#899/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (VLE ) 88/ 3/11 20:17 ( 98)
トゥウィンズ・1 八章 (3/4) (25/34)
★内容
「そうそう、思いだした。あの時、ほっとしたあとで、突然、健司とセレナ姫が
剣を向けてきたんだっけな。なあ、健司、何で僕に剣なんか向けたんだ?」
「ああ、それは、あとで話してやる。で、セレナ姫と俺を気絶させたよな。」
「うん、そうそう。そしたら一美が、また変なこと言い出してさ。だけど、その
誤解を解こうにも、完全に力が抜けてて、何も言うことができなかったんだ。」
「博美、本当にごめんね。博美には許せることじゃないと思うけど、でも、ごめ
んね。」
一美は、僕に抱きついたまま泣きながら、ひたすら謝ってる。
「おい、一美、一体どうしたんだよ?」
「だって、あたし、博美のこと誤解してさ、すごくひどいこと言っちゃったんだ
もん。」
「ああ、でも誤解だったんだろ? それに、過ぎたことだしさ、そんなに気にす
るなって。」
そう言って、一美の頭をなでようとして、
「え? あれ? 何だ? おい、嘘だろ。」
「おい、どうしたんだ?」
「手、手が動かん。」
「あ、それか。お前さ、あの悪魔と戦った時に、体力と精神力を使い果たしたん
だってさ。それでしばらくは起き上がることができないそうだ。あと、四日位は
かかるらしい。」
「えーっ、そんなに?」
僕は、起き上がろうとして、
「うっ、ほんとだ。全然、体が動かないや。」
「まったく、あの悪魔には参ったぜ。先刻さ、俺とセレナ姫が博美に剣を向けた
話があったよな。あれ、もう少しで俺とセレナ姫も悪魔になるとこだったらしい
んだ。半ば悪魔になりかけてたから、博美に剣を向けたらしい。自分じゃ憶えて
ないんだけどね。占い師が教えてくれたんだ。」
「へえ、そういうことだったのか。」
その間、一美は僕に抱きついたまま泣き続けている。
「おい、一美、そろそろ泣きやめよ。あの状況じゃ誤解したって仕方ないんだか
ら。」
「うん。でも本当にごめんね。あたし、あんなにひどいこと言っちゃってさ。」
「もういいよ。仕方ないんだから。」
「ところで悪いんだけど、少し休んでいいかな。俺、もう眠くて眠くて。」
突然、健司が椅子に腰掛けて目をつぶる。
「健司くん、椅子なんかで寝ちゃ駄目よ。ちゃんとベッドで寝ないと体もたない
よ。」
一美が涙でぐしょぐしょになった顔を上げて注意する。
「どうしたんだ?」
「あのね。博美が倒れてから丸三日間、徹夜で看病してたのよね。博美が目を覚
ましたから、ほっとしたんだと思うの?」
一美が涙を拭きながら教えてくれる。
「えーっ? 三日間の徹夜? じゃあ、僕、三日も気を失ってたのか?」
「そうなの。ついでに言うと、康司くんもかなり眠い筈よ。」
言われてみれば康司も半ば意識が飛んだような感じになってる。
「じゃあ、一美も……。」
「実を言うとね。」
一美、ぺろっと舌を出す。
「じゃあ、早く寝ろよ。このベッド、結構大きいみたいだからさ、一緒に寝よ。」
「うん、じゃあ、お言葉に甘えて。」
一美がベッドに入ってくる。
「ほら、康司も。」
康司は僕の言葉で一瞬正気に返って、
「ああ、それじゃ、少しだけ寝かせてもらう。」
と一言だけ言って椅子に腰掛けて眠り込む。
「そんな椅子に寝ないでさ、ちゃんとベッドで寝なよ。疲れが取れないぜ。」
丸三日起きてて、そのあと椅子で寝るだけじゃ、体が参ってしまうだろう。
「そうよ。ねえ、康司くん。ちゃんとベッドで寝てよ。」
一美も僕の隣にもぐり込みながら声をかける。
でも康司は、その言葉が聞こえないのか、既に寝てしまっている。健司の方は、
椅子にもたれたまま、完全に高いびき。
一美は僕と顔を見合わせて、くすっと笑った。
そのあと、一美は、僕の右手を握って、
「でも、本当によかった。博美が気が付いてくれて。あたし、このまま博美の意
識が戻らなかったらどうしようって思ってたの。ねえ、だけど本当に大丈夫?」
「何が?」
「体の方よ。」
「うーん、どうなんだろ。首から上だけならなんとか動くんだけど、あとは全く
駄目みたいだね。もっとも感覚だけは正常らしいから、一美が僕の手を握ってく
れてるのは判るんだけど。」
と、そこまで言って、足が痛いのに気付く。
「あっつ、いてて……。」
「どうしたの?」
「あ、足くじいて痛めたの、今思いだした。」
「ちょっと、大丈夫? 見てあげようか?」
「ああ、頼む。」
一美が僕の足を布団から出して見る。
「ほんとだ、ちょっと腫れてるみたいね。ねえ、痛む?」
「うっ!」
一美が軽く僕の足首を押さえると、鈍痛が体の中を駆けずり回った。
「やっぱり痛む? 誰か呼んでこようか?」
「いや、いいよ。それよりさ、セレナ姫はどうしてる?」
「博美が倒れたあと、ずっと心配してたわよ。今も自分の部屋でお祈りしてるん
じゃないかしら。」
「そうか。セレナ姫やプラネット公にはすっかり迷惑かけたみたいだね。」
「それじゃ、セレナ姫呼んでくるわね。すごく心配してたし。」
「駄目だよ。一美も疲れてるんだろ?」
「まだ少しは大丈夫よ。セレナ姫を呼んできたら、すぐ眠るからさ。じゃ、ちょ
っと待っててね」
一美は、そう言うと部屋を飛び出していった。
しばらくして、一美と一緒にセレナ姫が来た。一美はそのままベッドにもぐり
込むとすぐに眠ってしまった。
「博美さん、大丈夫ですか?」
「まだ体は動かすことができないみたいだけど、なんとか落ち着きました。でも、
ごめんなさいね。すっかりご迷惑おかけしちゃって。」
−−−− 続く −−−−