#718/1850 CFM「空中分解」
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再発表]地球探訪 (3) 翡翠岳舟
★内容
結局交信自体は10分足らずで終わった。こちらからはとくに連絡はなかった
が、HT−26000からは<ドリューシャ>らしきものを短い間だったがとら
えたとの報告があった。<ドリューシャ>には警戒態勢を取ること
で解決した。こちらからも、付設されたレーダー・ユニットで奴らの行動を探知
することにした。このレーダー・ユニットというのは、雲の上に設置されている
ので、<ドリューシャ>を補足するのは困難ではあるが、要はタンブラー号が危
険にさらされなければよいのであるからタンブラー号を見張っておけば良いので
ある。それも、長い時間はできないが。
しかし、やっておいて良かった。なぜなら、2時間後に<ドリューシャ>が急
接近してきたのである。この時、<ドリューシャ>は2匹。一つは直径180M
、もう一つは230M、どちらも立派な成熟体であると思われた。
「タンブラー号、緊急事態だ。タンブラー号の前方400Mに<ドリューシャ
>が2匹またもや現れた。直径180M、230Mのものである。これらは急速
にタンブラー号に接近中。HT−26000、そちらでは補足しているか?
ハイパーウェーブCH140 」
「コウホウニ、コタイノ ハンノウガ アルノデソレダト オモワレマス。ド
ニ タイショ シタライイデショウカ? コウカ シマショウカ? ソ
ショウシマショウカ?ソレトモ ゲイゲキシマスカ?
ハイパーウェーブCH47 タンブラー
このHT−26000の質問にセンターは大いに戸惑った。雲の下に逃げれば、
こちらから様子をうかがえなくなるばかりか、危険性も増大する。かといって、上
にいっては、再度突入をせねばならなくなり、プロジェクトの行動範囲が限られ
てきてしまう。攻撃をしたところで、No.4の二の舞になるのは必至だった。
「囮を使ってはどうであろうか?」と、いう案がチャンドラー博士から出され
ると、センターは蜂の巣をつついたようにうなりだした。
「皆さんのおっしゃりたいことは分かります。」チャンドラーはパネルを指し
ながら切り出した。「遥か離れた「タンブラー」にすり替える物があるのか、と
いうことですが、観測ブイには絶対といっていいほど かならずある小型スペー
ス・プレインです。これに関して私が述べるより、皆さんの方が良く知っている
でしょう。そう、重要な会議が自分のいる地点から最も遠い所で行われるとき、
皆さんの足としてつかわれる アレです。これを「タンブラー」に迫った<ドリ
ューシャ>の目の前に突入させるのです。あれのエンジンは非常に強力で、ここ
からでも月の観測ステーションに余裕にいけるほどですから、こんなことはたや
すいことです。ただ、問題は「タンブラー」の一つ上の高速気流に乗って接近す
る<ドリューシャ>との軌道計算が、「タンブラー」接触予測時間34分以内に
できる、かです。」
「「タンブラー」を<ドリューシャ>と同一の気流に乗せれば、少しは時間が稼
げるだろう。その間ならなんとかなるのじゃないかな。」チェリノフが助け舟を
出した。
「そうですか。では、問題はなくなったわけです。」
「スペース・プレインの方は大丈夫なのかね。」
「はい、スペース・プレインに<ドリューシャ>目を引くための閃光弾・雷鳴弾
を取り付けるだけですからすぐにすみます。」
「どうやら、親愛なる友人を救い出せそうですな、皆さん。」プロジェクト責任
者のソベルトが言った。
「HT−26000、<ドリューシャ>を君から離らすことがどうやら出来そう
だ。それには君が行動しなければならない。君の上にある高速気流に<ドリュー
シャ>は乗っているわけだが、君もこの気流に乗るのだ。そうすれば、<ドリュ
ーシャ>にまず追い付かれるということは無くなる。無論、これが救出作戦とい
うわけではない。この後、観測ブイ内で交通機関として使われているスペースプ
レインを囮として、奴らの目の前を掠めさせ、そちらに気をそらせる。君はその
後、元通りの行動をしてくれ。
ハイパーウェーブCH53 ステーション
タンブラー号が発進した同じ20−13−4ドックにスペースプレインが運ば
れたのは、タンブラー号に連絡してから12分後であった。全長30M、小さな
デルタ型の安定翼を持つ黄色い機体には、閃光弾・雷鳴弾を発射する砲が取り付
けられていた。これらにはカバーがかぶせられていて、大気圏を突破したのちに
外れるようになっていた。スペースプレインは観測ブイから発進した後、一度ブ
イより外側の軌道に乗り、そののち行動に移るのである。
中央センターのパネルにはすでに、赤い線でスペースプレインの航路が表され
ていた。そしてその赤線の先端の手前に2つの青い光点と黄色の光点が点滅して
いた。青はドリューシャ、黄色はタンブラーを示しているのである。これらの点
はゆっくりと赤い線の先端に近付いていっていた。
フロイドの目の前のディスプレイには、同じような図があって、その右上に、
タイマーが表示されてあった。発進まであと20分である。
「おかしいなぁ・・・」フロイドは目を揉んでから、もう一度見直した。
「やはり、近付いている!」14型のドットの粗いディスプレイでははっきりし
ないが、<ドリューシャ>の点とタンブラー号の点の間隔が狭まってきているの
だ。しかし、同じ高速気流に乗ったはずなのに・・・そうか!奴らは笠を帆とし
て速度を上げてタンブラーに追い付こうとしているのだ。
助手は立ち上がり、通路を横切ってチェリノフに知らせようと急いだ。
「はっはっ博士!大変です。」フロイドはすぐ横にイーディスが居ることに気が
付かなかった。「タンブラー号はスペースプレインが到達するまでに補足します
!」
「何だって!もうちょっと詳しくいってもらえんかね。」
「同一気流に乗っていますから、目をみはる接近はできませんが、それが逆にカ
モフラージュになっていたのです。私達は同一気流にのれば追い付かれることは
ないと考えました。しかし、奴らは直径200Mもある巨大な笠を帆のようにた
てて、速度を上げることに成功したのです。このままでは・・・」
「よし分かった。しかし、スペースプレインの軌道変更はどうする?」
「それは、随時スペースプレインに送って操作すればいいと思います。」
「イーディス、聞いた通りだ。すぐさまソベルトに連絡してきてはくれないかね
?うちの優秀な助手が大発見をしたとね。」
イーディスは博士に一礼してから、くるりと通路の方に向いた。その時、フロイ
ドをちらりと見たがそのままきびきびと歩いていった。
″彼女もいたのかぁ・・・″フロイドはその後ろ姿を見ながらつぶやいた。