AWC トークバンパイア ひすい岳舟


        
#658/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (FEC     )  88/ 1/ 6  15:58  ( 34)
トークバンパイア                          ひすい岳舟
★内容
  会社帰りのことだった。中年の男が公園のベンチでグッタリしているのを見た。いつ
もだったら風景と認識しただろうが、はじめてうまくいった商談の帰り道だったから、
少々大きくなったつもりで声をかけた。
「だいじょうぶ、ですかぁ〜。」抑えようとしても、嬉しさが発音に現れてくる。
「はぁ、ちょっと気分が悪い程度ですから………」男は相当生気をなくしているのか、
目も開けずに答えをかえした。私は男の背広を丸めて枕にし、靴を脱がせてベンチに横
にさせた。そしてハンカチをぬらすとおでこの上においた。
「この近くなんですか。」
「………いえ、狭山ってしってますか?」
「ああ、埼玉の!私は所沢なんですよお。」
「………そうですか………」
  夕陽がビル群をまっかに染めている。公園の中央にある管が詰まって出ることのない
噴水の池に、紫色に光った空が映える。雲が波紋で歪みながら流れていくのを私は知ら
ぬ男と話ながら見ていた。

  男とは沿線がいっしょのため、いっしょに帰ることになった。途中、いざかやなどに
よりながら話をしていると、段々と親近感も沸いてきた。男は某という結構有名な会社
の広報部だそうだ。そういえば、うちとも何度か提携を結んだことのある………
  電車に乗ると、椅子の下のモーターのモァ〜とした空気が気持悪く感じた。急に汗が
ではじめて、寒気が出てきた。かぜっぴきと一緒にいたからかなぁ〜と男を見やるとに
こにこした顔である。なるほど、あちらさんの風がこちらに乗り移ったのかと馬鹿な事
を思っているうちにはきけまでもよおしてきた。
  「どうです、次の駅までもちますか?」
「ええ、なんとか」
「そこで、降りるとしましょう。水でものめば直るかもしれません。」
  私は男の身体を借りてホームに降りたった。と、すぐに………オヴェ!
  洗面所に行き、顔を洗う。鏡をふとみるとなんとまぁ、やつれた顔だ。昼間のいきい
きとした顔はどうしたんだ、まったくこれではあべこめではないか………
  男の顔は………。なんとなしに若返ったような………いやそんなことはあるま………
白髪が少なくなっているようだ………肌も輝いているようで………公園の苦しんでいた
男とは別人のようだ………どうなって………???
  「だいじょうぶ、ですかぁ〜」抑えようとしても、嬉しさが発音に出てくる………
                              −−−FIN−−−
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