#740/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (FEC ) 88/ 2/ 7 22:42 ( 60)
実験的小説>Foul−up!! 翡翠
★内容
喜美子が珍しく6時台に起きると、父が忙しそうに(しかしTVを見ながら)食事を
しているところだった。しかし、父は彼女を見ると、一時だけ手を休めてこう言った。
「何という格好をしているんだ。」
しょうがないではないか。だいたい朝起きて、身嗜みがしっかりしてて、おめめパッ
チリという人がいるぅ?
喜美子はぶすっとそのまま風呂場に行った。父の方は、喜美子の事なんか忘れたよう
に食事をしていた。
髪を洗って戻ってきたときには、父は出勤するところだった。母と何か立ち話をして
いたが、彼女がくると「じゃ、行ってくる。」と言って出ていった。母の方は、「あな
たもゆっくりしてられないわよ。」とかなんとかいって、キッチンの方へ行ってしまっ
た。
父も母もとっても良い人なんだけれど、何か困った事があったら相談してほしい。だ
ってもう高校2年なんですもの、たいした案は出ないかもしれないけれど知っておきた
いもの。ちょっと、私を子供扱いにしすぎているのじゃないかしらん。
彼女はタオルで肩よりちょっとのびたところで切り揃えてある髪をポンポンとたたき
ながら、また少しブスッとした。まぁ、考えようによっては大切にしてくれているのだ
から喜ぶべきことなのでしょーが。
朝飯を食べると、制服を着てすぐさま駅へ。4駅ほどいったところに彼女の学校があ
るのだ。中流の学校で、以前はこの辺りの名門校だったのだが、教育委員会や県の無計
画な(もっとも計画があったから、こうなったのでしょうが)高校設立によってレベル
が下がってしまったとかなんとか・・・・・・。先生一同このことにコンプレックスを
持っているのか、何か集まりのあるごとに″我伝統ある高校の歴史を担っている諸君は
・・・・・・″とはっぱをかけている。が、そんなことをいわれたってしょうがない。
すでに彼女のようなフツーの子が入学しているのだから、フツーの高校になるのは当た
り前なわけで、フツーの子にいったところでたかがしれているわけである。
喜美子は、だから学校はあまり好きではない。学校が好きでないのにどうして行くか
と言われそうだが、たいていの人間はそういった不満を感情までにピックアップしない
で行ってしまうわけで、彼女も理由なんて″つい最近″まではなかった。
理由が出来たというのは、電車内で通学のときに会う人間のためである。いつも喜美
子の乗る次の駅で乗り込んでくるのだが、なんとなく気がひかれるのだ。ひかれても、
そちらの方向を見るわけにいかず、いまだはっきりと見たことはない。(はっきり見た
ことがなくって気がひかれるものかと思うかもしれないが、そういうこともありうるの
である)この人は毎日決まった電車の決まった乗り口で乗り、彼女と同じ駅で降りる。
始めは同じ学校の人かと思ったが、どうもそうではないらしい。なにせ、ここいらは高
校が乱立しているため、どこの学校ともとれるのだ。
と、いうわけで今日も喜美子はこの人の後ろ姿のみを見ながら、改札口を出た。
はたして誰なんだろう、どういう人なのだろう、などと答えなど見付からぬはずのな
いことを考える。直接本人に″あなた、気になってしょうがないんだけれど、どういう
人なの?″などときければそれにこしたことはないのだが、そんなことができるわけが
ない。調べる、という手もあるけれどなんとなく陰湿な感じで私の性分に合わないよう
な気がする。それに本人そのものを気にいっているのだったら、その他に付随するデー
タなんておまけのようなものなんだからいらないのよ。でも、しりたいなぁ・・・
そんなこんなが続いてもう4か月。ちらりちらりと横目で見てゆくうちになんとなく
全体の像が分かってきた。身長はそんなに高いほうでなく、体形も普通。曇りの日は眼
鏡をかけているときもあることから、軽い近眼と推測。髪は6:4にパッパッと分けた
感じで、質素である。どうみても、″かっこいい″という物体には思えない。
しかしながら、いまだに気になる存在である。やはり、こういったものにはトータル
的なものが感性を刺激するものなのだろうか・・・。理論で表そう、処理しようとする
から無理があるのかもしれない。だいたい、そういったものを言葉に表す必要性は全く
ないのだから・・・
と、いうわけで彼女は学校に行く過程自体を楽しんでいる。もしかしたら、あなたは
彼女のことを壊れかけた感性の持ち主のように思うかもしれないが、何が正常かという
こと自体、無理な話だ。
−−−fin−−−