AWC 真リレーA>第3回 空を飛ぶ車   岩屋山椒魚


        
#1005/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (RMF     )  88/ 5/14   6:24  ( 84)
真リレーA>第3回 空を飛ぶ車   岩屋山椒魚
★内容

 あれ、真紀は目をみはった。東京が消滅してこんなに渋滞するんなら私の周
りの車も消滅させてよ!と叫んだら、真紀の前の赤い車が1台ほんとに消えた
のである。いつの間にか超能力が身についたのかしら。でもたった1台消えた
って渋滞は解消しない、もっと消えろ、みんな消えちまえ。あれ、真紀はまた
目をみはった。

 赤い車が消えた空間に一人の少女が現れ、真紀の方をじっと見つめていた。
ノートルダムのせむし男と白雪姫との間に生まれた一人娘のような神秘的な雰
囲気をたたえ、目に不思議な輝きがある少女だ。どうも超能力で車を消したの
は真紀ではなく、その少女らしい。それにしても、何のために自分の車をわざ
わざ消したのだろう。そっか、私に用事があるんだわ、きっと。真紀は、車の
ドアを開けて、少女を中に入れてやった。恩をうっておけば超能力でこの渋滞
から脱出させてくれるかもしれない。

 「峯川真紀さんですね。お願いがあるんです」と、少女は言った。やはりそ
うだ。超能力者だけあってちゃんと真紀の名前を知っている。
 「どういうことなの」
 「実は、露木啓介さんのことです」
 「ヘェ、あなた遅刻常習犯の露木クンを知ってるの」
 「ええ、小さい頃から知っています。家が近所でしたから。私は、霜村麻衣
子といいます。よろしく」
 「こちらこそ。それで、露木クンがどうかしたの」
 「啓介さんは今とても危険な状態にあります。助けてあげないと・・・。で
も私一人の力では助けてあげることが出来ません。ぜひ真紀さんに手伝って頂
きたいのです」
 「貴女、露木クンが好きなの」
 「好きです。至上の愛の対象として」
 「至上の愛?笑わせないでよ。あんな男のどこがいいの。ま、どうでもいい
けど、助けようにもこの渋滞ではどうにもならないわ」
 「それは何とかなります。ちょっと目をつむって下さい・・・。」

 真紀は、目をつむった。2、3分たってから、体が急にふわっと浮くのを感
じた。あわてて目を開けると、真紀たちを乗せた4WDのAT車が地上数十メ
ートルのところを飛んでいる。道路上で鈴なりにつながっている車の群れがど
んどん小さくなる。そんな馬鹿な・・・。
 「こんなの私、信じない」と真紀は叫んだ。「車がヘリコプターのように空
を飛ぶなんてありえないことだわ」
  「でも現実に飛んでいます。私の心のエネルギーで飛ばしているのです」
  「心のエネルギーって、物体を動かせるの」
  「ええ動かせます」
 「ちょっと待って、すると東京で建物や車が全部飛んだのも誰かの心の仕業
なのね」
  「そうだと思います」
  「誰なの、そんなひどいことをするのは。まさか・・・」
 「違います。私にはそんな力はありません。犯人は私より数倍も強い心のエ
ネルギーを持った人物で、多分、大阪に住んでいる筈です」

 空を飛ぶ車は、多摩川を通り過ぎ、東京に入った。真紀は、眼下に広がる地
上の風景を眺めて、また目をみはった。ほんとに東京が消滅している!いや、
正確に言えば、古い東京は、そのまま残っている。緑は残っているし、人間や
犬や鳥の姿も見える。しかし、建物や車や電柱や広告板はすべて消えていた。
要するに、人間がつくったもののほとんどが消えているのである。真紀は、柄
にもなく人類の文明のはかなさについて感慨にふけった。

 「さあ、会社の上空に着きました」
 「会社も消えてしまっているじゃないの」
 「あそこに啓介さんがいます」
 「ほんとだ、露木クン何をしているのかしら。タイムレコーダーみたいなも
のをにらんでいるわ」
 「あれはタイムレコーダーです。どういう訳かタイムレコーダーだけは消え
ないで残っているのです」
 「すると、露木クン、今日は遅刻せずに出社したことになるわね。まだ9時
前だから」
 「ええ、そうです。それは啓介さんにとって、とても重要なことです」
 「でも、タイムレコーダーって電源がきれても記録されるの」
 「残念ながら記録されません。啓介さんが遅刻しなかったということを証明
するためにはあのタイムレコーダーだけではダメです。真紀さん、貴女の証言
が必要です。啓介さんのために証言してあげてくれますか」
  「証言はしてもいいけど、会社は消えてしまったのよ。どこで、誰に対して
証言すればいいのかしら」
  「木本商事は大阪に支社がありますね。これから啓介さんと一緒に大阪支社
に行って証言して頂きたいのです。あのタイムレコーダーを持って・・・」

 車は、啓介のいるところから20メートルほど離れた道路に着陸した。人通
りはあまりなかった。建物が飛んだ時、建物の中にいた人は巻添えをくったの
で、東京に残っている人の数はそんなに多くないのである。

 「では、私はこれで消えます。啓介さんをよろしくお願いします」と霜村麻
衣子は言った。
 真紀は驚いて、「あなたは啓介さんと逢わないの」と尋ねた。すると、麻衣
子は、悲しそうな表情をして言った。
 「啓介さんは、私の顔を見ると、ジンマシンが出るのです」
                                                          <つづく>




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