#726/1850 CFM「空中分解」
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再発表>地球探訪(エピローグ) 翡翠岳舟
★内容
フロイドが通信ブースに行くと、そこにはブイ内で著名な博士達が集まっていた。
その中にチェリノフやチャンドラーの姿もあった。彼はこれらの大先輩達に一礼し、
通信機器のデスクについた。中央から出たマイクの元に、赤いランプがあった。これ
が点灯するとタンブラー号と回線がつながるのである。
ふとそのとき、横からの視線を感じたので振り向くと回線モニターのところにスチ
ーブとデフィソンがこちらに真剣なまなざしを送っている姿があった。フロイドは、
それに頷いて答えた。
「タンブラー号、こちらフロイドだ。そちらのCHをダイレクトに切り換えてくれ
。」フロイドは、返答を待つ間が異常に長く感じられた。
「・・・キリカエマシタ・・・」
「HT−26000、どうしたというのだ?燃料の事だが博士と協議した結果、浮き
として現在使っている水素タンクに非常用としてつながっている。それを使えば十分
可能な事なのだ。」
「ソレガ シッパイシタバアイ、ワタシハ チキュウニ ラッカシテシマイ
ナリマス。ソレヨリ、コウアツレーザーデ、ゲイゲキシタホウガ・・・」
「HT!それで迎撃できると本当に思っているのか!」
ドリューシャを食べるには笠を破かず、触手のつけ根にある丸い袋を裂いて浮かし
たまま死なせるが大切であった。そのため放電をする触手の間をすばやくかい潜り、
一気にやってしまうスピードが大切なのだ。カベークは、タンブラー号の下部にある
燃料タンクに狙いを定めた。
「ワタシニモ イキルケンリガ アリマス。システムヲハカイスルヨウナモ
タイシテ ミズカラ タチムカウノハ トウゼンデス。」
「逃げてだって、生き残れる!」
そのとき、フロイドはオペレーターがタンブラー号のレーザー砲が接近物に対して
セットされたということを告げたのを、聞いた。
カベークは、ドリューシャの手前50Mの所で体を縮めた。そして筋肉を極限まで
縮め、次の瞬間に備えた。
「命令だぁ!ジェットに噴射をせよ!」
カベークは矢のように突っ込んできた。放電するわけもない触手を見事に回避し、
一回態勢を備えるためタンブラー号を離れた。その時、タンブラー号のノズルで爆発
が起こった。カベークはそれを放電と思い、早めにけりをつけなければならないと感
じた。再び突入を開始し、バルブを全開にしている右燃料タンクを、その三角頭の鋭
い牙で引き裂いた。燃料タンクは火を吹き、非常用として用意されていたパイプを逆
登り、高圧水素ガスがたっぷり詰まった水素タンクに引火した。装甲は木端微塵に吹
き飛び、半径20Mの火の玉が出来た。HT−26000を形成していたケイ素チッ
プは凄まじい高熱によって瞬時に蒸発した。そしてその残骸は母なる大地への第一番
目の帰還者として、落ちていったのである。
***エピローグ***
フロイドが昔の無重力ブロックの部屋にいることはだいたい予想がついていたので
いってみることにした。イーディスは初めからチェリノフの秘書だったので、こちら
のブロックに住んだことは無かった。少し迷った末、フロイドの部屋を発見した。
フロイドは部屋の中で電気もつけずにうずくまっていた。イーディスが入ってくる
と、少しばかりうごいたが、それっきりであった。イーディスはフアフアしている体
をギコチなく動かしながら、フロイドの前に座った。
「フロイド・・・・・・何と、言ったらいいか分からないのだけど・・・・・・」
「・・・・・・。」
「連邦協議会へのレポートは成功したわ。地球観測のため、観測ブイが2つ復活する
ことが決定され」
「しかし、HT−26000は死んだ!」フロイドは急に怒鳴った。「貴方とチェス
をしたHTは死んだのですよ。ドリューシャとの時、彼には混乱をさけるためスペー
ス・プレインが激突することが知らされていなかった。彼は突然の出来事により、そ
のときはじめて ″恐怖″を感じたのだ。それからHTはどんどん我々に近付いてい
った。そう、私達が機械のように働いている時に、奴はこの世で一番純粋な感情の持
ち主となりつつあったのだ!それが、私の・・・私の最後の言葉″命令″で・・・・
・・ただのコンピュータにもどってしまって・・・・・・奴が死んで、プロジェクト
が何が成功したなんて言えるんだ!」
「そんなに・・・・・・自分を責めないで・・・・・・」
「奴と、私の違いは炭素系生物かケイ素系生物の違いだけなのに・・・・・・」
「あなただけが!」イーディスの声は涙で消された。
フロイドが顔を上げると、非常灯の光で琥珀色に輝く水玉がこちらへ漂ってくるの
がみえた。イーディスの顔は暗くて見えなかったが、乱れた髪にも琥珀色を放っていた。 そうだ。そうなのだ。地球探訪の旅は始まったばかりなのだ。HT−26000は
、はじめの大使として地球へもどっていったのだ・・・・・・。ケイ素系生物の第一
号として・・・・。私達は、まだまだ探訪しなければならない。HTのように、それ
は寂しいことだろう。しかし、しなければならないのだ。私は彼女という世界を探訪
しなければ・・・・・・。彼女も同じように私の中をさまよわなければならないのだ
。そして、それは始まったばかりなのだ。
研究員は自分の傷をいやすかのように、イーディスの涙をはらった。水滴は等加速
運動で、未来への扉へと進んでいった。
++++ FIN ++++
注:これは月刊賞対象外作品でぇ〜す