AWC 遅れてきたともだち【前】     悠木 歩(ゆうき あゆむ)



#264/598 ●長編
★タイトル (RAD     )  06/05/27  14:28  (352)
遅れてきたともだち【前】     悠木 歩(ゆうき あゆむ)
★内容                                         06/05/27 22:15 修正 第2版
遅れてきたともだち
                      悠木 歩(ゆうき あゆむ)


 広い広い宇宙の中にあって、それはとても小さかった。
 惰性で流れて行くそれは、空間に漂う岩石やごみの類と何ら変わりないもの
だった。宇宙船、かつて人がそう呼んだもの。それもとびきり小型のものだっ
た。
 いまはただ漂うだけ。その機能はとうに失われてしまったかに見えた。
 それが、突然に動力を動かし始める。慣性の法則に従い漂っていただけの船
体が、ほんのわずかだが向きを変えた。
 どうやら何か目的のものを見つけたようだ。



 今日はあさから、とてもにぎやかだった。
 村じゅうのおとなたちが学校の前にあつまって、なにか話しあいをしている。
「学校、中止かな?」
 そう言ったのは、黒い肌のギニア。ぼくたちの中では、一番の力もち。ほか
の運動も、ぜんぶ一番かな。でも一番って言ったって、五人しかいないんだけ
ど。
「たんけん隊を出すのかしら」
 鉄棒で逆上がりして言ったのは、ロス。きんいろの髪がきらきらと光った。
彼女も運動がとくいなのはいいけど、パンツが見えたよ。
「私は学校があったほうがいいなあ」
 読んでいた本に、しおりをはさんで閉じたのはマニラ。マニラの肌はぼくと
おんなじ。きいろの肌って言うらしいけど。これってきいろなのかな?
「私も。学校がないと、一日じゅう、家の手伝いだもの」
 これはシドニー。シドニーの肌はロスとおんなじだけど、髪は黒いんだ。
「ぼくんちもだよ。けどさ、たんけんなら、連れていってくれないかな」
 そしてぼくがトキオ。
 ぼくらのほかにも、村には十人ちょっと子どもがいる。でもぼくら五人は、
ほかの子たちとちょっと違うんだ。
 ぼくのお父さんとお母さん、それから先生、それにほかのおとなの人たちみ
んな、「ちきゅう」って星で生まれたんだ。でもその地球はもうない。この世
からなくなってしまった。
 地球には、たくさんの人が住んでいたんだって。この村の百倍の百倍の、百
倍より、もっとたくさんいたんだって。
 そのたくさんの人たちが、地球からいっせいに逃げだした。何億って数の宇
宙船にのって。
 あっ、宇宙船って知ってる? 空をとべる、大きな船のことさ。星の海をお
よぐ船だから、宇宙船。
 その何億って数の宇宙船は、みんなちがう方向にとんだ。だって、地球以外、
人の住める星がどこにあるのかなんて、だれも知らないから。みんなが違うほ
うへとべば、どれか一つは人の住める星につくかも知れないから。
 お父さんたちが、この星をみつけるまで、やっぱり何年もかかったんだ。そ
の宇宙船の中で生まれた子どもが、ぼくたち五人なんだ。だから、ぼくたちを
スペースチャイルドなんてよぶ人もいるよ。
 だけど、ほんとうは、もっといたんだよ。
 みんな死んでしまった。長いあいだの宇宙船での生活は、みんなを弱らせた。
だって食べものはどんどんへってくるし。運動もあまりできないし。
 弱い子どもから先に死んじゃったんだって。子どもだけじゃないよ。おとな
の人たちもたくさん死んだ。そして食べものがあとちょっぴりになって、もう
だめだってみんなが思ったとき、この星をみつけた。
 星におりるときにも、たくさん人が死んだらしい。長い旅をして、ぼろぼろ
になった宇宙船で、空気のある星におりるのは、ものすごくたいへんらしい。
 この星におりたとき、生きていたのは三十人ちょっと。この数が多いのか、
少ないのかぼくにはわからない。だって、いまの村の人の数より、たくさんの
人なんて、ぼくは見たことがないんだもの。
 ああ、ぼくたちののっていた宇宙船?
 それは村から南にずうっといったところの海に沈んでいるよ。
「聞いて下さい」
 話し合いがまとまったらしい。村のみんなに向けて、先生が大きな声でいっ
た。ぼくたちはおしゃべりを止めて、耳をかたむける。
「昨夜の流星の正体を確認するため、人を送ることにしました」
「やっぱりたんけん隊だって」
 ロスはちょっぴりこうふんぎみ。
 ギニアは手でガッツポーズを作っていた。
 ぼくらがメンバーに選ばれるわけ、ないのに。
「それじゃ船長、昨晩のあれは………」
 だれかが言いかけると、先生がくちびるに指をあてた。しゃべるな、って合
図。
 船長っていうのは、先生のことだよ。先生は、ぼくたちの乗っていた宇宙船
の船長さんだったんだ。だからいまでもおとなの人は、先生のことを船長って
呼ぶ。
 それから、さくばんのあれ、っていうのは流れ星のことだと思う。
 昨日の夜おそくに、大きな流れ星があったらしいんだ。残念だけど、ぼくは
見てない。だってその時間は、ぐっすりとねむっていたから。
 でも音はきいたよ。
 どーん、って言うのか、ばーん、って言うのか。とにかくものすごい音。そ
れで目がさめた。
 ギニアは見たんだって。さっきまで、じまんしてたよ。
 夜中、ちょうどトイレにおきたとき、窓から見えたって。
 夜なのに、まわりが昼みたいに明るくなったんだって。
 それから、大きな光のかたまりが西のほうへおちていった。よく見る流れ星
の百五十倍はおおきな流れ星だったらしいよ。百五十倍、っていうのがよく分
からないけどね。
 とにかくいままで見たこともないくらい、おおきな流れ星。ぼくは音しかき
いてないけど。それにはなにか、秘密があるみたいだ。先生や、ほかのおとな
の人たちは、それを知っている。なんだかぼく、わくわくしてきたよ。
「ドクター、お願い出来ますか?」
「わかりました」
「ありがとうございます。ではあとは………」
 ドクターっていうのはお医者さんのこと。やっぱり何かある。だっていまま
でのたんけん隊に、ドクターが選ばれたことなんてないんだよ。もしドクター
のいないあいだに、村のだれかが病気やけがをしたら大変でしょ?
 それから先生は、つぎつぎとたんけん隊のメンバーを選んだ。ぜんぶで七人。
すごい大部隊だ。
 村の人口は五十人。せいかくには五十一だけど。そのうちぼくらや、ぼくら
より小さな子どもが、やく二十人。三十人しかいないおとなのうちの、七人だ
もの。これはきっと、とんでもないことがおきたんだよ。
 たんけん隊には、ギニアとロスのお父さんも選ばれた。ふたりとも、村で一、
二番の体力じまんだ。それからぼくのお父さんも。ぼくのお父さんは、とって
も手先がきようなんだ。ハーモニカはにがてだ、って言うけど。
 これで学校のお休みはけってい。だって三人のお父さんが選ばれたんだもの。
その分、ぼくたちが仕事をしないとならない。
 おとなの人たちは、それぞれに仕事をもってる。けど、自分の仕事だけして
いるわけじゃない。だって村には足りないもの、必要なものがたくさんあるん
だ。みんなが自分の仕事だけしていたら、ぜんぜん間にあわないからね。
 話しあいがおわって、いったん解散。たんけん隊に選ばれた人は、三十分後
に西の井戸に集合だって。
 家につくなり、お父さんとお母さんは大急ぎで準備をはじめた。食べものに
水とう、着がえは一回ぶんだけ。ドクターがいるから心配ないけど、くすりは
ねんのため。それから、村にはまだ三ちょうしかない「鉄ぽう」
 これ、お父さんがつくったんだって。
「命中精度は、まだまだだ」
 って言ってたけど、すごいでしょ。
「ねぇねぇ、こんどのたんけんは、どのくらいかかるのかな?」
 準備しているお父さんを見ていると、なんだかぼくのほうがこうふんしてく
るよ。
「探検じゃなくて、調査なんだけどな」
 そう言って、お父さんは笑う。
「片道でおよそ二日。場合によっては向こうで一日、二日は滞在するかも知れ
ない。まあ、五日から六日ってところだろう」
 ああ、いいなあ。
 ぼくもはやくおとなになって、村のそとを探検してみたい。
 村のそとには、危険などうぶつがたくさんいて、ぼくたちこどもは、めった
に出れないんだ。
「いいか、お父さんの留守中、お母さんの言うことをよくきいて、家の手伝い
をしてくれよ。一日一回は畑の様子を見てくれ。ああ、それから勉強もするん
だぞ」
 どうして勉強が必要なのか、ぼくにはわからない。けど、ここはすなおに、
返事をしておく。出発まえのお父さんを心配させるなんて、できないからね。

 それから時間になって、お父さんたちは西の井戸のまえにあつまって、それ
から出発していった。学校の前で話しあいをしたときとおんなじで、村の人た
ちほとんどあつまっていたよ。
 お父さんを見おくるお母さんは、なんだか心配そうな顔をしていた。寂しい
のかな、悲しいのかな。
「気をつけて」
「無理はするなよ」
 そんな声がかけられ、お父さんたちは出発していった。そしてたんけん隊の
姿がすっかり見えなくなると、あつまっていた人たちもかいさん。それぞれの
仕事にもどるんだ。
 ぼくも家に帰ろう。そう思ったときだった。
「トキオ、トキオ」
 だれかが呼んだ。ギニアだ。ほかの三人もいる。
 それともう一人、あれはギニアの妹のリリィ。
「なに、どうかしたの?」
「こんにちは、トキオ」
 ぼくがみんなのところに行くと、リリィがあいさつをしてきた。両手の指で、
スカートをつまんでもちあげるんだ。そんなあいさつをするのはリリィだけ。
ほかの誰もしないよ。むかし、地球のレディって人たちがしていたあいさつら
しい。
「うん、こんにちは、リリィ」
 ぼくは、ふつうにあいさつした。
「それで、どうしたのさギニア。ぼく、これから畑のようすを見て、それから
まき割りしなくちゃならないんだ」
「それがさ、リリィのやつ、先生たちの話を聞いてたらしいんだ」
「えっ」
 ぼくは、リリィのほうを見た。リリィは、にこって笑う。
「そう、ビッグ・ニュースなの」
 なんだかリリィの顔は、とっても自慢そうだった。
 先生たちのようすで、子どもにはしらせたくないことがあるのは、ぼくにも
分かる。実を言うと、ぼくもそれを知りたくてたまらなかったんだ。
「昨夜の流れ星、あれな、宇宙船かもしれないんだって」
「あーん、あたしがいおうとおもってたのにい」
 ほほをふくらませたリリィが、ギニアの背中を、ぱんぱん、って二回たたい
た。
 でもそれって、ほんとうにビッグ・ニュースだよ!
「あのね、あたしね、あのとき、きょうしつにいたの」
 あのとき、っていうのはたぶん、おとなの人たちが話しあいをしていたとき
のこと。
 リリィは最近、学校にかようようになったばかり。学校が楽しくてしかたな
いらしく、いつも一番で来ているよ。兄妹で、いっしょに来ればいいのにね。
「それでね、きょうしつにいたら、せんせいたちのこえがきこえたの」
 昨夜の流れ星、小さな宇宙船が「たいきけんとつにゅう」っていうのに失敗
したときの感じとにているんだって。もし、そうだとしたら、たいへんなこと
だよ。
 ぼくたちの、ううん、お父さんたちのほかにも、地球で生まれた人たちが、
この星に来たのかもれないんだ。
 でもぼくたちがそうだったのと同じように、ちゃくりくのしっぱいで、たく
さん人が死んでるかも知れないって。もしかしたら、ぼくたちのときより、ひ
どいかも知れないって。
 そうか、だからドクターもたんけん隊にはいってたんだ。生きてる人がいた
ら、きっとおおけがをしてるだろうからね。
「子どももいるのかしら」
 シドニーが言った。
 そうだね、ともだちがふえるとうれしいな。
「男がいるといいよな」
 これはギニアだ。
「あら、どっちだっていいじゃない」
 あれ、ロスはちょっと怒ったのかな。
「へへん、女にはわからない、男のあそび、ってのがあるんだよ。な、トキオ」
 ぼくはちょっぴりロスに気をつかった、小さくうなづくだけ。でもたしかに、
この村にぼくと同い年の男の子はギニアだけ。男同士のあそびが出来るなかま
がふえたらいいよ。
「でも、だれも生きていないかもしれないのよ」
 マニラの一言で、ぼくたちはみんな、だまってしまった。

 それから、お父さんたちが帰って来るまで、ぼくはおちつかなかった。
 村のそと、森にはきけんがいっぱいだからね。お父さんたちがぶじに帰って
来ますようにって、ずっとお祈りしてたよ。
 それと新しいともだちが出来たらいいな。どんな子たちなんだろうって、い
ろいろ想像したんだ。だけど、宇宙船の人たちは死んでしまったかも知れない。
だれも死んでませんように。
 ああ、そうか。それより先に、流れ星が宇宙船だって、きまったわけじゃな
いんだ。
 とにかく、お父さんたちが帰って来ないと、なんにもはじまらないよ。

「調査隊が戻って来たぞ」
 だれかが村じゅう、大声をだしながら走っていく。出発して五日めに、お父
さんたちは帰って来た。
 出発のときと同じ。
 西の井戸の周りに、村のみんながあつまった。もちろん、ぼくと母さんもね。
 たんけん隊にえらばれた人の家族は、優先てきにみんなの前で待てるんだ。
 あ、見えてきた、お父さんたち。
 みんなが歓声をあげた。とってもにぎやか。
 ひい、ふう、みい。
 ぼくは見えてきた人のかずをかぞえる。
 はなれていたって、お父さんがいるのは分かったけどね。ほかの人たちも、
無事に帰って来たか、かぞえるんだ。
 いつ、む、なな。
 うん、ちゃんと七人いたよ。
 あれ? 七人しかいない。
 だって、あの流れ星が宇宙船だったら、帰りは七人よりふえているはずだよ。
 ちがったのかな。
 みんな、死んでしまったのかな。
 そう思って、ぼくとおんなじに一番前で待っていたギニアとロスに話しかけ
ようとしたときだ。
 喚声がやんだ。
 ロスのお父さんとドクターが、くちのところで、指を立てたんだ。
 静かに、って合図。
「見て、トキオ。あなたのお父さんの背中」
 ひそひそ声のロスに言われて、ぼくはお父さんの背中のほうを見た。
 あっ、誰かをおんぶしている。子どもみたいだ。

 ぼくたちは、学校に来ている。先生にそうしなさい、って言われたの。
 村じゅうのみんな、ぼくのお父さんと先生とドクター以外の人たち、ほとん
どみんなが教室にあつまったんだ。
 教室はよくおとなの人たちの会議に使われるんだけど、子どもも入れてみん
ながあつまるなんて、めずらしい。
 いすには子どもと女の人たち。男の人たちは、立っている。それでも教室は
いっぱいで、ろうかに立っている人もいる。
 お父さんがおんぶしていたのは、女の子だった。たぶん、ぼくたち五人とお
なじ歳くらいかな。
 その子は眠っていた。だから静かに、って合図したんだね。
 いつもは七人だけで、広く感じる教室も、村じゅうの人があつまると、とて
もせまく感じる。
 七人っていうのは、ぼくたちスペースチャイルドとリリィ、それからロバー
トって男の子。
「ひとり、だったね」
 一番前の席にすわっていたリリィが、ふりむいて言った。ぼくたちは六人、
近くにすわっていたんだ。ロバートは、はなれたところでお母さんとすわって
る。それから、ロスにはリックって弟がいるけど、やっぱりお母さんの近くに
いるみたい。
「あの子、地球人なのかしら」
 つぶやくみたいに言ったのはマニラだ。目はひらいた本を見ているけれど、
たぶん読んでない。
 地球人、ってなんだかぼくたちにはピンとこない。
 だってお父さんやお母さんは、地球で生まれた地球人だけど、ぼくたちはち
がうもの。あれ、そうだ。あの子、ぼくたちと同じくらいの歳だったよ。それ
ならきっと、地球で生まれたんじゃないはずだよ。
 そのことを、ぼくが言おうとしたときだった。
「船長だ」
 だれかの声。教室のみんなが、しずかになった。
 それから少しして、お父さんと先生、それとドクターが教室にはいってきた。
あの子はいない。
「皆さんに事情を説明しましょう」
 いつもと同じ。先生のおだやかな声。
 先生は、ゆっくり、教室じゅうを見まわした。
「子どもたちには秘密にしていましたが、どうやらすっかりと知れ渡っている
ようですね」
 そう言って先生は笑った。ぼくは、ううん、ぼくだけじゃなく、ギニアもロ
スも、マラらもシドニーも、先生の笑顔がだい好きなんだ。
「あれはもう、六日前になりますか………深夜に大きな流星が見られました」
 ギニアが見たやつだ。
「この村で大きな流星がみられたのは、三度目です。ですが、それはいままで
のものと少々違いました………ほんの一瞬の出来事ではありましたが、明らか
に人工物、即ち、宇宙船の姿を、多くの人々が見たのです」
 やっぱり、そうだったんだ。
 ぼくは、つばをごくんって、飲みこんだ。
「私たちはまだ、私たちの故郷の星以外に知的生命体の存在を知りません」
 いつもは分かりやすい言葉で話してくれる先生なのに、今日はちょっとむず
かしいよ。「ちてきせいめいたい」ってなんだろう?
「つまり、言葉を話したり、道具を作ったり、人間みたいな生き物のことよ」
 マニラがそっと教えてくれた。
「あるいは私たちと同時に故郷を離れた、何億、何十億の宇宙船のうちの一隻
が、この星に辿り着いたのかも知れない。それを確かめるため、調査隊を出し
た訳で」
 そこまで言って、先生はお父さんのほうをみた。それから頷いたんだ。そう
したら、お父さんは、先生と場所を入れかわった。ここからは、お父さんが話
をするみたい。
「落下地点までは、丸二日、掛かりました」
 なんだかお父さん、少しきんちょうしているみたい。あれ、お父さんのきん
ちょうが、ぼくにもうつったみたいだよ。
「確かに宇宙船はありました………ただ予想はされましたが、それは大きなも
のではなく、大型の宇宙船に搭載された、小型の脱出艇でした」
 お父さんは、くちびるをぺろってなめた。
 きんちょうのせいじゃなくて、なにか考えているみたい。
「それは直接、人が操縦するタイプではありませんでした。いわゆる、コール
ドカプセル搭載機でした」
 少し、むずかしい言葉が出てきた。
 でもぼくは、ちゃあんとわかったよ。
 コールドカプセルっていうのは、人を冬眠させておくきかいのこと。ずうっ
と前に先生が教えてくれたんだ。
 あれ? ギニアは覚えてないのかな。へんな顔をしているよ。だから今度は
ぼくが、そっと教えてあげた。
 でも結局、お父さんの話で、あまりくわしいことは分からなかった。
 あの女の子ののっていた宇宙船で、なにか大きな事故があったらしいこと。
 それであの子だけが、コールドカプセルのついた船で脱出したらしいこと。
きっと、あの子のお父さんとお母さんが、やったんだと思う。
 あ、そうそう。あの子はやっぱり地球人なんだって。
 ぼくはあたり前のことだと思ったけど。あとでお父さんが言ってた。
 宇宙はとっても広いから、べつの星にぼくらたちと同じすがたの人間がいて
も、おかしくないんだって。もしかしたら、ここに地球の人が来るより、べつ
の星の人が来るかくりつのほうが高いかも知れないんだって。
 いまはこれだけしか、分からない。
 あの子、まだあんまり話してくれないらしいんだ。
 しかたないよね。
 きっとこわい思いをしたんだ。まだショックなんだよ。
 名前は分かった。
 リンダ・ロンジェクトだって。
「関係があるのか、偶然なのか、船体にはロンジェクト・カンパニーのエンブ
レムがありました」
 お父さんの説明に、おとなの人たちは、おどろいていたみたい。ぼくたちに
は、ぜんぜん分からなかったけど。あとで聞いたら、ロンジェクト・カンパニ
ーっていうのは、地球にあった大きな会社の名前なんだって。
 会社っていうのが、どんなものなのかは知ってるよ。先生に習ったから。
 だけどなんで、おとなの人たちがおどろいたのか分からない。だってこの村
に、会社なんて何もないんだもの。
 あ、だけどぼくたち、ううん、ぼくをおどろかせることがあったんだ。
 それはあの子、リンダを家で預かることになったこと。
 預かる、って言ったって、いつか帰っていくわけじゃない。だってリンダの
お父さんやお母さんは、ここにいないんだよ。どこかにいるのかも知れないけ
ど、リンダは宇宙船で来たんだ。歩いて行けるところじゃないことは、確かで
しょ?
 分かってるよ。
 分かってるんだ。
 こんなこと、言っちゃいけないって。
 でも………
 最近、ぼくんちは、少し広くなったんだ。たぶん、それがリンダを預かるこ
とになった理由。
 みんなこの星での生活にはなれたけれど、まだまだ村ではやらなくちゃいけ
ないこと、作らなくちゃいけないものがたくんさんある。だから、まだどこの
家も、そんなに大きくないんだ。でもぼくんちは、最近部屋を増やした。お父
さんが、ぼくの部屋を作ってくれたんだ。リンダが来たら、きっとその部屋は
………
 ごめんなさい、ぼく悪い子だね。
 誰か困っている人がいたら、みんなで助ける。
 それが一番の村のルールだもんね。





#265/598 ●長編    *** コメント #264 ***
★タイトル (RAD     )  06/05/27  14:29  (326)
遅れてきたともだち【後】     悠木 歩(ゆうき あゆむ)
★内容                                         06/05/27 22:18 修正 第2版
 先生たちの話が終わって、ぼくとお父さんと、それからドクターとでリンダ
をむかえにいった。ほかのみんなはそれぞれの仕事や家に戻った。ほんとうは
みんな、リンダにすごく興味があるんだけれど、彼女がここでの生活になれる
まで、なるべく普通にしていよう、ってなったんだ。
 リンダはドクターの診療所にいる。診療所は学校のすぐちかく、歩いて三十
歩くらいのところにある。
「リンダ、入るよ」
 ドクターが病室のドアをノックしてから開けた。
 三つ並んだベッドの一番窓がわに、女の子はいた。寝てるんじゃなく、外を
見ていたよ。でもぼくたちに気がついて、こっちをむいた。
 ロスとおなんじ、きいんろの髪をしていた。外の光できらきらしたよ。きれ
いだなあ、ってぼくは思った。ロスよりも長いかな。
「やあ、リンダ。私のことは分かるね?」
 お父さんがリンダに話しかける。
「正式な自己紹介はまだだったかな。私はフジサキ、ケイジ・フジサキだ。あ
あ、この子は私の息子でトキオ。仲良くしてやってくれ」
「よ、よろしく」
 お父さんに紹介されて、ぼくは慌てて右手をだしたんだ。ものすごくきんち
ょうしたよ。だって、この村の人たちは、ほくが生まれた宇宙船にいっしょに
のっていた人たちか、この村で生まれた子しかいないんだよ。初めての人とあ
うなんて、初めてのことなんだもの。
 それなのに。
 リンダはちらって、ぼくたちを見ただけ。そしてすぐ、また窓のほうに顔を
むけたんだ。
 すごくきんちょうしていたぶん、ぼくはすごく頭にきた。そんなぼくの頭に、
お父さんはぽん、って大きな手のひらをのせたんだ。
 ぼくはお父さんの顔を見上げた。お父さんはぼくに微笑んでいた。なにも言
わなかったけど、おこっちゃいけよいよ、ってことだと思う。
 うん、きっといろいろあるんだよね、リンダにも。………よくわからないけ
ど。
「私はリンダ、リンダ・ロンジェクト。助けて頂いたことには感謝しています。
父も充分なお礼をするはずです。ですから、早く私の家に連絡してください」
 はじめてきいた、リンダの声。なんだかすごく、興奮しているみたいだけど、
きれいな声だった。
 お父さんとドクターは、びっくりしたみたい。二人で顔を見合わせたんだ。
なにかを目で合図してから、お父さんはリンダに言った。
「ああ………リンダ。すまないが君の生年月日を教えてくれないかい?」
「えっ? ええ、西暦…………」

 あれからリンダは、ずっと黙ったまま。
 いまはもう眠っている。それは診療所のベッドじゃないよ。ぼくの家で一番
新しい部屋の、一番新しいベッド。ぼくの部屋のぼくのベッドで眠っている。
診療所でお父さんと話をしてすごく興奮したみたいだし、疲れていたんだと思
う。ぐっすりと眠っている。
 ぼくとお母さんは、リビングのテーブルの前にすわってる。その前にはお父
さん。
 リンダのことで話があるみたい。
「んーどう、話せばいいのかな………」
 お父さんは、なんだかとても困った顔をしている。
「トキオ、お前はリンダの誕生日を聞いたな?」
「うん、お父さんが質問したのでしょ。ちゃんと聞いてたよ」
 でもほんとのこと言うと、よくわからなかったんだ。
 せいれきってリンダは言ってたけど。たしかそれ、むかし、地球で使った年
の数えかただって学校で習ったけど。村で使っている年の数えかたとは違うん
だもん。
 だけど、だいたいの見当はつくさ。
 だってリンダはどう見たってぼくとそんなに変わらないもの。たぶん、十年
くらい前の誕生日だよ。
「彼女、リンダはトキオより年上だ」
 お父さんには、ぼくの考えが分かったのかな? そう言った。
「年上って、一つくらい? まさか二つ?」
 ぼくがそう言ったら、お父さんはへんな顔をして笑ったんだ。
「リンダは………そうだな、母さんと同い年なんだよ」
「えっ」
 相変わらず、お父さんの冗談はあんまり面白くない。そう思ったよ。でも違
った。お父さんは冗談を言ったんじゃなかった。
 むかしむかし。
 お父さんとお母さんが知り合う前。
 二人ともまだ子どもだったころ。
 二人とも地球に住んでいたころ。
 地球である事件があったんだって。
 ロンジェクト・カンパニーっていう大きな会社の、会長さん、えっとつまり
とってもえらい人の家族が宇宙旅行に出かけたんだって。
 半年のよていの旅行。
 でもよていの半年たっても会長さんの宇宙船は帰って来なかった。
 一年、一年半たっても帰らない。連絡もない。
 遠い宇宙までいったその船のこと、調べようもない。
 遠い宇宙って言っても、この星ほどじゃないらしいけど。
 結局、地球の人みんなが地球から逃げ出すまで、会長さんたちがどうなった
のか分からなかった。何か事故にあったんだろうって、みんなは思ったらしい
よ。
 その船に乗っていた会長さんのまご娘がリンダなんだって………そのころの
お母さんとリンダは同い年だったんだって。
 でもベッドで寝ているリンダはどう見たって子ども。だれが見たって、ぜっ
たいお母さんと同じ年なんて思わないよ。
 でもそれはこう言うことらしいんだ。
 会長さんたちの宇宙船は、なにか大きな事故にあった。きっと宇宙船がもう
ダメになってしまうような事故。
 それでのっていた人たちは宇宙船から脱出しなくちゃいけなくなった。だか
らリンダはコールドカプセルに入っていたらしい。
 本当は地球へむかっていくはずだったカプセル。けど地球にはつかなかった。
 地球がなくなっちゃったせいか、それとも初めから方向を間違えちゃったの
か。とにかくリンダはカプセルの中で眠ったずっと、宇宙を飛んでいたらしい。
 ぼくくらいの年のお母さんが、いまのお母さんになるだけの時間を。
 ………リンダ以外の人たち。
 会長さんや、リンダのお父さんやお母さん、ほかの乗組員の人がどうなった
のか。それはリンダが話してくれないから分からないって。
 ちょっとだけ、リンダが無愛想なのが分かったよ。
 もしぼくがリンダの立場だったら。
 知らない星、知らない人たちの中でお父さんやお母さんもいない。そんなの、
きっとたえられないと思うんだ。
「ドクターも言っていたが、リンダの精神………心は不安定な状態が続くかも
知れないが、トキオ、守ってやってくよ」
「うん」
 つよく頷いたぼくだけど、ちょっと複雑。
 だってリンダはぼくと同い年だけど、本当はお母さんと同い年なんだもん。

 それから三日後。
 体力も回復したリンダは、今日から学校にいくことになった。
 でも大丈夫かな。ぼくはとっても不安。
 だってこの三日間、リンダは一度もぼくと話をしてくれなかったんだもん。
 予想どおりって言うのかな。
 学校についてからも、リンダは誰とも話をしようとしない。
 もう村じゅうリンダのことは知ってるからね。みんなもリンダを励まそうと、
いろいろ話しかけたんだよ。
 でもリンダはぜんぶ無視。だれにも、一言もこたえない。
 さすがにね、三時間目の休み時間には、だれも話しかけなくなったんだ。あ
っ、でも一人だけ、いくら無視されてもずっと話しかけてる子がいたよ。
 リリィさ。
 学校の中で一ばん年下のリリィだけは、休み時間のたび、リンダのところへ
いっては、いっしょうけんめい話をしていた。
 もっともリンダはなにも話さないから、リリィのひとりごとみたいになって
いたけどね。
「ねえ、リンダのこうぶつはなあに?」
「わたしはね、ママのやいたパンがだいすきなの」
「こんど、リンダにもごちそうしてあげる」
「わたしのおにいちゃんはね、がっこうでいちばんかけっこが、はやいんだよ」
「しってる? せんせいはむかし、うちゅうせんの、せんちょうさんだったの
よ」
 そんなリリィに、ついにリンダが口を開くことになった。でもそれは、リリ
ィやみんなが期待していたのとは、違う形だったんだ。
「いいなあ、リンダのかみ。ロスとおんなじできんいろなんだね」
 そう言いながら、リリィがリンダの髪の毛に手をのばしたときだった。
 ぱあん。
 教室中にひびく、大きな音。
 リンダが、リリィのちっちゃな手をはたいたんだ。
「汚い手で触らないで! 私、二グロってだいっきらいなの」
 リンダの大声には、みんなびっくりした。
 本を読んでいたマニラは顔上げる。
 おしゃべりしていたロスとシドニーもふり返ったよ。
 ニグロ。
 リンダの叫んだ言葉。
 その意味は、ぼくには分からなかった。でもなにか、とてもいやな言葉に感
じたんだ。
「おい、何を………」
 ぼくと話をしていたギニアが、三歩くらい、リリィたち方に進んで止まった。
 妹おもいのギニアだけど、女の子とはぜったいケンカはしない。それがオレ
のポリシーなんだって、前に言ってた。きっと、頭を冷やそうとしているんだ
よ。
「え………あ………うわわわん」
 びっくりし過ぎてたんだろうね。
 しばらくはお人形みたいに動かなかったリリィが、泣き出した。
 でもね、ぼくは見たんだ。
 叩かれたリリィより、叩いたリンダのほうが驚いた顔をしたのを。そして、
すごく悲しそうな顔をしたのを。
 それからリリィが泣き出すと、ぼくたちに背中をむけた。そしてリンダは教
室から、走って出ていった。
「何事ですか?」
 さわぎを聞いて先生が教室にもどって来たのは、少ししてからのこと。

「あのね、せんせ」
 先生に慰められて、リリィはすぐに泣き止んだよ。
「なんですか、リリィ」
 ふしぎだな。
 先生の声を聞いてると、ぼくはなんだかすごく落ち着くんだ。たぶん、ほか
の子たちも一緒だよ。
 村の大人の人たちはみんな、ぼくたちに優しい。でもね、先生のは、ほかの
人たちとなにか違うんだ。お父さんやお母さんの優しさとも違うんだ。
「にぐろって、なあに?」
 リリィが質問した。リンダの言った言葉だ。
 ぼくも興味がある。
 でも先生は困ったような、悲しそうな、変な顔をした。
「知らなくていい言葉ですよ」
 リリィは頭を斜めにした。わからない、ってポーズ。
 ぼくにも先生の言うことが分からなかった。
 そんなぼくたちを見て先生は、はははっ、短く笑った。
「昔、地球にあった言葉です。これからの未来を生きる君たちには、必要ない
言葉ですよ」
 そう言いながら、先生は窓のほうを見ていたよ。
 空を見ているんだ。
 きっともうなくなってしまった星、地球をほうを見ているんだ。
「さてリンダのフォローをしなくてはいけませんね」
 先生はゆっくり立ち上がった。
「悪い言葉は時に、使われた者より使った者の心を傷つけます………うむ、し
かしこれはリンダと同じ女性にお任せするのがいいかも知れませんね。ここは
一つ、マナさんにお願いしますか………」
 マナ、ぼくのお母さんの名前だ。

 その日リンダは部屋にとじこもったまま、出て来なかった。
 学校を飛び出して、すぐうちに戻ってから、ずっとらしい。でもよかったよ。
リンダがどっかにいっちゃったりしなくて。
 そうか。考えてみたら、ほかにいくところなんてないんだっけ………
 先生から話を聞いたお母さんが、部屋にはっていったのは、夜になってから。
リンダが落ち着くのを待っていたんだ。
 けっこう長く、話をしていたみたい。
 どんな話をしているのか、ぼくはとても気になった。リンダの声が聞こえた。
なんだか、泣いているみたい。
 そっとドアに近づいていったら、お父さんにおこられちゃったよ。
 三時間くらいたってから、やっとお母さんが出てきた。あとちょっとでも遅
かったら、ぼくはねむさに負けていたところだよ。
 リンダはもう寝ちゃったって。
 お母さんに話をして、安心したらしい。
 リンダはね、リリィにあんなことを言って、すごく反省していたみたいだよ。
 そしてリンダは、どうしてあんなふうに言ってしまったのか、お母さんに話
してくれたんだ。
 お母さんはぼくにも、その理由を話してくれたよ。
「子どもに話すことではないかも知れないけれど。これからリンダと一緒に生
きていくトキオは、知っておくべきでしょう?」
 そう言ってから。

 地球がなくなってしまうよりも前。
 リンダはお父さんと、お母さん、それからおじいさんと一緒に宇宙旅行に出
かけた。宇宙船はリンダの家のもちもので、たくさんの乗組員の人たちも、み
んなリンダのおじいちゃんが、やとっていたんだって。
 でもその宇宙船で事件がおきた。
 地球からとおくはなれたところで、宇宙船に故障があった。初めはたいした
故障じゃないからって、だれもしんぱいしてなかったらしい。
 でも故障はなおせなくて、それどころかどんどん悪くなって、宇宙船は動か
なくなってしまった。助けを呼びたくても、つうしんきって言う、連絡をとる
ための機械もだめになっていた。
 そして何日も何日もたつうちに、水や食べものがだんだんとなくなってきた。
 リンダのおじいちゃんはえらい人で、みんなからも尊敬されていた。だから
最初のうちは、うまくおじいちゃんがみんなをなだめていた。
 でもほんとうに残りがちょっとになって、おじいちゃんの言うことでも、み
んな聞かなくなったんだって。
 食べものの取りあいがおきたんだ。
 殺しあいだよ…………

 大きな宇宙船には、なにかあったときのため、小さな宇宙船がいくつかある
らしい。どうして最初からそれを使わなかったのか分からない。もしかすると、
何人かの人はそれで逃げたのかも知れない。
 とにかくそのときには、一人だけしかのれないやつが、一つだけあったんだ
って。リンダがのってたやつさ。
 リンダのお父さんとお母さんは、それにリンダをのせた。
 せめて自分の子どもだけでも助けたいって、思ったんだね。
 一緒に残るって言ったリンダをむりやりのせた。それから小さなカプセルが
動き出して、リンダは見てしまった。
 お父さんとお母さんがほかの人になぐられて、血を流しながらたおれるとこ
ろを。
 二人をなぐったのは、肌が黒い人だった………

 ぼくはその話をお母さんから聞いて、心臓がどきどきなったよ。
 涙がいっぱいでた。
 おとうさんは、ぽつりと言った。
 リンダの宇宙船でおきたことは、地球を脱出したたくさんの宇宙船の中でも
おきていたかも知れないって。
 ぼくの乗った宇宙船ではおきなかった。
 でもそれは運がよかったからかもだって。その前に、この星をみつけたから。
 じゃあ、この星をみつけていなかったら?
 ううん、おきなかったよ。だってこの村の人たちが乗ってたんだよ。この村
の人たちはみんないい人だもの。

 リンダがリリィにあんなことを言ってしまったのは、しかたないのかな。
 でもさ、リリィには関係ないよ。リリィが悪いわけじゃない。
 たまたまリンダのお父さんとお母さんをなぐった人と、同じ色の肌をしてた
だけ。
 リンダもわかっている。だから反省していたんだ。
 ぼくは眠る前、お祈りをしたよ。
 リンダと村のみんなが、はやく仲よくなれますようにって。

「お母さん、たいへんだ」
 ぼくはあわててしまった。
 朝、おきたらリンダがいないんだ。
 まさか昨日のことで、村を出て行っちゃったのかな。だけどこの村以外に、
人なんていないんだよ。それに森を子どもが一人で歩くなんて、とってもあぶ
ないんだ。
「あらあら、朝から賑やかね、トキオは」
 それなのにお母さん、ぼくの朝ごはんをテーブルにならべながら、笑ったん
だ。
「リンダならもうとっくに起きて、学校に行ったわよ」
 だって。
 お母さん、なんだかちょっとへんだよ。すごく楽しそう。
 ぼくは大いそぎでごはんを食べた。まだ学校に遅刻する時間じゃないんだけ
どね。リンダのことが心配だし。それにお母さんの様子も気になるよ。
 きっとお母さんは、なにか知ってるんだ。

「ストップだよ、トキオ」
 教室の入り口。ぼくにそう言ったのはマニラだった。
 マニラはいつも早いんだ。となりにはギニアもいた。二人は教室の中をそっ
とのぞきこんでいた。
 ぼくも二人のよこから、教室をのぞいてみた。
 リンダだ。
 リリィもいるよ。
「きのうは、ごめんなさい」
 そう言ってぺこりと頭を下げたのは、リリィだった。
「あの、だから………どうか、その、リリィのこと、きらいにならないで」
 リリィはいまにも泣き出しそう。
 そんなリリィをリンダはしばらく、びっくりした顔で見ていた。それから、
頭をふるふるとふった。
 まさか、リリィをゆるさないって言う気なの?
 ぼくはおどろいたよ。もうリリィの目からは、涙が落ちそうだった。
 けど、違った。
「悪いのはリリィじゃないよ。私が、悪かったの………ごめんなさい、リリィ。
どうか許してください」
 そう言いながら、頭を下げたんだ。
「ヤダ、リンダ、あやまらないで。おねがいよぉ」

 こまったような、でもなんかうれしそうなリリィ。でもリンダにあやまられ
て、こまってるのは、本当みたいだ。
「じゃあ、私を許してくれる?」
 頭を下げたかっこうのまま、リンダはリリィを見つめた。
「うん、だってわたしたち、おともだちだもの」
 リリィはいい子だなって、思った。
 さすがギニアの妹だな。
 ギニアもね、子どもたちの中では一番力が強いけど、せいぎかんも強いんだ
よ。
「ありがとう、リリィ。じゃあこれは、友情のしるし」
 うれしそうに笑ったリンダが、それまでずっと後ろにかくしていた手を前に
出した。その手は、お花でつくった冠を持っていた。そして、リンダは冠をリ
リィの頭にのせた。
 そうか、わかったよ。
 お母さん、リンダといっしょに、あれを作っていたんだな。
「わあ、これをわたしに? ありがとう、リンダ」
 リリィがリンダの首に抱きついた。
 こうして一人、ぼくたちに新しいともだちが出来たんだ。

                    遅れてきたともだち【おしまい】


★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
 トキオたちの村には一人の画家がいます。名前はルベールさん。
 ルベールさんの奥さんは、宇宙船がこの星に不時着したときに亡くなってい
たのです。だからルベールさんはひとりぼっち。
 次回は「青い宇宙と青い海」というお話。






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