AWC 『紫煙の中の聡子』ー秋本 88・5・8


        
#998/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (FXG     )  88/ 5/ 8  10:46  ( 85)
『紫煙の中の聡子』ー秋本 88・5・8
★内容
何かこの頃、どうしたっていうんだろう
日曜日
カーテンを開けるまでもなく
外は晴れているなんてわかってしまう
 ベランダに通じるそのアルミサッシの窓
スルスルと開けると すぐ傍を通る国道の
あの車たちの喧騒が今日は一週間ぶりの日曜日だと教えてくれる
ここから見えるあの遊園地の観覧車−−回っている
 わたしの今日の日曜日
まずあの人から電話がはいる
「いい天気だし、ドライブでもいこうか」と受話器の中から声が聞こえる
わかってる
「いい天気だし、ドライブでもいこうか」
これが幸せの正体
 少女の頃から夢にみてきた
幸せの日曜日
「うん・・そう・・うん・・待ってる・・うん」
わたしは応える その他には何も云わない
 昨日 地下鉄の構内でみた浮浪者が
やけに元気そうに腕を回して体操をしていた話
 友達が結婚式の招待状を
長文の電報でよこした話
あの人の声を曵きとめるテクニックは使わない

 顔を洗う前に煙草に火をつける
やめた方がいいよとあなたが云った煙草
 やめないでいてよかったと思う
駅のポスターで見たアメリカ煙草VICEROY
 でも
この紫の煙のゆらめきのぼる
なんだかちょっと
 くやしいと思う
火をつけてやったのにーわたし
煙のすべてを吸い込んでしまいたい
わたしの身体の中から出られない
 ねじれた微笑みに指先が震えだす
その一本の煙草
ガラスの灰皿に押しつける
 口紅のつかないままの白いフィルター
いいわね お前には終わりがやってきたんだものね
 おめでとう さようなら
わたしにはこれからが日曜日ー幸せのはじまり
 顔を洗うことにする
昔はいつもSHAMPOOをした でもー今朝は
面倒くさいことがわかったからね
 そういえばこの髪を切った時
あなたは驚いた顔をした
どうしたんだ何かあったのかって 思ってたとおりの決まり文句に
笑ったわねわたし
 今度切ったらーなんて云うの 同じ台詞は犬も食わない
笑えもしない
ほっといて欲しい
そんな気分に髪の毛を切りたいと思うんだよね
 でも
幸せな女には
 許されない台詞だとわかっているわよ それくらい
世の中の全ての中島みゆきが涙声でがなりたてるお経のように

 幸せの中に不幸せがあるなんて 幸せな連中にしか言えない贅沢
 幸せの中に不幸せがあるなんて 幸せな連中にしか言えない快楽

思わず手拍子でも叩こうじゃないか
朝っぱらからひや酒の一杯もやろうじゃないか
口ずさみながら歯をみがく 鏡に向かって吠えたてる
鳴った
聞こえる
 あの人からの電話のベルが鳴っている
ルルルルルリラ ルルルルルリラ ルルルルルリラ ルルルルルリラ ルルルルルリラ
ルルルルルリラ ルルルルルリラ ルルルルルリラ ルルルルルリラ ルルルルルリラ
まず、
 歩いていって
受話器をとった
「うん・・そう・・うん・・待ってる・・うん」
それから、
 ゆっくりと
受話器をおいた…幸せな日曜日の始まりであった   【終】

(あとがき)
ひょっとして御存知の方もあるかもしれませんが、この話はいったん「空中分解」に
載せていたものを削除して、新たに書き直したものです。
 前の作品は途中から書くのが嫌になって、それで強引にお笑いにもっていったもの
でしたが、やはり、もう少し頑張ってみることにしました。
結果はどうあれ、この女性シリーズは骨が折れます。
 なお、文中の中島みゆきさんのものらしい歌の歌詞は作者の創作です。
    御承知おきくださいますよう、お願い致します。  秋本




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