#674/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (AWC ) 88/ 1/10 19:23 ( 88)
新リレーA>第1回 そんなこんなでラヴレター
★内容
一年の時はあまり気づかなかったけれど(どうせトロイのよっ!)二年に入って
からやたら辺りが色めきだってきたような気がする。やれ、誰々が誰々を好きだの、
誰々と誰々がくっついただのうるさくてしょうがない。
女二人以上が集まれば必ずといっていい程誰々が好きだなどと告白合戦が始まる。
そんな合戦の渦中に巻き込まれ、「深雪は誰が好きなの?」なんて聞かれれば、
あたしは決ってこう応えてやるんだ。
「おかしいんじゃない? この中学にキャーキャー騒ぐ様な男がどこにいるって
いうのっ?!」
もちろん、そんなキツイ言い方はしないけれど、それと似た様なことを遠回しに、
やんわりといってやる。多少嫌味っぽいのも愛敬のうち。大抵はそれで治まって
しまう。陰でどんな事言われてるかはわかりゃしないけどね。
二年になってからなかよくなった祥子と直美の二人の内、祥子もそんな人種の一人
だった。初めはあんまりわかんなかったけれど、祥子の男狂いは一般的なレベルを
遥かに超越している。A組のA君ていいわねー、なんていってたかと思うとその次の
日にはB組のB君ってかっこいいなどとわめいている。はいはい、そうですかと相槌を
うっているうちに今度はC組のC君てやさしいのよーってな調子。いいかげんに
しやがれってなもんよ。
あんまり酷いもんだからつい言っちゃったんだよね。いつもの調子で。そしたら
帰ってきた台詞がこう、
「やかない、やかない。好きな人がいないからってねーやくもんじゃないの。だいたい
あんたのその顔で好みもへったくれもあったもんじゃないわよ。そういう台詞は
ラヴレターの一つでも貰ってからいいなさいよ、はっ。」
・・・・・しばし無言。もちろんこんなキツイ言い方を祥子はしないけれど
(言ったら昇天させてやるっ。)要約すればこんなもんである。
図星。正直言ってグサッと来た。あまりのショックに三日三晩食事も咽を
通らなかった。(ってのは言葉のあや。育ち盛りの乙女がダイエットでもあるまいし、
そんなんでいきてける訳がない。これでも割とスレンダーなんだから。)
ほんとの所、まわりで好きな人がいるなんて騒いでいるのに、自分だけそんな人が
いなくて焦っていたし、寂しかった。そんな話題になればいつもおいてけぼり。
馬鹿にされるの嫌だったし、友達の手前もあるから見栄なんかはっちゃって。けなげな
ものよねー。(でも、やっぱりロクな男いないとおもうよ、やっぱし。)ルックス
だってあんまりいいともいえないし、スタイルだってスレンダーといえば聴こえは
いいけど単にガリガリなだけなのよね。ラヴレターなんて・・・こないわよねー
やっぱし。
直美はおとなしくて、いつも聞き手にまわっている様な子だった。あたし達が
そんな話をしていると(といってもあたしはいつもの主張を繰り返すだけなんだけど)
黙ってニコニコしながら話を聞いていたっけ。あたしはたまらない思いにかられて
(せつないんだから、こんな気持ちで毎日こんな話聞いて)直美に聞いてみたことが
ある。もしや仲間なんじゃないかってね。でも期待はことごとく裏切られた。
Q「最近のこんな風潮、馬鹿げてると思わない?」
A「よくわかんないけど・・・別に・・・構わないと思う・・・。」
しばし無言。(あ、もちこんな言い方しないわよ。直美の台詞はこんな感じだけど)
で、常套文句。好きな人いるの?って尋ねたら。彼女、恥しそうにうんと答えた。
ガガーン・・・。あーあ、やっぱしあたしだけかぁ・・。
☆
そんなある日、あたしの身の回りにとんでもない変化が訪れた。
いつものように、祥子と直美とあたしの三人で茶道室でダベッていると、(あたし達
茶道クラブに所属している。茶道といっても、お茶菓子ねそべって食べながらダベッ
てるだけなんだけどね。)同じクラスの佐藤義彦が尋ねてきた。いきなりドアを開ける
もんだからびっくり。顧問のセンセの巡回かと思ってあわててとびおきた。籍だけの
顧問の癖に、思い出した様にやってきてはお説教していくのだ。うるさいったらありゃ
しない。
「なーんだ、義彦か。いきなりドア開けるもんだからびっくりしたじゃない。こんな
トコにいったい何の用よ。」
「何の用はないだろ。せっかく伝令役引き受けてやったのによ。」
「伝令? いったいどういうことよ?」
この顔、見ているだけで腹がたつ。佐藤義彦。どこのクラスにも必ずいるような
おちゃらけた奴で、毎日の様にあたしにちょっかいかけてくる。
「ほい、ラヴレター。」
「ええっ?!ラヴレター??あんたが?」
「冗談。先輩には悪いけど、誰がお前みたいなペチャパイなんかにやるもんかい。」
痛い所をつかれて正直ムッとしたが、ここでヒステリーなんかおこしたらこいつの
思うつぼだ。
「先輩って?」
「俺と同じクラブの鈴木先輩だよ。知ってるだろ?」
鈴木先輩ならよく知っている。陸上部のキャプテンをしているはずだ。一時期祥子が
先輩にいれあげて、つきそいで陸上部の練習を見にいったくらいだし、このあたしが
祥子がホレた中ではまだまともな方だと思った程の人だ。忘れる筈がない。義彦も
その事を覚えていてそんな言い方をしたのだろう。(あの時の祥子の熱中ぶりは
凄かったもん。)
しかし・・・・あの・・・鈴木先輩が・・・・あたしにラヴレター??!!
あたしはおもむろに義彦の手からそれをひったくると、一心不乱に読み始めた。
で、まぎれもなくそれはラヴレターだったのだ。読みながらあたしは頭にカーッと
血が昇っていくのを感じていた。きっと端からみれば、さながら完熟トマトの様に
思えたに違いない。
あたしは義彦が「じゃ、うまくやんなよな。」と言って帰っていったのにも気づかず
手紙を穴があくほど呆然と見つめていた。横から祥子が「えーっ!!あの鈴木先輩が
深雪にーっ!!信じらんない。でも、これでようやくあんたにも春がくるわねーっ。
がんばんなさいよっ。応援するからねっ!キャー、でも信じらんない。」などと
騒いでいたけれど気にもとまらなかった。(尋常ならどついてるわい。)うれしいやら
はずかしいやらで完全に気分は完熟トマト。正常な思考など何処かへおサンポといった
感じだ。あたしはただひたすらうかれながら、何度も何度もそれを読み返していた。
そして、もちろん、直美の微かな表情の変化に気づく筈もなかったのだ。
<<つづく>>