AWC 海鷲の宴(20−2)  Vol


        
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海鷲の宴(20−2)  Vol
★内容


 11月29日 0910時

 「機長、見つけました! 8時下方!」
  空母「高雄」所属の彩雲二号機の機内は、敵発見の報に沸き返った。
 「よし、母艦と攻撃隊に打電だ!」
 「後上方、敵機!」
  機長の府川孝秀大尉が命じた瞬間、機銃手の竹下富男一飛曹が叫んだ。府川が振
 り返ると、識別表で頭に叩き込んだF6Fのシルエットが2機、猛然と急降下して
 くるところだった。
 「おいでなすったか。よぉし、ケツまくって逃げるぞ!」
  府川がそう叫ぶが早いか、操縦手の松本一三少尉がスロットルを全開にする。
 「誉」が轟然と唸りを上げて1920馬力の最大出力を絞り出し、三人を乗せた彩
 雲は、最大時速609キロを目指してぐんぐんと加速を始めた。


 同時刻

 「敵偵察機を取り逃がしたそうです」
 「おいおい、ちょっと待てよ。ヘルキャットは2000馬力級の高速機だぞ。マッ
 ケーンのTF49上空にあらわれた奴といい、ゲタバキ一機まともに捕まえられん
 と言うのか?」
  通信参謀の報告に、ハルゼーはぎょっとしたような表情を浮かべた。
 「いえ、水上機ではなく、三座の艦上機だそうです。艦攻のような外見で油断して
 いたら、とんでもない速度で振り切られたそうで」
 「……ちょっと前線を離れている間に、太平洋は恐ろしい場所になっちまったな。
 ジャップの飛行機がそんな高速を出すなんて、世も末だぞ……ったく」
  ハルゼーは舌打ちした。
 「まぁ、逃がしちまったもんは仕方がない。航空参謀、こっちの索敵機からは連絡
 は入っとらんか?」
 「今のところはまだです」
 「よし、直掩機のローテーションを多少繰り上げるぞ。15分後に交替だ。それか
 ら、爆装機の空中退避始め。迎撃体制もいつでもオプションを組めるようにしてお
 け。攻撃隊を出したまま索敵していた可能性もあるからな」
 「イエス・サー」
  即断即決、常に拙速。これ、ハルゼーのモットーである。とはいえ、ハルゼーは
 それだけの男ではない(ただの猪武者に、一個任務部隊の指揮が任されるわけもな
 い)。このときの判断も、素早い判断と、航空戦に関する直感からきたものだ。結
 果的に、これが大当たりすることとなる。
  ……その成否は別としての話だが。


 0915時

 「敵艦隊発見。空母5、戦艦1、甲巡6、駆逐艦16。20ノットにて南下中。我
 敵戦闘機の追撃を受く」
 「よし、航法このまま。敵空母はこの先だ!」
  一航艦各空母から発進した攻撃隊は、烈風108、彗星72、天山72の合計
 252機だった。空を埋め尽くさんばかりの無数の機影が、轟々とエンジンの咆哮
 を唸らせて進撃する。


 0930時

 「『ラ・ヴァレット』より通報! 方位300より敵編隊、200機以上! 距離
 46000、高度5000!」
 「攻撃隊の空中退避急げ! 直掩機もありったけ上げるんだ!」
  ハルゼーが吼える。15ヶ月ものブランクがあるとはいえ、航空戦の勘は全く衰
 えていない。それから攻撃隊が来襲するまでの約10分間に、雷爆装待機していた
 ヘルダイバーとアベンジャー合わせて160機の空中退避は完全に終了し、上空防
 衛のF6Fも、最初から上がっていた直掩機を含めて100機近くに達していた。
 「ようし、どうにか間に合ったぞ! 行け! 奴らを血祭りにあげてやれ!」
  ハルゼーの鼻息は荒い。


  そのころ直掩隊は、見知らぬ日本機に遭遇して面食らっていた。後方に控えてい
 るのは、見慣れた天山だ。隣に群れている複座機も、新型の艦爆だろうと見当はつ
 く。問題は、先陣を固めている機体だった。艦戦としては大柄なヘルキャットを見
 慣れたパイロット達の目にも、こいつは全長・全幅ともヘルキャットよりも一回り
 は大きく見える。パッと見には、新型の艦攻とも思えるのだ。単座機であることと
 編隊の中でのポジションから、戦闘機だろうと予想はつくのだが……
  その迷いが直掩隊の命取りとなった。直掩隊よりもやや高い高度に位置していた
 新型機は、野放図にでかい図体からは想像もつかないような猛ダッシュで一気に距
 離を詰めると、両翼に装備された機銃を一連射してきたのだ。慌てて散開する制空
 隊。この辺りは、両者の練度の差が如実に出た。日本軍の搭乗員は、その大半が中
 支戦線以来前線で制空戦闘の経験を積んできた、超の字が4つも5つもつくような
 ベテラン達だ。それに対して、ここ一年ほどで急激に拡張された米空母航空隊のパ
 イロットは、多くが実戦は初体験だった。さらに、烈風の最高時速は622キロ。
 対するヘルキャットは605キロ。旋回性能といい、パイロットの熟練度といい、
 開戦当初の零戦対ワイルドキャットの力関係が、世代を越えて再現されたようなも
 のだ。おまけに、ダイブで離脱しようとした機体にも、ダッシュで逃れようとした
 機体にも、烈風は悠々と追従することができた。
 「なんだ、こいつらは! ジャップの新型か!?」
 「こんな機体がいるなんて聞いてねぇぞ!」
 「だめだ、ケツにつかれた! 振り切れねぇ!」
 「助けてくれ、エンジンが火を噴いた!」
 「くそっ! 雷撃機並みの図体のくせして、なんて身のこなしだ!」
  無線電話の回線は、米軍パイロット達の悲鳴と怒号で満たされた。いまや制空隊
 は、第50任務部隊上空の制空権を完全に掌握しつつあった。

 「なんてこった……やつら、新型機を投入してやがったのか……」
  双眼鏡を構えたハルゼーがうめく。それほどまでに戦況は悪かった。彼我合計で
 200機が入り乱れる空戦は、完全に日本軍ペースで進みつつある。さっきから、
 黒煙を吐いたり、石のように落下して行くのは、ヘルキャットが殆どなのだ。また
 一機、双眼鏡の視界の中で、急降下に移った機体が後ろから被さるように追いかけ
 てきた新型機の機銃の一連射を食らう。
 「あ、くそっ! 火を噴いて落ちやがった。あれじゃ助からん……」
  「グラマン鉄工所」「空飛ぶ戦車」と呼ばれるほどの頑丈さが取り柄のヘルキャ
 ットだが、今回はその重防御も苦戦気味のようだ。それに、ヘルキャットの十八番
 であるはずのダイブ&ダッシュが、全く通用しない。それでいて新型機の旋回性能
 は、どうも零戦と比べても遜色ないらしい。
 (こいつは……判断を誤ったか?)
  ハルゼーがそう思ったそのとき、見張り員が悲鳴のような声をあげた。
 「直掩隊、突破されます!」
 「対空射撃警報! 全艦火器使用ならびに回避運動自由!」
  反射的に、ハルゼーが怒鳴った。そうだ。今は防空体制の失敗を悔やむよりも、
 艦隊を……空母を守らなければ。


 0940時

  第50任務部隊上空の直掩隊は、あらかた掃討されてしまっていた。烈風の隙を
 突いて彗星や天山への攻撃に成功したヘルキャットもあったが、それらは大抵、怒
 りに燃える烈風の追撃に遭って、ほとんどが叩き落とされてしまった。ベテランを
 中心に、まだ数十機がダイブ&ズームやサッチ・ウィーブを駆使して互角の戦いを
 繰り広げているが、それすらもはや、自分自身が落とされないための戦いとなって
 いた。

 「……? 何だ?」
  ハルゼーを始め、「エンタープライズ」艦橋内の全員が、日本軍機の行動をいぶ
 かしげに見つめていた。直掩機の層が破られたにも関らず、雷撃機が突入してくる
 様子がないのだ。輪形陣の外周付近で艦爆と思しき群が上昇し……
 「まずいぞ!」
  ハルゼーが声を発するがはやいか、日本軍の新型艦爆は、輪形陣の「外周部」を
 狙って急降下を始めた。


 「行くぞ、松下! 目標は正面の駆逐艦!」
  「愛宕」艦爆隊長の式田道秋少佐は、自分自身にも気合を入れるかのように叫ん
 だ。同時に彗星が、「金星」エンジンを唸らせ、ダイブ・ブレーキから空気を切り
 裂く絶叫音を放って、60度の角度で急降下する。開いた弾倉からは、500キロ
 爆弾が投弾される瞬間を待っていた。
 「高度1500……1000……」
  後席の松下吉治少尉が、高度計を読み上げている。照準器の中で柳葉魚のように
 見えていた駆逐艦の細長いシルエットが、ぐんぐん膨れ上がって行く。
 「800……700……600!」
 「テーっ!」
  掛け声と共に投下索を引き、同時に操縦捍を力一杯引っ張る。ガクンという衝撃
 と共に、弾倉からスイングアームに掴まれた500キロ爆弾が放り出され、重力の
 法則にしたがって落下を始めた。

 「これは詐欺だ! なにかの嘘だ! どうして俺達が狙われなくちゃならん!?」
  彗星隊の標的とされた駆逐艦「オバノン」のマーク・バートン艦長は、半狂乱に
 なって喚いた。フレッチャー級駆逐艦の武装は、5インチ単装砲5門に40ミリ機
 銃8丁。魚雷発射管も10門あるが、対空戦闘では役に立たない。上空に向けられ
 る全ての火砲が全力で射撃しているが、悲しいくらいにその弾幕密度は薄い。
  もともと、駆逐艦はそれほどの重武装はしていない。しかも、防御力が極めて貧
 弱であるために戦闘力を喪失しやすく、おまけに輪形陣の外周に位置するために、
 艦艇同士の相互火力支援をもっとも受けにくい艦なのだ。日本軍はそこを突いた。
 あらかじめ命中率の高い爆撃で護衛艦艇の対空火器を無力化して輪形陣に空隙を作
 り、しかる後に雷撃機を突入させて空母を狙うと言う、二段構えの布陣を敷いてき
 たのだ。
  「オバノン」は、それでも奮戦を見せ、急降下中の彗星1機を機銃で撃墜するこ
 とに成功していたが、残りの8機は激しい弾幕をものともせずに突入し、次々と
 500キロ爆弾を投下して行った。

  「オバノン」は、始めの3発は転舵によって回避に成功した。しかし、4発目か
 ら7発目までを立て続けに被弾した。
  最初の一発は艦首甲板を貫通した直後に炸裂し、兵員室や倉庫の隔壁を吹き飛ば
 して艦首近くに巨大な破孔を開け、火災を発生させた。
  二発目は艦橋を真上から直撃し、バートン艦長をはじめとする要員ごと叩き潰し
 て、無数の破片を周囲に飛び散らせた。
  三発目は4番砲塔の至近距離に命中して、直後の5番砲塔ごと跡形もなく吹き飛
 ばし、四発目は第一煙突の脇に落下して甲板を突き破り、右舷機械室を全壊したば
 かりか、左舷ボイラー室にまで大火災を発生させた。
  動力と指揮系統の一切を失った「オバノン」は、輪形陣から脱落し、激しく炎上
 しながらなおも浮いていたが、応急処置程度でこの艦を救うのはもはや不可能で、
 残された乗組員にできることは、弾薬庫に火の手が及ぶか、ボイラーが爆発する前
 に、猛火に包まれた艦内からどうにかして脱出することだけだった。500キロ爆
 弾4発もの直撃には、排水量わずか2000トンの駆逐艦が耐えられるわけもなか
 ったのである。







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