#721/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (FEC ) 88/ 1/31 10:45 ( 96)
再発表>地球探訪(6) 翡翠岳舟
★内容
ライブラリィといっても小さい方は10人入るといっぱいになってしまう程度
の大きさだった。端末の順番を待つロビーの方が広いくらいだ。しかし、こんな
ライブラリィでも今ではいついっても楽に座れる。人員削減はコンピュータにま
で暇を与えた。中に入ると誰もいなかった。フロイドはいつも使うNo.6の席
についた。準備は極めて簡単で、デスクに内臓されているパーソナル・コンピュ
−タを起動したのち、HT−19000に回線をつなぐ。入力は始めはキーボー
ドだが、ヒューマン型のHTにつないでしまえば有能な職員と話しているのと同
様、マイクでやることも可能だ。
「やぁ、ボブ、ひさしぶりだな。フロイドだよ。」オペレータがはめるような
バンドマイクからの入力である。「今日はOFFだからきたって訳だよ。」
「ナルホド。タシカコノマエ イラッシャッタノハ、2シュウカンマエデ ナカ
ッタデショウカ?」バンドマイクの一端についているヘッドフォーンから、ちょ
っと機械音がするがはっきりとして合成声がでてきた。ここのHT−19000
は″ボブ″という愛称がつけられていた。
「そうだったっけかな?まぁ、そんなものだろうね。今回は「地球」についての
資料を見たいんだ。具体的に言えば・・・そうだね、地球における人類文明崩壊
について、てってところかな。」
「ワカリマシタ。ソノ ブルイノ ブンショハ 762ホドアリマスガ、オ
ハ2ケイトウニ ワケルコトガデキマス。イッポウハ チキュウダッシュツロン
、コレハチキュウニ ジンルイガ ソンザイシテイタトイウコトヲ ゼンテ
シタロンリデス。ソシテ モウヒトツハ タテンタイトライロン。コレハ
ルイガ タノテンタイカラ トライシテクタトイウ ロンリデス。ゾクニ
ァウスシンワ″ト イワレテイルヤツデス。チキュウダッシュツロンケイハ 4
86、ファウスシンワケイハ270。ゾクサナイノガ 6デス。」
「たくさんあるね。しかしいくら休暇だからといって全部読破する勇気は私には
ないんでね。そうだなぁ、地球脱出論系のほうをリストアップしてくれるかい?」
「ワカリマシタ。プリントガ デマスノデ、キヲツケケイテクダサイ。」
モニターの横にあった溝口からロール紙がスムーズに出てくるのを手で受け取
るとさっそくどんなものがあるのか見始めた。ロール紙にはタイトル名と著者・
作者名・出版社名が表になって奇麗に書かれていた。
「この、″No.357「われらは生き残った」C.B.クロウド″というの
を読んでみたいみたいなぁ。」
「ワカリマシタ。プリントシュツリョクハ イタシマスカ?」
「いや、ここで読んでいこうと思っているからいいよ。でも、ディスクには入れ
といて下さい。」
「ハイ、デハショウショウ オマチクダサイ。」ボブはそういったが少々どころ
か、1秒もしないうちに表示が始まった。まぁ、彼にとっては大変な長時間なの
かもしれないが。
フロイドは画面に文が現れると、さっそく読み始めた。
「 われらは生き残った C.B.クロウド
今、人類は月、水星、木星に住んでいる。水星は鉱物資源の基地として、木星
は燃料確保・生活空間の確保として研究されている。いまのところ月と、ステー
ションが一般の人の場である。近年は木星にも住むようにはなってはいるが。
これらのところに我々人類はもともと住んでいたわけではない。我々が一つの同
じ条件下のところですくすくと育ち、太陽系に広がっていったことは明確である
。現在、凄まじい寒さのところにも、火のようなところにも同じ人類が住んでい
るが、このようなところにはじめからそれぞれいて進化した場合、形態・色・生
命の仕組みなどまったく別のものになるだろう。ゆえに、我々は同じ天を仰いで
いた同士ということである。
さて、ではどこかというとそれは「地球」である。いまでこそ、我々の間違っ
ても住める空間ではないが。きっとあそこには人類の遺跡があるだろう。
・・・・・・何故地球があのようになったか。これには様々な説があり、どれも
一理あって、またどれも決定的とまではいっていないのであるが、私はそのうち
のひとつを信じている。それをこれからお話ししよう。
人類はかつてかなり高度な文明・技術を持っていた。それが今現在のものと比
較してうんぬんということはともかく、地球から太陽系のあらゆる惑星に探査機
を送り込むことは可能なくらいのレベルはあったろう。これは非常に重要なこと
である。宇宙航空技術にたけていたということは、現在の我々が生き延びたとい
うことの有力な証明になるのである。
・・・・・・前にも述べたように人類がかつてどのような性質、どのくらいの規
模の文明をもっていたかは分からない。が、あの惑星で壊滅的な戦争が起こった
のだ。どことは知れずに。地球全域を覆うまでものの半日といらなかったろう。
ところが、である。それでも人類は生き延びたのである。地球の生体系を根底か
らひっくりかえすほどの影響力を持った最大級の兵器をもってしても、我々は生
き延びたのである。もちろん、それを使用したのは人類であって多少の手加減は
あっただろう。しかし、伝説によれば緑色に輝いていた地球を茶褐色の惑星に変
えてしまうほどの威力であるのだから、それから逃れるためにはやはりどうして
も高度な技術が必要になってくる。
・・・・・・こういう説がある。大戦争(名がないため、便宜上こうよぶことに
する)がが起こる前から人類はすでに宇宙に出ていた。そして戦後、宇宙の人々
だけが生き残り、連邦国家を形成するにいたった、と。確かに一見頷ける面もあ
る。月などは有史以前から探査されていただろうし、低位ステーションによる生
活もあったろう。しかし、それだけ大きな国家を当時持っていたとしたら、当然
宇宙においても戦争は起こりえたはずである。それに普通逆ではないか?。たっ
たひとつしかない母なる大地を汚すより、ステーションを爆破するなり、宇宙で
の人工物を破壊する戦争のほうが事態は最悪にならない。まぁ、そこまでモラル
があったかどうかはちょっと科学でははかることができないが。
やはり生き残ったものが宇宙へ出て、前からあった施設などを利用・拡張しな
がら、今日の発展とつながったと解釈したほうがよさそうである。ここで大戦争
で生き残れるか、ということが問題になってくる。当時地球には推定170億ほ
どの人類が存在していたと思われる。食糧などは海底牧場・宇宙栽培等でまかな
われていた。これらのなかの一角には運のいいやつが存在する。果たして、最大
兵器でもってしても、運のいいやつは生き残るのだろうか?」
「ボブはどう思う?」フロイドは出し抜けに質問をした。
「カクリツハアルノデハ ナイデショウカ?ナタヲ モッタカラトイッテ
リガデキルモノデハ アリマセン。サイダイキュウノ ヘイキトイウノガ
ヨウナモノデ アッタニセヨ、カンペキニ イッソウスルコトハ フカノウ
アラケズリナ モノデハ トドカナイトコロガ モノゴトニハアリマスラ。
「じゃぁ、そういったところに″運のいいやつ″が存在していた・・・というこ
とかな。」フロイドは半ば独り言のようにいい、画面に目を戻した。