AWC 対決の場 11(訂正版)   永山


        
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★タイトル (AZA     )  01/01/12  11:51  (200)
対決の場 11(訂正版)   永山
★内容
 遠山がそのことを問うと、近野は弁解がましく言った。
「待っていていいんだぜ。これは俺の仕事なんだから」
「ここまで着いてきておいて、休んでいられようか。いや、いられまい」
 英文和訳の見本みたいな台詞を口走り、にやりと笑う近野。虚勢を張ってい
る風に見えなくもない。夏を前に、勢いを得つつある太陽が、近野の額に玉の
汗を浮かび上がらせている。
「本当にいいのか」
「話に聞いいただけでは、姿って奴は、俺よりもずっとひ弱なイメージじゃな
いか。負けていられようか。いや、いられまい」
「それはもういいっての」
 苦笑いに相好を崩した遠山。だが、すぐにまた引き締まった。四十メートル
ほど先の木々の間に、人影を見つけたのだ。ひょろりとした色の白い人物。ジ
ーンズ姿に薄手の長袖シャツ、髪を短くして、確かに行動的スタイルではある。
「近野。どうやら、おまえの体力の勝ちのようだぜ」
「それは、よかった」
 うつむきがちだった顔を起こした近野は、低く口笛を吹いた。
「なるほど。麻宮の言っていた通りの風体だ」
「それじゃ早速、“遭遇”とするか」
 喋りをやめると、足音を潜めて気付かれないようなるべく接近する。距離を
半分の二十メートル足らずに縮めたところで、近野が声を発した。
「やあ、どうも! そちらに紙飛行機は飛んで行きませんでしたかねえ!」
「……紙飛行機?」
 最初、怪訝な目つきで振り返った姿は、次に「紙飛行機」という単語が、ふ
と気になったらしい。
「そうです。実は、こいつ」
 と、遠山を指差す。二人して姿にさらに接近しながら、近野は言葉を重ねた。
「連れなんですが、こいつとちょっとした賭けをしました。宿泊代を賭けて、
紙飛行機でどちらが遠くへ飛ばせるかってね。そうしたら、僕の飛ばした飛行
機が、風であらぬ方向へ流され、我々は見失ってしまった。勝負なので、厳正
に判定しなければいけないのに、困ったことに」
「あいにく、見かけていません」
「そうですか、参ったな……。ところで、あなたはここで何を? 皆さんギャ
ラリーへ行かれるのに」
「すでに何度も行っています。一週間前から滞在して、暇を持て余している有
り様です」
 麻宮の話と大きな相違はない。ただ、「暇を持て余している」とはいささか
不自然ではないか。目的があって歩き回っているのではないのか。
「一週間とは優雅な。あっ、名乗りもせずに失礼を」
 友人に突っつかれて、やっと気付く調子のいい男……近野は、芝居気たっぷ
りに演じている。
「僕は近野。彼は遠山。公務員やってます。苦労して長い休みが取れたので、
珍しい場所を訪れたいと思い、ここに」
「……私は姿晶と言います。建築関係の事務所に勤めていたのですが、色々あ
って今はフリー」
 無職の者が個人で生活費を得ているのだとすれば、自営業と称しても一概に
嘘とは言えないか……妙に納得する遠山。一連の事件に姿が関係しているので
あれば、身分を隠そうとするだろうが、今のところ微妙で、はっきりしない。
「よいカメラをお持ちですね」
 即断を避けた遠山は姿に対し、初めて口を開いた。
「ああ、これは借り物で、私には使いこなせてません」
 カメラ好きを装い、糸口を掴もうという心算が、あっさりかわされた。次の
句が出て来ない遠山に代わり、近野が続ける。
「しかし先ほど、ちらとお見受けしましたよ。シャッターを切る格好は、なか
なか様になっていた。プロのカメラマンかと思ったほどです」
 出任せであろう。少なくとも、遠山は、姿がカメラを構えるところを目撃し
ていない。
「格好だけです。芸術鑑賞には興味なくはありませんが、芸術の創造となると、
とんと縁がない」
 自嘲的な響きで言って、姿はより近付いてきた。無表情がシンボルであるか
のように、微笑すら浮かべない。
「あの人は素晴らしいですね。面城氏の作品。もう四度は観ましたが、飽きる
ことがなく、毎回新しい発見がある。ご覧になられましたか?」
「あ、いえ。我々はまだ。宿泊費を賭けて、ギャンブルをするような俗物です
しね。しかし、あなたの言葉を聞いて、楽しみになったな」
 近野の応対ぶりは如才ない。仮に遠山一人で姿晶と対面していたら、不審が
られて話が弾まなかったかもしれない。
「姿さんは、今日お帰りになるのですか」
「いえ。もう一週間」
「それはよかった。差し支えなければ、ギャラリーでの案内をお願いしたいん
ですが、どうです?」
「それはお断りします。芸術は、個人々々が自由に感じるものですから」
 きっぱりした言い方に、鼻白む近野。遠山は、
(我々と付き合って、時間を束縛されたくないからではないか。一人で何か秘
密の行動をしたいのではないか)
 と、心中色めき立った。
 だが、次の姿の言葉で、簡単に覆される。
「その代わり、島内の散策なら、喜んで同行しましょう。歩き回って、七割方
は把握したつもりなんですよ」
「そ、それはありがたいですね。僕は肉体派でないので、どうなるか確約しか
ねますが、こちらの遠山は文武両道を具現化したような奴ですから、喜んで着
いて行くでしょう。――な?」
 近野に背を叩かれ、遠山は前のめりになりかけながらも、「あ、ああ」と応
じる。体勢を立て直してから、改めて言った。
「そのときには、よろしくお願いします」

 別れて二人だけになると、遠山達はギャラリーへ足を向けた。そして、姿晶
を共犯者とにらんだのは考え過ぎではなかったか、という印象を抱くようにな
っていた。
「なあ、近野。教えてほしいことがある」
 近野は無言のまま首を縦に振り、目で先を促した。
「あのパズル――T山どうこうと書かれていたパズルだが、あれの登場人物は
六名でなければならないのか?」
「つまり、T山が五人の女の中から一人を選ぶ形でなければならないのかどう
か、という意味だな?」
 近野は察しがいい。打てば響く。遠山は気持ちよくうなずいた。
「うむ」
「あの問題文なら五人だ。無論、人数を減らすことは簡単にできるが、パズル
として過不足がないのは五だな」
「そうか。じゃあ……ヂエの奴は、俺と関わりのある女性を選んだものの、四
人しか見つけられなかった。そこで五人目には、今日以降の雅浪島滞在が確実
な女性として、姿晶を当てはめた」
「それが当たっているとすれば、ヂエは一週間前の一日、ここに来て、すぐに
帰ったことになる」
「ああ。矛盾はしない。ヂエの第一の犯行は三日だった」
「いや、そういうことが言いたいのではなくてだな、ヂエは一週間前に、姿晶
と接触していた可能性があるんじゃないかってね」
「……そうだな」
 遠山は絶句したあと、認めた。近野の分析に感心するが、それ以上に、自分
の見落としに呆れてしまう。
「すぐ引き返して、尋ねるべきだろうか?」
「うーん、どうやって聞く? 一週間前に変な奴から声を掛けられませんでし
たか、って? 怪しまれる。折角友好的に知り合えたのだから、大事にした方
がいい。焦ることはなかろう」
「そうか。うん、そうだな」
 遠山が簡単に同意したのは、若柴達と会う時刻が迫っていたせいもある。ヂ
エの目があるため、ギャラリー内で知り合い、懇意になるという芝居を経て、
やっとまともに話せるのだが。
「あれ? 麻宮さんが」
 ギャラリーへの入口付近に、麻宮レミが立っている。誰かを探しているらし
く、頭を巡らせている……と思ったら、遠山達に焦点を合わせた。そしてすぐ
には気付かぬようなかすかな手招き。遠山と近野は小走りで駆けつけ、用件を
聞いた。
「今日の船で届いた郵便物の中に、こんな物があったわ」
 すかさず応えて、一通の封筒を取り出す。
 その瞬間、遠山は顔をしかめた。裏面が、黒一色で塗りつぶされている。表
はさすがに白いままだったが、宛名にワープロ文字で麻宮レミ様とあるだけで、
差出人の方は記されていない。消印よると六月五日の朝、東京にある郵便局が
処理したものとされている。
「気味悪かったけれど、すぐに開けて、読んでみたのよ。そうしたら」
 あとは中身を見てとばかり、視線を振る麻宮。手袋をした遠山が封筒を受け
取り、中から便箋を取り出す。
 否。便箋ではなく、B5用紙だった。白地に黒い印字。よくある様式に、幾
分ほっとする。紙は三枚あった。
 上になっていた一枚には、端っこに、「遠山竜虎に見せてください。」との
み書かれてある。
 問題は、二枚目以降だった。
『PUZZLE 以下のクロスパズルを解き、横の8に当てはまる数を求めよ。今後、
その数がキーとなる。
 なお、このパズルにおいて、年は全て西暦で表し、今年二〇〇〇年の話とす
る。また、年齢は満年齢とする。』
 二枚目にはこれだけ。遠山は急いで、三枚目を一番上に持って来た。近野と
一緒になって覗き込む。


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          |8  |  |  |  |  |
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          |9  |  |■■|10 |  |
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縦のかぎ
1:エヌ氏の祖父の生まれた年の十倍
2:エヌ氏の祖父の年齢の二乗に五千を加えた数
3:エヌ氏の結婚した年
5:エヌ氏の生まれた年。エヌ氏の父が二十一のときの子供
7:エヌ氏の結婚した年から生年を引いた数

横のかぎ
1:エヌ氏の兄弟姉妹の人数(エヌ氏自身を含む)の二乗
3:エヌ氏の娘の年齢。無論、結婚後に生まれた
4:エヌ氏の生まれた日の二乗
6:エヌ氏の父が遺した土地の坪数。彼の子供の頭数で割り切れる
8:?
9:エヌ氏の祖父の生まれ月
10:エヌ氏の生まれた月の三乗


「新聞の日曜版で、見たことあるな」
 遠山が苦虫を噛み潰した表情をなし、近野に三枚目を手渡す。近野はハンカ
チで自らの手をくるみ、慎重に受け取った。
「それはクロスワードパズルだな。これは、数を入れていくのだから、言わば
クロスナンバーパズルか」
「解けそうか?」
「今すぐとは行かないだろうが、解いてみせる。おまえにだって解けるさ。こ
の手のパズルは、捻りに乏しく、論理的に詰めていけばいいはずだからな」
「パズルは近野に任せるよ。自分は仲間と自然に合流しなければならんしな。
これ以上、予定を遅らせたくない」
「ふむ、了解。じゃあ、書き写させてもらうとしよう」
 早い筆運びで、手帳に升目と文言を書き込んでいく。急いだ割に、きれいな
文字が並んでいた。図の方も、フリーハンドにしては真っ直ぐな線である。
「よし」
 ペンをくるりと回転させ、手帳とともに仕舞う近野。ヂエからの手紙を遠山
に渡してから、ハンカチを折り畳み始める。
「すぐさま取り組んで、解いてやる。麻宮さん、一人で静かに考えたいから、
どこか部屋を用意してもらえるとありがたいんだが、どうだろう」
「じゃあ――こちらへ」
 旧友同士の顔から、客に対する女主人の顔に変化する。彼女なりに、ヂエの
視線を気にしてのことだろう。
 遠山は近野らから離れ、ギャラリーに入った。入場料を払い、簡単な案内ビ
ラをもらって、足を踏み入れる。思っていたよりも賑やかな空気だった。声高
に話している者こそいないが、ざわめきが漂う。平日というのに、割に客入り
がよい。死角もあるが、ざっと十名ほどか。その中に、若柴と嶺澤もいるはず
だが、まだ見つけられない。

――続く




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