AWC テ−マ1>『お正月と乾電池』秋本 88・1・12


        
#676/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (FXG     )  88/ 1/12  19: 9  ( 89)
テ−マ1>『お正月と乾電池』秋本 88・1・12
★内容
CNNニュ−スをテレビで見ていたら、自意識をもったロボットを50万ドルかけて
制作したと、その犬に似たスキャンピ−とかいう名の人形を紹介していた。
話ではハムスタ−程度の知能を持つそうで、何を根拠にそう判断するかは別として、
どうして、なかなか愛嬌がある顔と動きで、お前は馬鹿だなんて言われるとブ−ブ−
と怒るし、なでてやると実にうれしそうな顔の表情をする。このロボットの画期的な
ところは、いわゆる乱数を使っているのだろうか、プログラム制作者でも、その行動
のすべてを把握できないようになっているところで、なる程こういうものがやっと出
てきたか、との感慨が今更ながらに湧いてくる。しかし、まだまだだ。あの鉄腕アト
ムは真空管回路なのにあれだけの機能を持っていたのだから−
サチオの話に移ろう。中学三年の彼には悩みがあった。ガ−ルフレンドの留奈とは、
いわゆるステディの間柄で、クラス内でも公認のカップルだったのだが、12月のあ
る日、裸実という都会の女の子が、隣の家に引っ越して来た。こちらは中学2年生だ
ったが、同じ学校に登校するということもあって、ついつい親しくなってしまった。
なにせ、言葉使いからして、ここいらの女の子と違って洗練されていたし、ちょっと
気取ったような仕草なんか、とても新鮮に感じたりして。それに何といってもその名
の通りというか、制服の上からみてもハッキリそれとわかるくらいプロポ−ションが
よかった。おもわず股間がクエスト現象をおこしたりしても当然といった塩梅の女の
子だった。今ひとつ若さのない描写になってしまったが、歳にはかてない。それにし
てもCOTTEN氏のリレ−小説を読んだけど、あの文章のうまさはどうだ。SIG
OPにしとくのは、もったいない。現役の高校生には、かなわない、と云っても、同
じ高校生なのに、あのメガネさんの文章には。さて、その裸実の登場で、とたんヘソ
を曲げ出したのが留奈である。なによっ。ふん。どうせ。へええ。そおうっ。
まともな口をきいてくれなくなってしまった。そこでサチオの悩みが出てきたという
次第だ。なんとも贅沢なものだが、留奈の気安さも捨てがたい。これほど気心のあう
相手もいない訳だし。初詣には一緒に行く予定だったが、どうやらこのままだと、雲
行きがあやしくなってきた。正月が憂鬱だ。なんとかせねば。とサチオは考えていた。
電話をしても、でも出てくれないし。声をかけても無視されるし。手紙を渡しても見
てくれそうもない。年賀状にごめんね留奈で始まる言い訳のメッセ−ジを書こうかと
も思ったが今ひとつ有効はとれないみたい。効果。いや、指導をとられる恐れさえあ
る。といった年の瀬のことサチオはCNNニュ−スでこの知能ロボット、スキャンピ
−のことを知ったのだった。ああ、いいなあ。かわいいし。こんなのを留奈にプレゼ
ントできたら。と、ここまで思って。あっ、そうだ。そういえばスヌ−ピ−があった。
サチオの頭にアイデアがひらめいた。このスヌ−ピ−はその機能こそスキャンピ−に
劣るものの、伝言君の愛称もあるとおり、内蔵テ−プにメッセ−ジを録音することが
できる。それを再生する時は両手をグルグルまわして口をパクパクするところなんか
けっこう、かわいかったりもする。随分前に、もうあきてしまって遊ばなくなってし
まったが、今こそ使い時なのだ。サチオは押し入れから、スヌ−ピ−を引っ張りだし
てくると電池がはいっていて、まだ使えそうだった。サチオはシッポのスイッチを入
れて、留奈への愛のメッセ−ジを吹き込むことにした。そして、このスヌ−ピ−を元
旦の朝、留奈の家の玄関先に置いておく。留奈さんへと書いた名札をぶらさげておく。
そうしたら−うん。いいぞ!これなら聞いてくれるにちがいない。サチオは勢いこん
で、早速、録音をはじめた。
『ルナ、あけましておめでとう。ぼくスヌ−ピ−。ちがった。サチオ。あっ切らない
で。お願いだから。お正月そうそう、僕はとっても真剣になっている。これだけは、
云っておかなくてはいけない。僕とラミちゃんのことなんだ。でないと、僕のこれか
らの一年ははじまらないんだ。聞いてくれるね、ルナ。
  じゃあ、云うからね。
  僕はラミちゃんのことが好きだなんてまさか君は本気で思ってやしないだろう?
  そりゃあ、ラミちゃんはかわいいけど。遠くから引っ越してきて、それにお隣同
  士だったし、他に近所に同じ中学に通ってるものも、いなかったんだ。それで、
  ラミちゃんのお母さんが僕のところに来て、いろいろ教えてやってくれないかっ
  て。それで彼女、何も知らなかったから、学校のことなんか、教えてやっていた
  だけで、別に好きとか、そんなことじゃないんだ。
  僕が好きなのは、ルナ、君だけだ。
  もう、一度云う。僕が好きなのは、ルナ、君だけだ。
  いつだって、いつまでだって。
  ・
  ・
  初詣にいこう。ルナ。僕は着物姿のステキな君に今年も会いたい
  秋本骨つぎ堂の前で、何時までも待っている。君が来るまでいつまでも−サチオ


そのお正月がやってきました。サチオは朝早く起きると、留奈の家の前に抱えたスヌ
−ピ−の伝言君を置くと、走って秋本骨つぎ堂の前にやって来ました。
まだ、あまり通りを歩く人影もありません。でも、サチオは待つことにしました。
一日中だって待ってみせる。サチオは心に誓いました。


そのスヌ−ピ−の伝言君は無事、留奈のもとに届きました。
妹が玄関で見つけて、彼女に手渡したのです。首から「留奈さんへ」と書いた名札を
ぶらさげていたから。
留奈は、これが誰の仕業か、うすうす感づいてはいました。だから、妹の制止も聞か
ず、急いで2階の自分の部屋に入ると。おもむろに、スヌ−ピ−のスイッチをいれた
のです。もう、そろそろ許してやってもいいな。なんて思っていたサチオの声がバク
バクと口を開けるスヌ−ピ−の中から聞こえてきました。

『ルナ、あけましておめでとう。ぼくスヌ−ピ−。ちがった。サチオ。あっ切らない
で。お願いだから。お正月そうそう、僕はとっても真剣になっている。これだけは、
云っておかなくてはいけない。僕とラミちゃんのことなんだ。でないと、僕のこれか
らの一年ははじまらないんだ。聞いてくれるね、ルナ。
  じゃあ、云うからね。
  僕はラミちゃんのことが好きだ

─電池切れです。スヌ−ピ−は、以後、口をピッタリ閉じて自分の仕事を終えました−

次の日、秋本骨つぎ堂に一枚の張り紙がはられたということです。
 『うちのガラスを割ったのは誰だあ!一枚、13万5千円−店主 秋本』

             ●参加することに意義がある(く、苦しい)秋本でした




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