AWC リレー>そして、一つになる・10   担当:ジョッシュ


        
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★タイトル (PRN     )  01/01/04  13:26  (200)
リレー>そして、一つになる・10   担当:ジョッシュ
★内容
 松倉の指摘に全員が息を飲んだ。佐藤へ視線が集まる。
「俺が何をしたって?」ひとり、佐藤だけがきょとんとしている。松倉が言い
にくそうに続けた。
「可能性として申し上げただけで。もし、シャンデリアに何か仕掛けをしてあ
ったということならば、佐藤様がなにかご存じではないかと」
 佐藤の顔がみるみる赤くなった。両手を握りしめて、肩を震わせている。
「おい、松倉さんよ。言いがかりはいい加減にしてくれよ。どうして俺がそん
なことをしなきゃあいけないんだ。それじゃまるで、俺が千葉の奥様に向かっ
てシャンデリアを落としたみたいじゃないか。千葉の奥様には日頃から世話に
なっている俺だ。感謝こそすれ、何の酔狂でシャンデリアを落とさなきゃいけ
ないんだ。あん?」今にも松倉につかみかかりそうな勢いだった。そんな佐藤
に郷野が冷静な声をかけた。
「まあ、待てよ、佐藤さん。松倉さんはなにも君を犯人だといったわけではな
い。ただね、実際にあの重さのシャンデリアが落ちてきた。見たところ、鎖や
金具が壊れた様子もない。だから、茄原さんの言うとおり、誰かが何かの意図
を持って細工をしたのだろうということになる。仕掛けが形状記憶合金だった
かどうかはそこの残骸を調べてみればいいが、犯人の特定までは難しいだろう。
ただ、問題はあれが事故ではなかった、ということだ。これについては佐藤さ
ん、君も認めるだろ」
「ああ。だが、俺は何もしていない」佐藤は吐き捨てるように言った。まだ、
松倉を睨み付けている。郷野はそんな佐藤から注意深い視線を外さないまま、
続けた。
「佐藤さんは照明の準備をしていた。そうなのだろう? それだったら、なに
かあのシャンデリアに関して、変なことに気づかなかったかな。たとえば、位
置が変わっていたとか、何でもいいのだが」
「うーむ」佐藤が唸る。松倉から視線を外し宙を仰いだ。「俺は奥様に頼まれ
て、ガラルームのちょうど真ん中あたりで、ミラーボールを天井から吊す作業
をしていた。ミラーボールというのは中にモーターが仕込んであって、自分で
回転する仕掛けになっているんだが、その動きを調整していたんだ。シャンデ
リアはステージの上にあったから、俺のところからかなり距離は離れていた。
だから、シャンデリアの方にはあんまり注意を払わなかったなあ」
 全員が佐藤の指したミラーボールを見上げた。外面に鏡を貼り付けた大ぶり
のミラーボールがぽつんと天井からぶら下がっている。電源が入っていないの
か、回転はしていなかった。
「ちょっとすまんが・・・」
 茄原だった。「話の途中で悪いがの、シャンデリアの位置だが、松倉さん。
あの落ちたシャンデリアは、日頃から舞台の上に吊してあるのかの。この立派
なガラルームの広さからして、もっと部屋の真ん中にあった方が自然な感じな
のじゃが」
 話を向けられた松倉が姿勢を正す。
「はい。確かに仰有るとおり、いつもはガラルームの真ん中にあります。ただ、
今夜はパーティーということで、中央にミラーボールを取り付けるという事も
あって、数日前にあの位置へ移しました。そういうことは間々ありますもので、
釣り下げのフックやら電源やらはあらかじめ両方に用意されております」
「その工事は誰が?」と茄原。松倉が答える。
「いつも千葉家で使っている地元の電気工事屋です。今日は来ておりませんが、
電話で確認を取ることはできると思います。電話をいたしましょうか?」
「いや、おそらく、その必要はなかろうて」茄原が腕を組みながら、呟くよう
に言った。「ここにいない電気屋に、時間を見計らってシャンデリアを落とす
なんていう芸当ができるとは思えない。それよりも・・・」
 茄原はステージを振り返る。「あのシャンデリアが本当に千葉貴恵さんを狙
ったのかどうかもはっきりしていないのに、あれこれ悩んでも仕方あるまいて」
「え? どういうこと」蒜野有紀がびっくりした声を出した。「だって、シャ
ンデリアは貴恵さんのすぐ側に落ちたのよ」
「うむ、確かにそう見える。だがな、それは表面的なことで、真実は案外、も
っと他のところにあるような気もするのじゃ」
 茄原の思わせぶりな口調に、佐藤が噛みついた。
「おいおい、タクシーの運転手。何が言いたいんだ、あんた。呼ばれもしない
パーティーに紛れ込んだ部外者のくせに、あれこれ口を出して、いったいあん
たに何が分かるっていうんだ」
 郷野がすぐに佐藤をたしなめた。
「佐藤さん、口が過ぎるぞ。茄原さんもこの吹雪と雪崩で帰るに帰れないんだ。
状況は私らと同じさ。もし、殺人犯人がまだこの別荘に留まっているとすれば、
同じ危険に身をさらしていることになる。一刻も早く犯人を突き止めるには、
できる限りたくさんの知恵を出し合った方がいい」
 佐藤は、どうやら郷野に対してだけは素直になるようで、意外とあっさり頷
いて引き下がった。郷野が茄原に向かって話しかけた。
「茄原さん、どうやら何かお考えがありそうですね」
「うむ、まだ完全な形ではないのですがな、なんとなく、違和感のようなもの
が見えるのでな。それがたぶん、この事件の核心ではないかなあと思っておる
のですよ。佐藤さんのご指摘通り、わしらはたまたまタクシーでこの別荘に乗
り付けた部外者です。ですけどな、部外者だからこそ見えてくるものってある
のでな」
「私は部外者じゃないわ」蒜野有紀が口を尖らせた。「仕事で今夜のパーティ
ーの取材に来たのですからね。茄原さんのタクシーに乗り合わせたのは、ま、
偶然だったけど」
「いやいや、お嬢さんも部外者じゃな。残念ながら」
「どうして?」有紀は不満そうだ。そんな有紀に茄原は我が子を眺めるかのよ
うな優しい笑みを浮かべた。
「今夜の事件の犯人から見れば、お嬢さんとわしは予定外の人間だったという
ことじゃ。つまり、パーティーに招待されていたわけではなかったからな。お
嬢さんもあらかじめ、千葉家に取材の許可を取って来たわけではなさそうだし。
だから、犯人にしてみれば、わしらの登場は犯行のシナリオにはなかった」
「そんな取材許可をいちいち取っていたら、スクープなんて書けませんよ」
「そうじゃろうて、そうじゃろうて」
 茄原は楽しそうに有紀の肩をぽんぽんと叩くのだった。

 茄原の勧めで、ガラルームにいた5人はソファーに腰をおろすことにした。
がらんとしたガラルームはシャンデリアの明かりを失い薄暮のように暗くなっ
ていて、気味が悪いくらいだった。5人はステージの見える位置にソファーを
動かし、めいめいに腰を下ろした。有紀が千葉家の用意した飲み物を、銀のテ
ーブルから運んで配った。
「この中には毒は入っていないと思いますけど」
 有紀のジョークに、誰も笑わなかった。
「お嬢さん、今夜はそういう冗談は差し控えて置いた方がいいぞ。みんな神経
が高ぶっておるからな」
 茄原が笑顔でフォローした。有紀はちょっとバツが悪くなって、そそくさと
ソファーに腰を下ろした。
「さあて、タクシーの運転手、あんたの推理を聞かせてもらおうか。どうやら、
なにか掴んだような顔をしているようだから」
 佐藤が目の前の飲み物には手を出さず、茄原に催促した。
「うむ。でもその前にいくつか、断っておきたいのじゃが、よろしいかな」
「どうぞ」他の4人が頷く。
「まず、わしは事件現場に居合わせてはおらん。先ほどのシャンデリアの落下
事件にもだ。だから、わしの話はみな、このお嬢さん、えーと、名前は何じゃ
ったかな」
「蒜野有紀です」
「ああ、有紀さんか。この有紀さんから聞いた話を元にしているという事じゃ。
それからもうひとつ、わしはさっきも言ったとおり、今夜のパーティーに千葉
さんから招待を受けたわけではない。いわゆる部外者じゃ。だから、わしの話
には先入観はない」
「分かったよ。いちいち細かい運転手だな、まったく」
「佐藤さん、わしの名前は茄原じゃ。よろしかったらそう呼んでもらえると嬉
しいが。ま、それはさておき、郷野さん、まず、あなたにお尋ねしたい」
 飲み物を手にしていた郷野は、茄原の問いに飲み物をテーブルに戻した。
「何でしょうか?」
「あなたはこのパーティーに出席するために、わざわざ海外から帰ってこられ
たと聞く。そりゃ本当ですか」茄原の質問が予想外だったのか、郷野は一瞬返
答に詰まった。茄原はそんな郷野の緊張を解きほぐすかのように、すぐに言葉
を継いだ。「いや、有紀さんの話では、あなたは世界的に有名なバイオリン奏
者だとか。そのような郷野さんがわざわざこんな片田舎の別荘で開かれたパー
ティーにお出でになった。それがちょっと気になりましてね」
「おい、運転手・・・いや、茄原さん、それがこの事件とどういう関係にある
んだよ」またまた佐藤が絡む。
「内村友美さんのことが気にかかっているんですよ」
 その茄原の一言に郷野の体が目に見えて硬直した。口を動かそうとしている
が、肝心の言葉が出てこない。佐藤が郷野に代わり、茄原に向かって吠えた。
「内村友美って、おい。茄原、どうしてあんたがウチの生徒の名前を知ってい
るんだ」
「それは、私が教えたからよ」有紀が答える。「私がこの千葉家のパーティー
を取材しようと思いたった理由が、内村友美さんだったからよ」
「どうして、内村がこの事件と結びつくんだ。内村は・・・」
 佐藤がそこで口を濁した。先を有紀が継ぐ。
「内村友美さんは自殺した。理由は公表されていないのでよく分からないけれ
ども、ちょうど海外留学生を選出する校内コンクールの直前だった。私の調べ
では、内村さんと競っていたのが、殺された千葉良香さんだった。でも内村さ
んの自殺で、千葉さんが留学生に選抜された」
 有紀の言葉に佐藤の顔色が変わった。
「つまり、あんたは内村の自殺に良香が関係していると言いたいのか。自分が
留学生に選ばれたいものだから、良香が内村を自殺に追い込んだとでも。ばか
ばかしい」
「ばかばかしいだと!」
 郷野が立ち上がっていた。ぶるぶると拳を握りしめている。目が大きく開き、
白目が怒りで充血していた。「ばかばかしいだと!」郷野はもう一度同じ言葉
を繰り返した。
「郷野さん、座ってください。感情的になっては、話ができません」
 茄原の落ち着いた声に、郷野は自分を取り戻したようだった。そのままがく
んと腰を落とした。
「茄原さん、あなたの言うとおりだ。私はこのパーティーのためにスケジュー
ルを調整して、日本に帰ってきた」呻くような声で郷野が喋り始めた。「それ
は、そこの新聞記者が言うように、内村友美のためにだ。公表はしていないが、
私と友美は婚約していた。高校生ながら友美は、バイオリン奏者として必要な
ものをすべて持ち合わせていた。繊細さ、ひたむきさ、そして天性の才能。私
は友美を愛していた。はっきり言おう。私がここにいる理由を。私の愛する友
美を死に追いやった奴らに復讐をするために、私はここにやってきたのだ」
 最後の方は声が震えていた。
「それじゃあ、あの3人はやっぱり、郷野さんが」
 有紀が口元を押さえながら尋ねた。途端に、郷野が激しく首を振った。
「違う。違うんだ。そのはずだったが、違うんだ。彼らを殺したのが自分だっ
たら、さぞかし今、気持ちが晴れ晴れとしているだろう。しかし、犯人は私で
はないのだ」
「ちょっと待てよ、郷野さん。どうして内村の自殺の原因が、良香や瀬戸山、
竜崎にあるとあんたは確信できるんだ。聞くところによると、内村の遺書には、
自分の将来を悲観しての自殺としか書いてなかったはずだが」
 佐藤の言葉にまたいっそう郷野の体が震えた。
「それは友美の両親が外聞を気にして、そういう説明をしただけで、真実は当
事者にしか知らされていないんだよ。私は自殺する直前の友美から手紙を受け
取ったんだ。そこにはちゃんと真相が書いてあった。そして私は調べた。友美
は卑劣にも、あの3人にレイプという耐え難い屈辱を受けて、コンクール出場
を断念したばかりか、生きてゆくことに絶望するほどのショックを受けたのだ」
 郷野の剣幕に佐藤が黙り込んだ。しばらく沈黙がガラルームを支配する。

 有紀が発言を求めて手を挙げた。茄原が頷く。
「結局、今夜の殺人事件は、単純な高校生同士のケンカだったのかもしれない
と思えてきました。郷野さんの千葉良香やその友人たちへの復讐心が、単純な
事件を複雑にゆがめてしまったのかもしれないと」
「ほう、それはどういうことかな」と茄原。他の3人は黙って耳を傾けている。
「殺人事件ですから、あまり迂闊なことは言えませんが、私にはこれらの殺人
がひとりの人間の仕業とは思えません。殺された3人は同じ高校の生徒でしょ。
たぶん、高校生活で何かの諍いがあって、お互いが殺し合ったというのが一番、
わかりやすいのではないでしょうか」
「うむ、それで」茄原が楽しそうに相づちを打った。
「私の推理はこうです。まず千葉良香と竜崎京太郎、瀬戸山菊子の間には、何
か決定的なトラブルがあって、それはお互いが殺意を抱くほどのモノだった。
パーティーが始まる前に、千葉良香を竜崎京太郎または瀬戸山菊子、あるいは
ふたりが協力して、まず絞殺した。ところが、良香は生前にふたりの部屋に毒
入りのジュースを置いておいた。もちろん殺意を持ってです。犯行を終えたふ
たりは、部屋に戻ってジュースを飲み、死んでしまった。つまり、お互いが殺
し合ってしまい、結果として3人が死んだという形になってしまった」
「とすると殺人犯はもうすでに死んでしまっている、と」
「はい」と頷く有紀。茄原が首を傾げた。
「そうであれば、もう殺人事件は起きないはずだから、安心じゃな。ただ、残
念ながら解けない謎がいくつか残っておる」
「ええ、そうなんです。郷野さんの楽譜が棄てられていたことは、諍いに関係
があったかもしれないにしても、あの高校生たちのズボンが濡れていたことや、
部屋に着替えがなかったこと、松倉さんが受けた奇妙なイタズラの依頼、それ
に、このシャンデリアのことも説明が付きません」
「それからもうひとつ、わしには気になっていることがある。わしらがここへ
やって来る途中にすれ違った車。あれはいったい誰だったのか」
(以下、続きます)




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