AWC ひっきー日記14



#819/1158 ●連載
★タイトル (sab     )  10/03/30  00:30  ( 52)
ひっきー日記14
★内容
そのピンさろのトイレはお客も共用で、洗面台にはずらーっと
モンダミンやイソジンが並んでいて、私はげーげーしながら口
をゆすいでいたのね。白い陶器にイソジンがさーっと広がって。
そうしたらお客が入ってきて私に言った。そんな事したって全
然意味ないよ、舌の裏側を見てみれば分かると思うけど、もの
すごい毛細血管が走っているでしょ、そこに一滴でも精液が入っ
たらもう感染だよ、と。それから、もっと安全に稼げる場所も
あるのに何でこんな割の合わない所にいるんだ、みたいな話に
なって。それで彼にゴム付きス股のお店を教えてもらったんだ
けれども、そこはもう泌尿器科の看護師より安全って感じだった。
そんなこんなで彼とも最初は店外デート、その内情が移っていっ
て普通に付き合う様になったのだけれども、彼曰く「俺には結
婚する資格がない」。
「えー、何それ。結婚するのに資格がいるの? 相手がいいっ
て言えばそれでいいんじゃないの?」
「いやぁ、俺は本当にそう感じているんだよ。結婚ってさぁ、
健やかなる時も病める時も死が二人を分かつまで、って感じで
しょう。俺にはそんな価値は無いし、それにずーっと一緒にい
たらすぐにつまらない男ってばれて捨てられちゃうよ。捨てら
れてもいいけどね。この女にふられてもこの女に限った事だっ
て思えればいいけどね。この女で駄目だったら他の女も駄目だ
ろうって思っちゃうんだよね。そうすると、なんか女全体に吟味
されている様な気分になって来るでしょう。そうするとそれは
もうジャッジだから、審判だから、もう絶対にしくじるわけに
は行かない、しくじったら全ての女を失う、でも人間だからし
くじる場合もあるでしょう。そうなると死が二人を分かつまで
なんて誓いはたてられないんだよね。もし俺の一生分の所得と
か病気とかが分かっていればそれに見合う女を見付けるけれど
もね。おかしいだろう。まだ相手もいないのにその女を食わせ
て行くのに幾らかかるかなんて。いやぁ普通かな。甲斐性が無
ければ結婚しないものね。だけれどもまぁこういうのは日本人
の素人の女に限った事であってフィリピンの女とかだったら成り
行きで結婚しても後は野となれ山となれなんだけれどもねえ」。
へぇーーーーーーと思った。と言うのもこの人にそっくりな男
を見た事があったのだ。テレビで。しかもイギリスのドキュメ
ンタリーで。UPシリーズって言ったかな。子供を7歳、14歳、
21歳って成長とともに追いかけて行くのだけれども28歳で
もうホームレスになった人がいて。その人のインタビューを鮮
明に覚えている。なるべくしてホームレスになった様な人だった。
自分は将来子供を持てないだろう、自分は10年後に毎月給料
を貰ってこられるとは思えない、とか。その前に今ホームレス
をなんとかしろよ。まだ見ぬ妻子の扶養義務はともかくとして。
なんでそんなに先の事を考えるんだろう。しゃべり方も吃音っ
ぽかった。秒単位で先の事を考えているのかな。

俺はぐぐりまくってその*ホームレスの動画を見付けた。それ
が下だ。「子供は親から何かを受け継ぐ。もし妻が精神的にま
ともで普通でノーマルなら子供は自立するチャンスがあるが幸福
になるには十分じゃない。何故ならその子は自分から何かを受
け継ぐから」、みたいな事を言っている?

http://www.youtube.com/watch?v=lzfm2_70jo4




#820/1158 ●連載    *** コメント #819 ***
★タイトル (sab     )  10/03/30  00:33  ( 72)
ひっきー日記15
★内容
このイギリス人のビデオを見ていて、この人がどもっているのは
脳に蓄えられている記憶のIOエラーではなくてビデオに接写さ
れているからじゃないのかと思った。というのは俺だって英文解
釈の授業の時には「えっと、えっと」とつまずいて、目の前から
訳せなどと言われたけれども、タバタあたりを叩きのめす時には
すげー饒舌になるのだから。だからマシンガントークが出来るか
どうかなんて相手によりけりなのではないか、という内容のメール
を送った。この風俗嬢に。「鋭いじゃん」とレスが返ってきた。
それから何回かやり取りをしていたらスカイプidを送ってきた。
俺はTapurでもインストールしているんじゃないかと警戒したが、
考えてみれば俺の動画が流出したところで誰も興味ないだろう。
という訳で接続してみた。彼女の名前はヨーコさんという。ルッ
クス的には小野リサとか南洋系だろうか。元彼とはもう別れたとか、
俺のひっきーライフについて語り合う。
「ひきこもりの人って、*街がぎらついて見えない?」とヨーコ
さんが言った。「人もぎらつかない? 目を細めるとネオンが滲む
でしょう。ああいう感じに見えない?」
「えぇ?」俺は少し考えてからモー娘星座説を語った。「モー娘っ
ていうのはスターとスターを結んだ星座だから質量を持たないん
だよ」
「あー、それって近いかも知れない。モーニング娘。って脳内彼女
でしょ?」
「それとはちょっと違うけど」
「脳内彼女ってツンデレでしょ?」
「えぇ?」
「脳から出てきたものってツンデレでしょ?」
「えぇ?」
「モー娘が星座なら銀座ね。銀座も人の脳の中から出てきたものでしょ。
元々自然界にあったものじゃなくて人が設計したものだから。そう
いう人の脳から出てきたものはツンデレなのよ」
「分からない」
「じゃあもっと具体的に説明してあげるよ。たとえば親に期待され
るとつらいでしょ。ちょっと成功すれば喜ぶし、ちょっと失敗すれ
ばがっかりするし。それってツンデレでしょ。なんでそうなるかっ
ていうと親の脳の中にあるからなのよ。銀座も同じで人の脳の中に
あったからツンデレなのよ」
「違うでしょ」俺は言った。「モー娘でも素人女子連合でもびびる
のは、あいつらがつながっていると思うからでしょ。つながってい
るから一人で失敗したら全滅だって。銀座だってプラのぷちぷちみ
たいにつながっていると思うからびびるんじゃないの?」
「だけれども素人女子連合がつながっているって思うのは、あなた
が立ち止まるからでしょう。立ち止まるからもくもくと故郷がわい
てくるんでしょう」
「故郷がわいてくるのは俺の脳の中であって、銀座を設計した人の
じゃないでしょう」
「いやいや同じなんだよ。っていうか二重になっているんだよ。ちゃ
んと説明してあげるよ。いい? 親の期待でも銀座でも元々は誰か
の脳の中にあったっていうのは分かるよねぇ。だからツンデレなの
は分かるでしょ? そのツンデレ性にびびってあなたは立ち止まる
んでしょ? つまり銀座を設計した人の脳のツンデレ性にあなたの
脳が2回目のツンデレをおこすんだよ。これを専門用語で内世界的
存在者と世界内存在という」
「はぁ?」
「いやまぁそれはいいんだけれども、とにかく銀座はツンデレだから、
嫌われちゃあいけないと思ってシャワーを浴びたりフレグランスつ
けたりする訳ね。でも私の元彼はね、ブランド品を買うんだったら
ヴィトンの専門店じゃ駄目で、あれは銀座じゃなくて表参道店だけ
れども、あそじゃあ駄目なんだって。ヴィトンのガラスはいつでも
ピカピカだし、誰にでも売るわけじゃないっていう雰囲気があるし。
『プリティ・ウーマン』のジュリア・ロバーツみたいに断られるん
じゃないかって。だから彼は何時でもドンキホーテで買っていたん
だよ。ドンキも六本木だから都会なんだけれども、あそこは乱雑だ
から」
「ふーん」俺は鼻を鳴らした。「それって、給食とマックの違いに
似ているなぁ。俺は給食が駄目だったんだけれどもマックだったら
平気で。でもマックの方が都会っぽい感じがするけれども」
「それはねぇ、ドンキの店員は飯島愛っぽいんだよ」
「はぁ?」
「ヴィトンの店員は高田万由子っぽいんだよ。なんとなくわかる?
 マックの店員って飯島愛っぽいんじゃないの? 給食は高田万由子っ
ぽいんだよ。ツンデレ性が強いからびびるんじゃない?」





#821/1158 ●連載    *** コメント #820 ***
★タイトル (sab     )  10/03/30  00:36  ( 88)
ひっきー日記16
★内容
「私の母親は」とヨーコさんは言った。「世の中はちゃんとし
ていると思っているのね。税務署とか銀行とか。それはもう税金
とか借金からは逃れる事は出来ないんでそう思うっきゃしょう
がないんだけれども。奴隷って殴られると、自分が悪いって思
うんだよね。そう思うっきゃしょうがないじゃん。兎に角お母
さんは世の中はちゃんとしているって思い込んでいたの。だか
らそんな世の中に自分が参加出来る訳がないって思っていて、
それでスナックなんか経営していたんだけれども。だから私に
はちゃんとした人生を歩んで欲しいって本当に思っていたの。
その癖、そんな事出来っこないって思っていたのよ。そうする
と何か私に体裁のいい病気で死んでくれないかって思う様にな
るんだよねえ、AIDSとかじゃなくて。子殺しだよ。戦争だっ
たらもっとよかったかも。社会にゆだねちゃうんだよね。斎藤環
の病院から治療者を呼ぶのもそういう感じかもね。でも私の方
では、何があっても、私が何をしても、私が人殺しをしても、
あの子はいい子なんだって言って欲しかった。多分、リスカを
する子って、こんなに傷ついているから、だから寸分たがわず
私を理解してって迫っていっているんだろうなあ。うーん。こ
こに悲しい二重構造があるんだよ。母親は社会に幻想を抱いて
いるから、恥を晒すぐらいなら死ねと思っている。でも子供は
何があっても母親は愛してくれると思っている。だからリスカ
してこっちを向いてって。で、それが叶わないと今度は親殺しっ
て話になるんだけれども、私の元彼みたいなのに頼んでやって
もらおうか、とか…ちょっと待って。お茶もってくるから」と
言うとヨーコさんはスカイプから離れた。俺はタバコに火を付
けてサッシを10センチぐらい開けた。1本吸い終わった頃に
ヨーコさんが戻ってくる。「本当に私、そうだったのかーって
思った瞬間があって。コンビにのレジに並んでいて…ちょっと
話は飛ぶんだけれども、最後はさっきの話に戻ってくるんだけ
れども、コンビニの店員が遅くて、なんであんなにとろいんだ
ろうってイライラしていて、やっと打ち終わって、たまたま小
銭がたまっていたから小銭を出していたのね、そうしたら今度
は後ろに並んでいた大柄な男が舌を鳴らした様な気がして、靴
を鳴らして煽っているような気がして、あの人イラついている
のかなぁって思ったら焦っちゃって。それでローソンを出た時
に元彼が言うのね、「なに、あせあせしてんの?」って。私は
これこれこういうわけで、と自分の心境を話したら、「人間が
違うんだぜ」って。「レジ打っている女も後ろの客もヨーコと
は人間が違うんだぜ。分かる?」。人間が違う? 目からうろ
こ。人間が違うのか。母も人間が違うんだよねぇ。母は私を愛
していた。でもそれは私の望んでいる愛し方とは違っていた。
当たり前でしょう。人間が違うんだから。どうしてそれに気が
付かなかったんだろう。それに気が付かない人が親殺しをする
んじゃないの? 『ナチュラル・ボーン・キラーズ』とか。
『アメリカン・ビューティー』とか。観た? でもああやって
親を殺して逃げて行っても、行った先で今度は後ろに並んでい
る客から煽られるんだから。だから兎に角人間が違うんだって
事に気が付かないと」と言うとお茶を飲んだ。「それに気が付
かない人が、絶望とか言い出すんだよ。キルケゴールとか。知っ
ている?」「知らない」「キルケゴールっていう哲学者は誰と
会っても絶望するのね。そりゃあそうだよ。人間が違うんだか
ら。でもキルケゴールは絶望を3つの種類に分けるのね。まず
絶望しても我慢して結婚は人生の墓場ってノリで生きていく自己。
これを絶望して自己自身であろうと欲しない自己って言ったの。
墓場だから。ゾンビだから。それから絶望して自己自身であろ
うと欲する自己っていうのもあるんだよ。これは脳内彼女と結婚
する自己。あと絶望している事にすら気が付いていない自己も
あって、これはまぁCancam読者かな。兎に角こういう事を大真
面目に論じているんだよ。信じられる? フロイトだってそう
だよ。何かに努力するでしょ、でも諦めるでしょ、自由が丘に
住みたいって努力するでしょ、でも諦めて中野、それも諦めて
練馬、それも諦めて大宮、ってどんどん都落ちしていって最後
はとんでもない僻地に住んで、それでも住めば都と思って、唯一
の楽しみはお風呂上りのビールみたいな生活になって行って、
最後にはそれも取り上げられて。つまり死ぬって事だけれども。
でもそうなると努力と諦めの収縮運動がなくなるからそれは
ニルヴァーナだから心が安らぐとかマジで言っているんだよ。
そんなの私に言わせれば夢の中で何かに気が付こうともがいて
いる様なもので、夢から覚めれば、あぁ夢だったのかって。分
かる?」
「分かるよ」と俺は言った。「親も彼女も世の中も自分の脳内
にあるのとは違うに決まっているって事でしょ」
「そうだよ」
だが俺は首をひねっていた。ヨーコさんは『ナチュラル・ボーン・
キラーズ』に言及していたがあれはタランティーノ原案でその
彼はその前年『トゥルー・ロマンス』の脚本を書いていた。こ
の映画でも父親が殺されていたのだ。俺はこれを観た時にセカイ系
だと思った。南の島でトゥルー・ロマンスしたいんだったら親
が田舎で一人暮らししていたら駄目なんだ。俺はよく核戦争後
の世界でハッちゃん(ウエノハツネ)と二人だけ生き残るとい
う妄想をする。その時には妄想の最初の方で親に安楽に死んで
もらっている。そして妄想の後にはアナルにドライバーを挿入
してのオナニーだ。やっぱりフロイトとか関係あるんじゃない
のか。勿論ヨーコさんにはこんな事は言わないが。それに「人
間が違うから」というだけで世の中のひきこもりや摂食障害の
人々を説得出来るとは思えない。そんなのワタミの社長に「夢
に日付を!」と言われている様なものだ。ワタミの社長がキルケゴール
に「夢に日付を!」と言ったらどうなるんだろう。




#822/1158 ●連載    *** コメント #821 ***
★タイトル (sab     )  10/03/30  00:40  ( 82)
ひっきー日記17
★内容
「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった」とヨーコさん
がスカイプで言った。「雪国では枯れ木に樹氷がつくでしょ。
街がぎらつくのもモー娘の星座がぎらつくのも樹氷がきらきら
するのとおんなじなんだよ。そんでキルケゴールもフロイトも
そんな雪国の中で樹氷について考えている様なものなのよ。春
がきて氷が溶ければ、なんだ夢だったのかって分かるのにね。
もっとも川端康成はフロイトから逃げる為に『雪国』にひきこ
もったのだからこの例はちょっとよくないんだけれども、それ
でもフロイトも又『雪国』の住人だった事には変りないないの
だけれども。
兎に角、雪国から脱出するにはあんな買春男の元彼でもいいか
ら共犯者が居ないと駄目なのよ。それはフロイトの連れてくる
治療者じゃないのよ。だってフロイトが連れてくるのは雪国の
人間でしょう。そんな人と樹氷について語ったって意味ないん
だよ。
元彼に連れられて雪国から出れば、街はただの街になるんだか
ら。もうプラのぷちぷちみたいにぎらついたりしないんだから。
…私の元彼ってね、北関東出身のDQNで、セルシオのトランク
に落書きスプレーとか木刀が積んであるんだけれども、セルシオっ
てプラのぷちぷちみたいにぎらつく感じでしょ? だって、秀才
の血と汗の結晶だもの。だけれも私の元彼ったら、なんていうの、
バネみたいなの、サスペンション? ああいうのって国立大出身
のエンジニアが何万キロも走行テストを重ねて、これが完璧だっ
ていうセッティングがしてあるんでしょ? そういうのをそこい
ら辺の町工場でぶった切っちゃうんだから。でもあの頃は楽しかっ
たなぁ。休みの日にはオートバックス朝霞店に行って。あのゴム
のにおいとか車の香水の匂いにまったりするのよね。カーナビの
コーナーでパイオニアとケンウッドとどっちがいいかなぁとかい
じくって。それから表に出ると空気が冷たくて、でもセルシオに
乗ると又オートバックスのゴムの匂いと香水の匂いがして、外環
に出るともうアクセル踏みっぱなしで、美女木から首都高に乗っ
て、池袋線でしょ、環状線でしょ、湾岸線でしょ、レインボーブリッジ
を通って千鳥までぶっ飛ばして、ハウスやソウルのリミックスを
がんがんかけて、パイオニアのナビは低音もばっちりだし…。で
もこうやって今思い出すと又ぎらぎらしだす。キルケゴールだっ
たら『反復』は傷つかないとか言うんだけれども。つまり思い出
だったら失敗がないから安心してまったり出来るって。でもそう
じゃなくて、風邪をひいた時って詩人みたいになるでしょう、あ
れと同じで立ち止まると樹氷の様に輝きだすのよ。そんで3日も
すれば立派なひきこもりになるの。だからあなた」とヨーコさん
は俺を指さした。「ひきこもりから脱出したかったらまず『雪国』
から脱出しないと。でも今はまだ雪国にいるんだからあなたのや
るべき事は」と言ってヨーコさんが教えてくれたひきこもりから
の脱出法は次の如くである。「その1。まだ『雪国』にいるひき
こもりの生き方。ひきこもりは誰にでも起こるわけじゃないの。
夢見がちな親と夢見がちは子供の間でおこるのよ。その夢ってい
うのは枯れ木にくっついた樹氷の様なものだけれども、世界はこ
うだったらいいなあ、自分の子供はこうだったらいいなあ、みた
いなもの。だからまずこれ以上樹氷が膨らむような餌を与えるべ
きじゃないのよ。親にね。だからといって逆に、ぼくはこんな枯れ木
ですよー、なんて承認を得ようとするべきでもない。だって向こ
うは樹氷を信じているんだから、そんな事したって無駄でしょ。
その2。兎に角『雪国』からの脱出する事。それでそれをしたかっ
たら雪国にいる治療者に頼んでも駄目なのよね。トンネルの外に
いる誰かに手引きしてもらわないと。そうやって兎に角一回雪国
の外に出てしまえば、それはもう、そもそも雪国の住人に理解し
てもらう必要なんて無かった事に気が付くわよ。だってあの人達
は樹氷が氷だって知らないんだから。そんな人達にリスカして見
せたってどうしようもないじゃない。せいぜい「お母さん、あん
たの見ているものは子供でも旦那でも世の中でも、ぜーんぶ雪の
結晶なんだよ。その内、溶けちゃうんだよ」と言うしか…、いや
いや、そんな事言う気にもならないな。気にならなくなるよ。あ
の人達がどう思っていようとも気にならなくなる筈。その3。ツンデレ
はスルー。雪国から出てきても樹氷を信じている様な奴は結構多
いのよねぇ。だいたい世の中の20%ぐらいはそうかなあ。そう
いう人達は自分の脳内イメージ通りにこっちを動かそうとするわけ。
箸の上げ下げを指図するみたいに、ああしろこうしろ言ってくる
の。赤あげて、白あげて、赤下げないで白さげない、みたいに言っ
てくるの。そこで「人間が違うんですよ」とか言っても無理なの
よね。もう馬鹿に付ける薬は無いと思ってスルーするしかないの
よ」と言うと「ふぅ」とため息を付いた。
「確かに」と俺は言った。「俺があの掲示板で、多分これは受け
るだろう、と思ったのも、あれも樹氷だったかも知れないなぁ。
ネットだと相手が見えないから相手だと思っているのは俺が妄想
している樹氷でしょ。それに向かって、これは受ける、と思って
もKYになっちゃうよねぇ。でもこうやってスカイプで話してい
れば、ちょうどいい感じでコミュニケーションできるものね」と
言うとヨーコさんはしばらく沈黙した後、
「分からない」と言った。
「ええっ。ちゃんとコミュニケーション出来ているでしょ?」
「さぁ」





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