AWC 真リレーA・B>第1回 と、東京が消える・・・っ!


        
#1002/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (AWC     )  88/ 5/ 9  18:40  (100)
真リレーA・B>第1回 と、東京が消える・・・っ!
★内容
 赤い・・・赤いぜっ・・・・。
 啓介は八行の赤字が並ぶタイムカードを見ると、力なく笑い絶句した。
 そして、今日も時計の針は既に九時を過ぎている。
  彼は深い脱力感を覚えつつゆっくりとカードをリコーダーに差し込んだ。
 チーン。
  ベルの響きに哀愁を感じた。記録達成。出社第一日目から連続九日。いや、いってみ
れば毎日が記録の更新だったのだ。だいたいどこの世界に出社第一日目から遅刻するよ
うな新入社員がいるというのだろう。ましてや、連続九日など言語道断である。
 カードを抜き取る。九行の赤字が並ぶタイムカード。彼はひしひしと思う。
 げ、減給はいやじゃーーーーーっ!!

 彼はそろりそろりとオフィスに入り、デスクにつくとそそくさと仕事を始めた。朝礼
などとっくに終わってしまっている。
 二十分の遅刻であった。
 なるべく周りの者の顔を見ないようにする。もっとも啓介が連続五回の記録を達成し
た時から誰も何も言わなくなってはいたが・・・。
 しかし・・・もう・・・そういう訳にはいかないだろうな・・・。
 連続九回である。十回まであと一歩。それがどういうことを意味するのか啓介にも十
二分に分っていた。とはいうものの起きられないものは起きられないのだから仕方がな
い。
 彼はとてつもない低血圧であった。おまけにグズであった。
 学生時代、通知簿に遅刻218と記録されたのも彼ぐらいのものであろう。なんだそ
んなものかと思うなかれ。学校には夏休みなどの諸休暇があるのである。なんのことは
ない。早い話が学校のある日は必ず遅刻しているのだ。
 初めは熱心に家庭連絡だ、停学だ、留年だと脅しをかけていた先生も愛想をつかし、
とうとう大記録をぶったてた啓介を卒業させてしまった。
 なぜ退学にならなかったのか。皮肉にも彼は成績だけはよかったのである。
 ストレートで某有名国立大学に合格した啓介であったが、もちろん一時限目の講義に
でれるはずもなかった。が、彼はすんなり卒業した。彼にとってはそもそも総ての講義
に出る必要などなかったのである。彼は頭だけはよかったのだ。
「露木さん。」
「へ?」彼は突然後ろから肩を叩かれ、ビクリとして振り返った。
「課長さんが呼んでるわよ。」
「あ、ありがとう・・・。」
 啓介と同じ新入社員の峯川真紀であった。彼女はひやかすような笑いを彼に向けると
席に戻っていった。
 ちなみに今や彼は総務課のピエロであった。彼の遅刻の連続記録がいつまで続くのか
賭ている者さえいた。そうでなくても啓介は格好の話の種であった。
 恐る恐る課長の方をみる。課長は不気味なほどニッコリとした笑みを浮かべ、啓介に
向けて小さく手を振っている。その手には小さな紙が。
 俺の・・・タイムカードだ・・・。
 冷汗がどっと流れる。啓介はしぶしぶ席を立つとゆっくり課長の席に向かった。
「あのー・・・何でしょうか?」
「いやー、赤いねー。キミのタイムカード。」
「・・・・。」
「こんなカード、ほんと初めて見たよ。」
「そ、それは・・どうも・・・。」
「どうもじゃないっ!!」課長は不意に声を荒らげた。
「いくら我が社は遅刻に寛大だとはいえ、ものには限度ってもんがある。いったい、こ
 の九回連続遅刻というのはいったいなんなっだっ!!」
「すみません。」
 彼ぐらいの大学になると求人など黙ってもとびこんでくる。しかし彼にはその、まれ
にみる悪癖があったのだ。学校はともかく遅刻に寛大な会社などあろう筈もない。とこ
ろが世の中とはよくできたもので、そのあろう筈もない会社が現実にあったのだ。
 御茶ノ水の木本商事。彼は寄せられた一流企業からの求人をすべて蹴ってそこに入社
した。(もっとも彼の大記録を知ったならどんな大企業も彼を採用する訳はないが。)
「ま、学生時代成績優秀のキミだから、ウダウダいわなくてもわかっとるとは思うが・
 ・・・・。十回連続遅刻したあかつきには50%減給のご褒美がまっているから・・
 そのつもりで・・・。」
「・・・・・。」
「しかし・・・この罰則を初めて知ったときは思わず吹き出したもんだが・・・こんな
 もんにひっかかる者がいるとはね・・・まったく信じられんよ。」
 まったくである。遅刻の罰則らしい罰則はこれしかないのである。いくら遅刻しよう
とも十回目に定時に出社すれば引っ掛からない。いってみれば遅刻のし放題なのであ
る。が、彼にはそんな簡単なことさえ出きそうにもなかったのだ。
 初任給は十三万円。彼はうめいた。
 一ケ月六万五千円でどうやって生活すればいいんだぁっ?!

 外もそろそろ明るくなってきた。啓介は血走った目で86本目のリポDを飲み干し
た。彼はちらと時計をみるとカバンをつかんで立ち上がった。
 寝坊しないための最善の方法。それは、眠らないこと。啓介はまさにそれを忠実に実
行したのだ。彼のアパートは目白駅より徒歩十五分。今は五時五十分。これで遅刻したら嘘だ。
 彼は駅にむかって足を速める。やたらと興奮していた。むりもない、一睡もしていな
いのだ。おまけにリポDを86本飲んでいる。
 だから彼がその光景を目にした時、それをリポDのせいにしようとしたのも無理はな
い。しかし他の通行人もそれを目撃していたことがそうではないことを裏付けていた。
 視線を上に向けると新宿の高層ビル群が目の中に飛び込んでくる。もちろん彼がそん
なものを見る余裕がある筈がない。彼が黙々と歩いていると、同じように駅に向かうO
Lらしき女性が突然悲鳴をあげ、初めてその事実に気付いたのだ。
 高層ビル群が飛び散ったのである。まるでポップコーンが弾けるように。爆発音のよ
うなものは聞こえなかった。ビデオのスローモーションのように、静かに鮮やかに飛び
散ったのである。
 啓介は口を開けてボーッとその光景を眺めていたが、すぐに、あわてて目をこすると
そのまま駅へ向かって歩きだした。
 幻覚だ・・・。だいたい新宿がどうなろうとしったこっちゃない。おれは会社に九時
までに出社しなければならないんだ・・・。
 余程減給がこわいのだろう。彼は会社につくこと以外まったく考えていなかった。
 が、流石に駅が消えてなくなっているという事実はいやがおうにも彼を揺すぶった。
 俺はどうやって会社にいけばいいんだ???!!!
 ・・・・減給の恐怖が彼の感覚を完璧にゆがめていた。呆然と駅の跡に立ち尽くす彼
の周りの建物が次々と弾けて飛んだ。
 どうやって会社へ?????!!!!!
 最早パニックであった。飛び交う悲鳴。突然消えた建物の中にいた人達が唖然として
顔を見合わせている。悲鳴をのぞいてはまったく音がしないというのが恐怖に不気味さ
をそえている。
 どうやって・・・???!!
 啓介はひとりパニックの中でまた別のパニックに浸っていた・・・・・。

                                                            <つづく>




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