#1007/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (CXJ ) 88/ 5/14 20: 1 ( 90)
真リレーB>第3回 タイムレコーダーへの長い道/光子
★内容
「悪夢だ・・・」啓介の頭痛は増すばかりであった。
いったい何がどうなっているというんだ・・・
啓介は徹夜とリポDとこの気違いじみた状況のおかげで頭はガンガン、足はふらふら
になりながら線路の上を走り続けていた。とにかくどういう状況であれ、遅刻だけはす
るわけにいかない。
周りの景色は、いつもと全く違っていた。建物はことごとく消えさり、地面には建物
の中身が散らかっている。机や書類、それにいまいましいタイムレコーダーの姿も見え
る。タイムレコーダーが存在する限り、天地がさかさまになろうとも9時までに出社し
なくてははならない。彼にとって唯一幸いだったのは、朝早く出たおかげで、まだ急げ
ば遅刻せずに済むだろうということだった。時計は6時20分を指していた。
啓介はふと、線路わきにテレビが落ちているのに気づいた。丁度ひと休みしようと思
っていたところだったので、そこで足を止め、スイッチを入れた。
反応はない・・・あたりまえだノクラッカー・・・テレビを写すためにはコンセントとア
テナがなくてはならないのである。啓介は辺りを見回した。
「あった」ちょうどすぐそばにコンセントとアンテナが落ちていた。彼は早速それを拾
い、テレビに接続した。ガーーピピーーッ繙繙繙繙繙テレビの画面が明るくなった
。彼はテレビを2回、叩いた。ニュース番組が写る。繙繙繙繙繙繙『繰り返します
。今朝早く、東京の街がなくなりました』アナウンサーは興奮気味である。小鼻がひく
ひく動いている。繙繙繙繙繙縺w現在東京の市街地は荒れ野原と化している模様です
。そして悪いことに今もなおこの奇怪な現象は広がりつつあります。東京近郊の皆さん
、ご注意を。さてここで現地からの中継を呼び出してみましょう。篠原さん?』繙
繙繙縺wはーい、東京の篠原です』場面が代わり、レポーターらしき男が瓦礫の山の上
に立っている。『私は今新宿にいます。皆さん見て下さい。この辺はもはや瓦礫の山で
す。かつての新宿の面影はありません。ではここで昨年ノーベル賞にノミネートされな
がら、おしくも涙をのんだ物理学界の権威、神田川博士に伺ってみましょう。神田川博
士』繙繙繙繙画面がパンして、白髪の初老の男が写った。男は横を向いて鼻をかん
でいるところだった。繙繙繙繙縺w神田川博士、こちらへどうぞ』
『うん?わしか?ゴホゴホ・・・ゲホッ・・ウオッフォン!失礼・・・ガーガー・・・
それで何じゃね?』
『ええ今回の事件につきましての博士の見解を伺いたいのですが?』
『ゲホゲホ・・・ゴホ・・そうじゃな・・・ゴホンゴホン・・原因についてはまだよく
解からんのだが・・・ウオッホーーン!ゲホ・・今後もなお、ストームは拡がり続ける
じゃろうな・・・ファアックショーーン!ゴホゴホ・・・失礼・・・わしゃ花粉症でな
・・・今年は特にひどいわい・・・おまけに痰はからむわセキはでるわ・・・』
『あの博士、それより・・・』
『おう、そうじゃったの・・・ゴホン・・・問題のカギは露木教授が握っておるような
んじゃが・・ゴホゴホ・・ウオッホーン!』
は・・・・啓介は開いた口がふさがらなかった。ひょっとして親父のことじゃ・・・
繙繙縺wその露木教授というのは?』
『わしのかつての教え子でな・・ゴホンゴホン・・今は横浜国立大学の教授じゃよ・・
・ゲホゲホ・・』繙繙間違いない、親父のことだ。
繙繙縺w彼はひと月前、わしのところに訪ねてきてな・・・ゴホゴホ・・東京が消え
るかもしれないとぬかすんじゃ・・・ゲホ・・だがわしは、あんまり荒唐無稽なもんで
とりあわなかったんじゃ・・・ゴホンゴホン・・今さらながら後悔しておるよ・・・彼
の言う通りになったわい、ハックショーーーン!失礼・・・ゲボ・・・それで今日慌て
て連絡を取ろうとしたんじゃが、彼の行方がつかめんのじゃよ・・・ゴホゴホ・・誰で
もいい・・彼の行方を知っておる者がいたら、すぐに連絡してくれ・・・ゴホゴホ』
繙繙繙
啓介は頭を抱えた。親父の奴・・・また何かやらかしたんじゃ・・・よもや東京を無
くしたのは親父のせいじゃないだろうな・・・
啓介はふと時計を見た。6時35分。おっと、こうしちゃいられない。早く会社に行
かなければ。
街は日が昇るにつれてだんだん人が目立ってきた。皆、自分の勤め先が気になるのだ
ろう。啓介は再びタイムレコーダーを目指して走った。
これで啓介にとって気がかりなことが2つになった。タイムレコーダーと親父。
啓介は走った。時計の針は7時をさそうとしていた。啓介は喉の渇きをおぼえた。
うまい具合に、線路わきに冷蔵庫が落ちていたので、その中からポカリスエットを拾
って飲んだ。「ああ、うまい」
啓介は少し向こうにサンドウィッチが落ちていることにも気づいた。
「しめしめ」ちょうど腹もへっていたので、彼はそれを食べた。「ああ、うまい」
彼は飲み終えるとまた走り出した。
疲れた・・・啓介は自分が今どこを走っているのかさえ分かっていなかった。こんな
ときは乗り物のあることの有り難さを痛感してしまう・・・啓介はしみじみと思った。
ふと、彼は線路わきに自転車が落ちているのに気づいた。
「おう、自転車じゃないか!」それはピンク色の、幼児用自転車だったが、この際文句
はいってられない。彼はさっそうとそれに飛び乗ると、線路わきの道を走り出した。
キキーーーッ!いきなり、死角から飛び出してきた軽トラックとぶつかりそうになっ
た。
「危ねえじゃねえか!」啓介は思わず叫んでいた。
「ファックショ〜〜ン!いや、すまん・・・ちょっと急いでおるもんでな・・・ゴホゴ
ホ・・・」窓から身を乗り出したその男は、神田川博士だった。
「神田川博士!」啓介は驚きの声を上げた。
「ゲホゲホ・・・わしを知っとるのか?ゴホンゴホン・・・して、そちは誰じゃの?」
「露木です!僕は露木教授の息子ですよ。さっきテレビを見ました」
「何ぃっ?露木くんの息子か、君は?ゴホゴホ・・・グオッホーン・・いや、失礼」
「親父はいったい何をしたんですか?」
「わからん・・ゲホゲホ・・とにかく彼に会ってみなきゃならん」
「親父の居場所は分かるんですか?」
「それがわかりゃあ苦労せんよ・・ゴホンゴホン・・・そうじゃ、君も来てくれんか・
・ハックショ〜ン!・・・君の力を借りたいんじゃ・・」
「いや、僕はこれから行くところが・・・」啓介は軽トラックの助手席から出てきた大
男を見て、急に弱気になった。大男は、自転車を後ろの荷台に乗せると、啓介に、
「さあ、乗った乗った」と言った。
軽トラックは、啓介と自転車を乗せて走り出した・・・・・・
〔つづく〕