぎって行くのが、僕にもわかりました。断じて譲る必要はな
いぞ。

 友人Pは、さらにまた、前に増してクラクションを鳴らしました。

 『てめ ふざけんじゃねえ さがるのは おめーのほうだぜ』

 僕は助手席から、念のために標識を確かめました。確かにここは
一方通行で反則をしているのは、タクシー運転手のほうです。正義
はわれわれの側にある。友人Pに殉ずる決意が僕の心にも根をはっ
てゆきました。

 しかし、大義に殉ずる僕と友人Pの決意をあざわらうかのように、
タクシー運転手は、なおも手まねで『さがらっしゃい この若輩ど
もめ』てな動作をしたばかりか。それでも不足とみたか、運転席の
窓をあけてこっちに向かって、いらだたしげにどなり声をあげたの
です。

 『あんたら、さがらんね』

 あとから思うと、この運転手さんが、もちっと懇切かつ低姿勢に
自分が、一方通行違反を犯してでもこの道を通らねばならぬ事情が
あること。まことにもって恐縮であるが、武士の情け、世の中お互
い様ではないか。無理を承知で道を譲っていただきたい。筋道をた
ててそう断わっていたならば、それほどの大事にもならなかったの
でしょう。



 しかし、タクシー運転手は、この事情の説明をおおまかにしか行
なわず、あとのお願いをいっさい省略したために、友人Pの短気を
誘ったのでした。

 やむおえぬ事情があるならば、それならそれで会釈のひとことも
あってしかるべきもの。礼を欠いただけでも非礼千番なのに、かえ
って高圧に指示をするとかなにごとであるか。

 この場合の友人Pの心の中は、いたいほどにわかるのであります。

 運転席の窓を開けた友人P。どなりかえす。

 『一方通行違反をしておいて、俺のくるまに下がれというたあな
んちゅういいぐさだ。下がる義理はない。おまえが下がれ』


 タクシー運転手は言い返す。

 『おれのほうは、あっちの道が工事でとおられんのだ。ここをと
おらんとさきにいけんのだ。わからんやつやなあ。おまえがちょっ
とさがればすむことやないか。ちょっとさがれ』



 工事という万やむおえない事情があったならばどうして、もっと
早くそう言わなかったのか。今となっては、その理由を定かに探る
ことは無意味と言えましょう。

 友人Pは、タクシー運転手の誠意に欠けた一方的な提案を拒否す
る意思でもって、車をじりじりと前進させ、あらためて運転席から
身を乗りだして今度は怒鳴り声で返答しました。

 『おれの車が通ってから、おまえが勝手にとおればよかろう。こ
こは一方通行だ。こっちが譲る必要はない』


 こうして、江戸時代街道でかたすれおうたすれあわぬで、意地を
張ったお武家様さながらの対決が、20世紀も終わりに近い、平成
の世の中で、天下白日のもと、はじまってしまったのでした。


                         (以下次回




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