#725/1850 CFM「空中分解」
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再発表>地球探訪(10) 翡翠岳舟
★内容
まず最初にマニュピレーターが1本、根こそぎもぎ取られた。そして後の本も同様、
強烈な突風により間接を破壊されダラリと垂れ下がる状態になった。水素タンクはとこ
ろどころ穴があき、メインカメラの一つが飛んできた土塊によってあっという間に潰さ
れた。アンテナはいうまでもなく既に亡くなっていた。タンブラー号は風のおもちゃの
ようにグルングルンと熱帯低気圧の渦の中を振り回されていた。
HT−26000はそこで″何″の新たな警告を知った。このまま翻弄され続けてい
ればいずれ、タンブラー号と同じく巨大な物体によって衝突されてしまうだろう。それ
にこのミクロン単位の衝突物だった長時間浴びていれば、いかな金属でさえグズグズに
なってしまう。ここは早く切り抜けなければならない。彼はそう決断した。
「タンブラー号!応答せよ!タンブラー号!応答せよ!」通信係の博士達が絶叫して
いるのがセンター中に広がっていた。当然チェリノフにも聞こえていた。彼はザザァー
というハイパーウェーブがタンブラー号の最後を表すものとして、モニターに向かって
黙祷していた。″HT−26000よ、君のの決死の努力により貴重なデータを集め
ることができた。ありがとう・・・絶対に、地球観測は続けさせて見せるから君もそこ
からみまもってくれ!″
タンブラー号のノズルから青白い閃光がほとばしりでた。ジェットノズルが発動する
と急速に加速し、凄まじい勢いで回転をしながら中心へと突き進んだ。途中、巨大な物
が推進タンクをかすめ、火花が散った。そのときの破片が機械部の装甲を貫き、記憶メ
モリの一部を破壊した。幸いHTの思考能力には影響がなかった。そしてついに、だし
抜けにおっぽり出されるような感じで乱気流から見放された。そこは通常に比べれば、
風は強かったが嵐ではなかった。タンブラー号はついに突破しきったのである。
彼はとりあえずハイパーウェーブのCHを設定することにした。
タンブラー号からの音声が入ると場内は総立ちとなり、隣同士感激しあう光景が見う
けらけた。もう絶対に駄目だと思っていたのが声をよこしたのである。無理もない。
音声の次に映像が送られてきたが、通信係はそれをみてまたもや絶叫せねばならなかっ
た。その映像にとっては蛇足であったが。何故ならば、それをみたセンター内の者全員
がそれを知っていたからである。しかし、彼は叫びつづけるしか、彼の気持ちの高まり
を押さえる術を知らなかった。
「ウ゛ァーナです!ウ゛ァーナです!」
ウ゛ァーナは熱帯低気圧の目玉の中のほぼ中央に位置していた。タンブラー号の下1
500Mのところにいるのだが、カメラの視野には収めきれていなかった。直径2.3
Km。藍色のきのこの笠のような天井部は<ドリューシャ>を彷彿させる。しかしウ゛ァ−ナの場合、端が完全な円形を描いているのではなく、そこから触手のようなものが、
四方八方に向かってのびているのである。そして体のあちこちで黄色い柔らかな輝点が
点滅していた。それらの数は無限ともいってよく、あまりの数の多さで輝点が移動して
いるかのようだ。天井部はさきほどもいった通り藍色で、全体的にノペーとした感があ
る。所所、色の浅い部分があったが恐らく傷か何かの再生した跡なのだろう。ウ゛ァー
ナの体には、様々な生物が住んでいた。上空からなので、笠しか見えないタンブラーで
さえも、色々な動物を発見することができた。円いボール状でピョンピョン撥ねる奴、
芋虫のように多くの足を使って移動するもの、そして休むとき以外はウ゛ァーナの近辺
を飛び回っているもの・・・それは一つの独立した生態系を確立しているかのように思
えた。
残念ながらこれらの素晴らしい観測対象物とはおさらばしなければならなかった。タ
ンブラー号はあまりにも軽すぎて、台風の目の中の風でさえ舞い上がってしまうからだ
。水素タンクに風を受けて、みるみるうちに上層部へと飛んでいった。
ウ゛ァーナの笠のしたにある根のような触手の付近を飛んでいた一体のカベークは、
ドリューシャ狩りの名手であった。今日もウ゛ァーナについて回っていたのだが、手頃
の大きさのに出くわさないので引き上げようと思っていたところへちょうど子供位の大
きさのものが現れたのだ。カベークにとって成熟体の方が嬉しかったが、贅沢は言って
られない。なにしろ、生き残る競争の一部は自分の心がけなのだ。
カベークは緑色の三角頭を振ると、急上昇していった。
彼はそれが何であるか、だいたいの見当がつき始めていた。しかし、すべてのコンピ
ュータがこのような感覚になるのであろうか?HT−26000はフロイドに聞く必要
がある、と思った。
センターでは、ウ゛ァーナの情報を速やかにファイリングする作業が優先されて行わ
れていた。タンブラー号からの映像はウ゛ィデオ送信で反対側にある観測ブイに送った
。皮肉なことで、連邦協議会の直属の月天文学研究アカデミーは地球に近くても、ブイ
から送信されない限りウ゛ァーナを見ることが出来ないのだ。臨場感に浸れるのは冷遇
された研究員達なのだ。センターとしても、これを正式報告するのはタンブラー号帰還
後にするつもりだった。彼らにとってはささやかなしっぺがえしなのである。
「センターヘ。タダイマ、ジュンチョウトハ イカナイマデモ オダヤカニ
ショウチュウ。トコロデ レーダーニ キュウソクニ セッキンシテクル
ハッケン。コチラハ コショウカショガ オオイタメ レーダーノケンゲン
ニ ユズリマス。
0034563 タンブラー
ドリューシャを襲うときに必要なことは、スピードであった。賢いドリューシャは、
移動するときや攻撃などから逃げる場合、地球外郭の高速気流に乗ろうとして上昇する
。この間のつがいのドリューシャもそうだった。(惜しくも逃したが。)このとき、下
に対する死角が出来るのだ。だから、そこをつけばドリューシャなど簡単なものである
。ただ、問題はあれだな、と、タンブラー号の垂れ下がるマニュピレーターを見てカベ
ークは唸った。
「タンブラー号へ。君のそう送信を受けてからレーダーで確認した。相手はもの凄い
スピードで君を追ってきている。ただちに、ジェット噴射して一気に脱出を計ってくれ。その高度だったら十分に高層までいける。そしたら、こちらから引き上げるから安心し
てくれ。
0027893 センター」
「センター・・・ワタシハ アラシニマキコマレタトキニ ダッシュツスル
オオクノ ネンリョウヲ ツカッテシマッタ・・・デ、アルカラ ワタシハ
シュツヲ ココロミナイ・・・ソレヨリ フロイドサンヲ ダシテクダサイ
ドサンヲ・・・
0034564 タンブラー