AWC 再発表>地球探訪(7) 翡翠岳舟


        
#722/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (FEC     )  88/ 1/31  10:48  ( 74)
再発表>地球探訪(7)                  翡翠岳舟
★内容
  「・・・・・・・地球にはまったく別の生態系が誕生した。それは我々の世界では
考えられないような生物であった。酸素をまったく必要としないもの、体内に電源を
装備しているもの、創作物で出てきそうなグロテスクきわまりないもの・・・。これ
の生物は、木星系や水星で発見していたのでさほど驚かないはずなのであるのだが、
地球で 発見されたというところに意味があり、それゆえに驚愕してしまったのだ。

・・・・・・結局のところ、我々はあの惑星で起こった大惨事の中から宇宙へ逃げお
おせることの出来た少数の人物の中の生き残った者の子孫ということになる。ファウ
スの方々は反対を唱えるだろうが、これは議題ではなく科学なのだから野党が与党を
攻撃するようなことはちょっと控えてもらいたい。.
さてその後地球には新たなる生態系が誕生し、地球を覆っていった。と、いっても、
全ての面にわたるにはあと数千年が必要だが。とにかく、地球は昔の主人を忘れたか
のように、独り立ちしていったのである。もうあそこには人類の痕跡がないかもしれ
ない。また、風雪に絶え、一部が残っているかもしれない。地球を脱出しなかった人
類のうち、地球に順応しもしかしたら私達同様高度文明を再建しているのかもしれな
いし、とうの昔に滅び去ったのかもしれない。とにかく、地球研究はしなくてはなら
ないのだ。これをやることは人類を知ることであり、かつて冒した過ちを知りそれを
再発させないよう手段をとることに有意義なことであろう。現在観測ブイのNo.3
を建設中だそうだが、とても期待している。これからの研究が進み、真実が解明され
ることをいのりつつこの本を綴じたいと思う。                                  
  フロイドは文書の収められたディスクを持つとボブに別れをつげ、ライブラリィを
たった。とても有意義だった、と思った。


  今日は中央センターで中間報告があるのだった。研究を始めて2週間いろいろなこ
とがあり、それを報告するというものだった。フロイドが休暇だった4日前に行われ
た実験の結果も発表されるので、彼は普段より早めに席に着いた。
中間報告が始まるころには会場は隙間のないくらいになっていた。通路はおろか、デ
スクとの間まで研究員が入り込んで報告を聞こうとしていた。非番の者も、実験の話
をきこうと来たのに違いない。空気調整機がフル回転をしている音がブォォゥンと響
いていた。
  報告会は広報係のモイゼビッチ博士が司会をする形でいろいろな博士がモニターの
前に仮設された壇上にいれかわり立って行われた。タンブラーが発見した高速移動を
する動物には<カベーク>と名付けられた。これはレーダーでのみの確認となった奴
で、詳しいことは分からないのだがいままでにない運動能力を持ったものである。も
しかしたら、<ドリューシャ>よりも攻撃性があるかも知れない。簡易カメラの映像
もこの時発表された。コンピュータ処理を施されたその映像には確かに地上に黒い物
がかなり広範囲にあるのが写っていた。大きさは推定で、観測ブイ2つぐらいであっ
た。報告ではこれが地上にあるものと発表、次のプロジェクトでは、メイン研究とす
るなどと言った。誰とは分からなかったが、″遺跡に間違いない!″と叫んで、会場
が涌かせた。
報告内容は次々と進み、いよいよブイ投入実験になった。壇上にモイゼビッチの紹介
で若いクレデリックが立った。
「タンブラー号には2基のデータ・ブイ発射装置が最低部に装備れていますが、それ
から今回準備していた2つのデータ・ブイを地球の″海″に投下しました。それによ
ってなかなかの成果があがりましたので報告したいと思います。」クレデリックはそ
ういって手を上げると、照明がゆっくりと消され中央のモニターがつけられた。壇は
右にスゥーっと移動しシルエットに隠れた。「このブイには海の成分をしらべるセン
サ−の他に小型カメラを内臓していまして、これからお見せします映像はそれで撮っ
ったものをコンピュータ修正して見易くしたものです。ブイの投下は発射装置によっ
って打ち出されたブイが地上100Mのところでパラシュートを開き着水しました。
その後、すぐに調査を開始しました。海水はいろいろな物質が溶け込んでおり、さな
がら生命のエキスといったところでしょうか。ドロリとした感じです。では説明はこ
れくらいにして、とにかく映像を見てください。」
  画面には灰色にくすんだ海面と奇麗な青色の空が現れた。波の揺れで画像が乱れる。
たまに水面下に入り込むと透明度が2Mもないので、ほとんどなにも見えなくなる。
そして再び水面上に出たとき、変化が起こった。ブイから20Mほどはなれたところ
であろうか、突然ドドォォォ!という水のうねりとともに、巨大な影が現れた。その
影は小山のような体格で、水面を撃ち破るかのように浮き上がり、体の上に付いてい
ると思われる列に並んだ穴から海水を噴水のごとく噴き出した。その直後、起こされ
た波によってブイは大きく揺れてしまい、その細部を確認することが出来なかった。
揺れが治まりかけたときには、その動物は海に潜りかかっているところであった。体の
わきについているひれで空を切りながら、黒く巨大な体の方向転換を計っている。そ
して、2つにわかれた尾鰭でウ゛バァァァンと海をたたきのめすと一気に深海へと消
ていってしまった。
  「これは130Km離れていたもうひとつのブイにも観測されました。我々はこれ
に非常によく似た生物を知っています。もうお分かりのことでしょうが、そうです、
これは鯨にそっくりなのです!もし、旧生態系が残っているとしたら我々人類もあそ
こにいるのかもしれません。」クレデリックの言葉がまたもやセンターを盛り上げた。
  フロイドは思った。もしあれが鯨の系譜ではなく、新生態系でたまたまかつての鯨
のように進化したのならば、人類のように発展している動物もあってもいいではない
か。例えそれがどのような体つきをしていても、だ。






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