AWC APPLE COMPLEX 【巨人達の憂鬱】(12)コスモパンダ    


        
#934/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (XMF     )  88/ 3/27   7: 6  (118)
APPLE COMPLEX 【巨人達の憂鬱】(12)コスモパンダ    
★内容
               (12) <子供>

 セントラル・ルフト・パークを後にすっ飛ばす。運転席には僕、真ん中にはアンナ、
助手席にはノバァがいる。
 誰も口をきかない。アンナはまだガタガタ震えている。ノバァでさえ、カーマインに
乗り込む時、腰が抜けたようになっていたので、僕が肩を貸した。
 僕は生憎と元気だ。自分でも意外だが、最近、根性が座ってきた。まあ、ノバァと一
緒に仕事してると、そうならざるを得ない。
 公園での<子供>達との三分間一本勝負は、どうにか辛くも僕らの勝ちだった。
 あのムカデロボットの芝刈り機は、カーマインの体当たりでバラバラ。
 <子供>達は片足切断の重症を負った一人を残して逃走。
 今、僕らは<子供>が入院した病院に向かっている最中。
 再び、クラーク・ケントの手を借りることにした。こりゃ、テニスの試合の招待券ぐ
らいじゃ誤魔化せないなぁ・・・。グローバル先生は結構しっかりしてるもんな。
 前方にパシフィック・クイーン大学病院が見えて来た。
 地下パークにカーマインを入れ、僕らは先生に前もって指定されたフロアに行く。
 病院の通路は淡いクリーム色であり、真っ白でないところがいい。鼻をつくような消
毒薬の臭いは病院のトレードマークである。ナースが忙しく立ち振る舞っている。
 天井は一階と二階が吹き抜けであり、天井の近くを、リニアモーター・ドライブ方式
の患者を乗せたストレッチャーが、医師と看護婦も乗せて滑っていく。
 <AICU>と書かれた看板の部屋の前に立ち、インターホンで呼び出す。
 カメラが仕掛けてあるのか、すぐにドアが開き、僕達は中に入った。
「カズ、君が学校を出れば厄介事もなくなると思っていたのにな。まさか、わざわざ厄
介事を持って来るとは思ってもみなかった。まあ、そこに座りなさい」
 三人は長椅子に腰をどっかと降ろした。
「なんだ、なんだ、そのしょぼくれた顔は」
 そういう先生も同じようなもんだ。浅黒い顔のグローバル先生だが、今朝以来の騒ぎ
で僕の我が侭に付き合っているせいか、心持ち目の周りが黒い。睡眠不足かな。
「コーヒーでも入れてやろうか。熱いやつを」とグローバル先生。
 熱いコーヒーだって? とんでもない、アイス・コーヒーをと言い掛けたが・・。
「水、アイス・ウォーターをくださいません? 喉がカラカラで」とノバァ。
「私も」とアンナ。
「ああ、いいとも。かわいいお嬢さん達の頼みだ。タップリ差し上げよう」
 陽気なバリトンが部屋の奥から聞こえてきた。腹の突き出た男だ。スモウ・レスラー
のような男だった。ハリソン先生だ。グローバル先生と同期で仲がいい。
「さーて、カズ。君が持ち込んだ<あれ>だが。大変なことだよ、まったく。医学界ど
ころか、生物学界の常識を全て破ってくれたよ。ハリソン先生なんか、喜んじまって大
変さ。このお嬢さん二人は、ここで休んでいてもらって、別室に行こう」
「先生、あたしは大丈夫よ。一緒に行っちゃまずいことでもあります?」
 ノバァが椅子から立ち上がっていた。
「こちらの元気のいい女性は?」
「紹介が遅れました。ノバァ・モリス。うちの探偵所の所長です。向こうの方はアンナ
・マグレインさん」
 ノバァは元気よく、アンナはしおらしく挨拶した。
 アンナ一人を残して、僕らはハリスン先生の研究室に入った。
 そこは壁一面にガラスを填めた部屋で、コンソールデスクが並んでいた。コンソール
デスクの向こうのガラスを通して、病室が見える。中にはベットがあり、様々な医療装
置がつながっている。ICUと呼ばれる集中治療室だ。
 そのベットの上には白いシーツに覆われた人の形の膨らみがあった。
 顔は治療装置に覆われて見えない。
「様態はどうですか?」
 僕はおそるおそる尋ねた。
「眠っとるよ。ぐっすりと、二度と目覚めることはない」
 ハリソン先生はでかい腹を撫で回しながら呟いた。
「えっ、死んだんですか?」
 ノバァは不振そうな顔だ。
「出血多量だった。そりゃそうだろう。足が千切れたのに処置が充分じゃなかった。止
血した時には、既に全身の大半の血は流れ出しておったんじゃろう。あの小さな身体だ
からな。脳は完全に死んでいた。記憶抽出を試みたが既に反応しなかった」
「残念だな。色々と聞きたいことがあったのに」
 僕は悔しかった。
「さて、今までに分かったことをいくつか。まず<あれ>の正体だが。人間だ」
「それが答?」
 とノバァ。ハリソン先生が嫌な顔をした。僕はノバァの腰をつっ突く。
「頭にニューが付くがね。染色体テストの結果、<あれ>は46ZZだ。普通の人間。
例えばカズ、君は44XY。そちらの女性は44XXの筈だ。しかし、あそこに寝てい
る<あれ>は染色体が通常の人間より一対多い。しかも正体不明のZ染色体を持ってる
ときた。生殖器は男性だったが、我々の知る男性かどうかはまだ不明だ」
「新人類って訳か。でも先生、だだの染色体異常じゃないですか? 新人類というのに
は少し根拠が薄いんじゃないですか?」
「君も信用しない男だね。これを見ても疑うかね」
 コンソールデスクに埋め込まれたモニタスクリーンに、胸部のCT画像の胸部断面が
映っていた。
「これは・・・」僕は我が目を疑った。
「心臓が二つある。そんな馬鹿なことが・・・」
「安全のためには心臓が二つある方がいい。二重化システムだ。動脈や静脈を切断され
た時には血圧が下がり、血液の流出を抑える。しかし、<あれ>の代謝機能はまだ不充
分だったのだ。二つの心臓の内の片方は、足を切断されても力強く働き、体内の血液を
排出してしまったんだ」
「まだ不充分とおっしゃいましたね。まだとは?」
 ノバァがハリソンの言葉を追求する。
「まだ生物としては、という意味だ」
「まだ?」
 納得しないノバァの言葉を無視して、ハリソン先生は話を続ける。
「それから、胃は常人の三分の一の大きさしかない。更に小腸だが、一・五メートルあ
った。一般的に小腸の長さは生体では三から四メートルだ。常人よりも短く、そのため
小腸内部の表面積が少ない。つまり、栄養吸収率が高いか、栄養補給量自体が常人より
少なくてすむということかもしれん。<あれ>の体重は常人の半分なんだからな。エネ
ルギー消費は身体が小さいことで大分少なくなる。だが減った分をもう一つの心臓が使
ってしまう。まだ調査中だが、エネルギー吸収率が高く、消費率が少ないというのが<
あれ>の利点だ。人口が増え、食料が減ったこの世界には最適だな」
「そのうち、世界中の人間が<あれ>になれば、人口問題や食料問題も減るだろうな。
そうなれば、新しい未来が開ける」
 そういうグローバル先生の顔をノバァはしげしげと見た。本気か!という顔だ。
「それから、聴覚器官だが、内耳が二つある。一つは普通の周波数。もう一つは前頭葉
の前にある未確認の器官につながっている。まだ不明だが、高い周波数を聞くことがで
きたのではないかと思われる。そして前頭葉の前の器官は超音波を聞き、同時に発生さ
せる何らかの役目をしていると思われる」
 もー、たくさんだった。
「<あれ>の姿を少し見るかね?」
 ハリソン先生は腹を思いきり突き出して僕らに尋ねた。
 ノバァも僕も黙っていたが、ハリソン先生はそれをオーケーと取ったようだ。
 ハリソン先生はガラスで区切られた壁の一角に近付くと、マニュピレータを引きだし
て操作し始めた。器用に操作すると、ガラスの向こうの病室にマニュピレータが一本現
れた。それは病室の真ん中のベットに近付いていく。
 ノバァと僕は知らず知らずの内に息を飲んで見守っていた。ノバァの手が僕の右の二
の腕を掴んでいる。次第にその手に力が籠もってくる。
 マニュピレータはベットから垂れ下がっているシーツの端を掴むと、一気に引き剥が
した。
 ノバァの爪が僕の腕の肉に食い込んだ。かろうじて悲鳴を飲み込んだノバァは、僕に
しがみついていた。
 ベットの上にはグズグズに形が崩れた腐った肉塊があった。汚汁がベットの中央に溜
まっていた。かっては人間だったと偲ばせる白い骨が肉塊から突き出していたが、それ
も軟骨が溶けているらしく、バラバラになっていた。見ている間にも、アイスクリーム
が融けるように、それは形を崩していった。
 <子供>は死と共に自らの身体を人目に曝すことを拒み、速やかに無に帰したのだ。

−−−−−−−−−−−−TO BE CONTINUED−−−−−−−−−−−−




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