#1003/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (DGJ ) 88/ 5/11 20:52 ( 83)
真リレーA>第2回 パニック in TOKYO
★内容
画面に時計が表示された。
アナログの時計が一秒一秒と進んでいる。
ピッ‥ピッ‥ピッ‥ポーン。
画面が切り変わり360°地平線の風景が映しだされ、音楽がフェード・インして
くる。同時に『モーニング・ニュース』とデザインされたロゴタイトルが浮かび上が
った。
毎朝恒例のニュースの時間。
チャンネルはUHFであった。
真面目なニュース・キャスターはいつもと変わらぬ顔でニュースを告げた。
「7時のニュースです。 今朝未明、東京が消滅しました」
そこまで告げるとニュース・キャスターはふと黙りこんだ。
みれば体中が小刻みに震えていた。
次の瞬間、ニュース・キャスターがどばぁ〜と、机をはりとばして叫びながら踊り
出した。
「しょ〜めつだぁー! 崩壊だぁ〜〜! おっしまいだぁ〜〜〜!」
画面がすかさず切り変わり『しばらくお待ち下さい』の花束の絵になった。
真面目一筋に今日まで生きてきたニュース・キャスターの頭がこの異常なるニュー
スの原稿のためにゲシュタルト崩壊したのであった。
本当に東京は消えていた。はっきりと消えていた。しかも消えたのは23区のみな
のである。23区のその他の地域との境界線を境として状況がまるで違っていたので
あった。すなわち、その他の地域。東京都に存在するが市、町、村はまったくいつも
と変わらぬ状態だったのだ。中には家の半分は23区。半分はその外側にある家屋も
あったのだが、その場合23区に属する家屋だけが綺麗サッパリと包丁で切ったヨウ
カンのごとく消えてなくなったのであった。
「どうすればいいのよっ!」
峯川真紀は車内で怒り狂っていた。テレビも見ずに家を飛び出したのがまずかった
のだ。いつも通り東京近郊の自宅から愛車にキーをさしこんで会社に向かった彼女で
あったのだが、いつもなら比較的にすいているはずの道路が異常にこんでいることに
気付いた。これは事故かと思いカー・オーディオをデッキからラジオに切り替えれば
、『首都消滅!』などと喚いていた。
どこぞのジョーク番組かと思いチャンネルをみればそこはNHK第一。
冗談や酔狂ではないらしい。
東京が無くなったのにどうしてこんなに渋滞してるの!?
真紀の質問の答えは簡単であった。
なんせここは日本である。『なくなった東京がどうなったかを一目みたい!』。そ
んな素朴な事を思いついた野次馬が続々と東京へ向かってきたのであった。
当然、車があつまれば渋滞が必然的に起きる。さらに事故が起きた。
道路の先では事故でくいとめられ帰路も他の事故でくいとめられサンドイッチの状
態なのであった。
彼女自慢の4WDのAT車も一時間程前から1cmも動いていなかった。普通の渋
滞ならばあきらめもつくが(と、思う)、この場合原因が原因だけによけい腹が立っ
たのである。
「「「東京が消滅!?消滅ならわたしの周りの車も消滅させてよ!
ギヤはニュートラルに入れっぱなしである、無情に時間とガソリンのみがどんどん
消費されていった。
「だぁ〜っ! もういやっ!!」
あ‥‥さて。
一方こちらは啓介。
彼は現在ひっしをこいて歩いていた。
東京が消滅した今、会社どころではないと思うだろうが、万が一、会社は残ってい
ていつも通りに活動していたらどうなるか?
とにかく会社に行かねばならないのだ。そうしなければ減給なのだ。
目標となる建物なぞほとんどない。
ところどころにガレキらしきものがあるのみで道路のアスファルトもとぎれとぎれ
であった。
太陽の方向のみで、こっちのほうだろうと目標を決めて歩いたのであった。
彼の頭の中は現在‘減給阻止’の四文字しかなかったのである。
『僕の前に道はない。僕の後に道が出来る』
「だれだ、こんな言葉考えだしたのは!?」
ほとんどわけがわからん脈絡の無いことに怒りをぶつけていた。
しかし、遅刻以外はマトモな啓介。しっかりと会社の方角はあっていちゃたりする
のである。
チラッと腕時計を見る。彼の歩く速さと、会社までの距離を計算すればそろそろ会
社の存在していた位置へ到達する時間だ。
「やっぱり会社も消滅したのか・・・・」
そうつぶやいた啓介の視界にある物体が映った。
「へっ・・・?」
目をゴシゴシとこすって再度見る。
しかしそれは幻などではなかった。まぎれもなくそこに存在しているのであった。
「うそだろ・・・おい・・・」
小走りに駆けだしあわてて近付く。
それは、デーンとその姿を存在させていた。
金属製の長方体。正面に正確な時計があり、スロットがついている。そしてその横
には九桁の赤字が並ぶカードが取ってくれといわんばかりに空中に浮いていたのであ
った。
間違いない。
それは啓介が毎日毎日、昨日までの入社してからの九日間、赤字を打つだけにつか
っていたタイムリコーダーであった。
<つづく>