AWC 再発表]地球探訪 (4) 翡翠岳舟


        
#719/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (FEC     )  88/ 1/31  10:36  (104)
再発表]地球探訪  (4)                翡翠岳舟
★内容
  スペース・プレインが画面に写し出されると、センターの空気がさらに
一層緊迫した。プレインはタンブラー号と同様、ドックのカタパルトの上
に設置されており、カウントダウンを待っていた。ステーション内では、
液体水素による噴射は行わない。これは内部がメチャクチャにならないよ
うに配慮したためである。そのため、エアープッシュによる出港となる。
  「10秒前。9、8、7、・・・」カウントダウンが、次第に長ーく感
じられる。「3、2、1、」
その瞬間、ブシュゥゥゥという空気の唸る音がスピーカから轟き、スペー
ス・プレインはゆっくりと付近の小物を巻き上げながら、ハッチから出港
していく。
  「30秒後に、液体水素推進に切り替えます。」アナウンスが緊張で冷
淡にさえきこえる。「20秒前・・・・・・15秒前・・・・・・10秒
前。・・・・・5、4、3、2、1、推進切り替え終了。」
スペース・プレインは後部のノズルから蛍のようにポッと炎を光らせて、
予定航路を急いだ。

  フロイドは画面に次から次にスクロールしてゆく軌道計算の文字を眺め
ていた。いちいち、読んでいなかった。ただ、感覚で間違っているか、正
しいかを読み取っていた。情報量が多く、急を要する場合に良く使う手で
あった。
  スペース・プレインは軌道をほぼ順調に飛び、交差地点まで寸前のとこ
ろまできていた。通信員の働きが、マニュアルで正確な航跡を描かせたの
である。彼らのおかげてあると言ってもよい。
  突然、フロイドのデスク上にあった電話が鳴った。
「No.56。フロイドです。何か?」
「こちらNo.21、ウエルズだよ。どうも、困ったことになりそうなん
だ。」
「困ったことって?」
「スペース・プレインはポイントにいつ到達するんだ?」
「順調に飛んでいるから、予定通りだろう。」
「正確な数字は出せるかい?」
「あぁ、ちょっと・・」フロイドの指が、コンピュータのキーボードを滑
る。「到達予定時間より、23.2秒ほど遅れる。」
「と、すると、」相手は時計を見ているらしい。「13分後だな。どうも
ありがとう。」
「おいちょっと!どうか、したのかい?」
「いや、まだはっきりしたことは分からない。じゃまをして済まなかった。
じぁ、」
  会話はもの10数秒でおわったのだが、フロイドの関心を引くには十分す
ぎるものであった。ウェルズとは同期の仲間で、彼はチャンドラー博士の右
腕としてその才能を観測ブイ内に示していた。気さくな人柄で、フロイドは
内心尊敬すらしていた。その彼が″困った″状態にあるとは・・・確か彼は
今、<ドリューシャ>を監視しているのでは・・・
  と、その時アナウンスが入った。「不測の事態が発生した。気流の乱れか
ら、高速気流の速度が低下。そのため、予定時間の行動をとると」アナウン
サーの紙をめくる時間が、永遠にも感じられた。「・・・行動をとると、ス
ペース・プレインは、重なるようにして飛んでいる<ドリューシャ>のうち
上の巨大な方に激突することになる。」
「回避は不可能なのですか?」ざわつくセンターの中から思わずそういう声
が出た。
「回避は不可能。奴らの笠にあたるか、足にあたるかがかわる程度だ。」
「では・・・成り行き任せということに・・・」
「残念ながら、そのようだ。」
  センターは絶望の空気で淀んだ。何故なら、<ドリューシャ>に攻撃的行
動をして助かった例はないのである。そして、1000M以内の距離にタン
ブラー号がいる・・・これだけで彼らを落ち込ませるのに十分だった。

  それでも、モニターに画面の半分以上を埋める<ドリューシャ>が映し出
されるとちょっとしたどよめきが起こった。その生物は前傾姿勢になったク
ラゲそのもののように思えるスタイルだった。巨大な笠の下には、触手らし
きものが12本あった。これは何種類かあるらしく、長さはまちまちだった。
この触手のほかに細い糸のようなものが笠からかぞえきれないほど出ていた。
笠には模様はなかったが、端のほうから一対の短い角のようなものがあるこ
とが確認された。<ドリューシャ>を完全に横からみたわけでないから確認
はできない(ちょうど笠に隠れているのだ!)のだが、12本の触手の付け
根にオレンジ色の袋が4つついている。どうやらこれが<ドリューシャ>の
中枢部にあたるものなのだろうが、スペース・プレインの標的にはちょいと
ばっかし難しい位置にあった。なんとも皮肉なことにこの袋を発見したのは
No.4の観測員だった。そしてその数時間後、母なる地球へと散っていっ
たのだった。
  「これに・・・ぶちあてるのかぁ・・」フロイドは思わず漏らした。軌道
は″狙ったみたいに″正確に<ドリューシャ>と交わることになっているの
だから、避けられない。果たしてHT−26000はどんな心境なのだろう
か、と考えた。
  「閃光弾・雷鳴弾のカバーを排除します。・・・排除終了」先程からスペ
ース・プレインの画像に切り替わっているので、カバー排除の光景は見るこ
とはできなかった。

  「接触まで2分・・・1分30秒・・・1分15秒・・間もなく閃光弾発
射・・・発射!・・・1分・・・雷鳴弾発射!」雷鳴弾が発射された瞬間、
強烈な青白い光の爆発が起こった。モニターには、そこがネガのように映し
出されていた。そして、その閃光がますます強まっていっているとき、割れ
んばかりの爆音が文明が滅び去って久しい地球に響き渡った。これらの弾は
<ドリューシャ>に直撃したのだろうか?まぁ、そんなことは関係なかった
。まもなく、もっと大きなものが突っ込んでゆくのだから。

  「接触まで30秒!・・・閃光弾・雷鳴弾第二回目発射用意・・・15秒・
・・・10、9、8、7、6、5、4、3、2・・」

  スペース・プレインはもうもうとたちこめる煙と指すような閃光の中をか
いくぐり、発射することのない砲身に弾を装填しながら<ドリューシャ>の
笠の縁に激突した。

  センターにはザサァーというノイズが静かに響いた。勝手に表示を続けて
いるコンピュータ以外はまったく動きを忘れたかのように、奥のスクリーン
・モニターに見入っていた。

  スペース・プレインは最初の接触のときに全面が押し潰され、そこで爆発
を起こした。しかし、飛び散ってしまったのは全面のほんの一部で、残りは
笠の中へと突入していった。通信系統はいかれてしまっていたので、エンジ
ンのスロットルが弾みで全開になってしまっていたのをセンターからは統制
できなかった。したがって、切り口の尖った弾丸が凄まじい勢いで回転しな
がら貫通するごとく、スペース・プレインは<ドリューシャ>のスポンジよ
りももっと柔らかい内肉をえぐりながら突進していった。




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