#1152/1158 ●連載 *** コメント #1151 ***
★タイトル (sab ) 22/10/07 12:43 ( 72)
ニューハーフ殺人事件16 朝霧三郎
★内容
副題:シーメール風俗を極めるとイケメンコンプレックスが解消されるのか
翌朝、刑事課に行くと、
デカ長の石浜勇之介が、デスクに腰掛けて新聞を読んでいた。
身長182センチ股下90センチの長身。
真っ黒に日焼けしていて、肝臓でも悪いんじゃないかと思えるぐらいだ。
髪の毛がイノシシ並にびっしり生えていて、
それを自分でカットするというから、毛足が豚毛歯ブラシみたいになっている。
長めの襟にネクタイだけぶらさげて、3ピースのチョッキだけ着ている。
裏地は赤い刺繍の柄物だった。
マグカップのコーヒーをすすってから、デスクにドンと置く。
腕時計を見ると、ネクタイを締め出す。
こういう男が、男らしい男なのではないか。
どちらかというと、スティーブ・マックイーンの様な動物臭さがある男。
「愛と誠」に中の悪徳政治家の様な濃さ。
こういう男なら、伊勢丹メンズ館でオーダーメイドのワイシャツを作ったり、
帝国ホテルのゴールデンライオンでカクテルを飲んでも似合うのかも知れない。
(そんなところは麻生太郎みたいな上級国民の行くところで、
一般大衆が行ったら断られる)と光男は思った。
次の瞬間、ビッグイッシューを配っているスニーカーをすり減らしたホームレスや
ダイヤゲート池袋最上階の西武堤一族などが連鎖して、
カーっとしてくる、のが何時もの事だった。
ところが、今朝は違った。
夕べのアリスの一件があってから、ちょっと違う。
デカ長が単なる加齢臭のあるおっさんに見えてきたのだ。
例えば、夕べの一件がある前は、俳優の阿部寛とかTOKIOの長瀬の様な男が
イケている男だ、と思えていた。
しかし、今は、濃い顔の男は、アナルがくさそう、と思えるのだ。
むしろ、BTSの様な醤油顔ののっぺりした男の方がいい。
(もしかして、シーメール風俗を極めれば、イケている男へのコンプレックス、
西武的なものへのコンプレックスが無くなるのか)と光男は思った。
「さあ、打ち合わせやっちゃうか」とデカ長が新聞を畳んだ。
コバ、カトー、明子巡査、関根啓子、そして光男がデカ長の机の周りに集まる。
ホワイトボードには捜査に関係した資料が張り付けられていた。
ガイシャの写真、殺害現場の写真、
ガイシャの免許証、クレカ、「愛と誠」の最終巻、
大宮ハリウッド座の割引券の写真、
容疑者のホームレスの写真。
「一昨日のガイシャがサンシャインシティアルパで白昼堂々刺された件だが
このホームレスが犯行を自供した」とデカ長は容疑者の写真を指差した。
「じゃあ、事件は一件落着ですか」とミツさん。
「それがそうは行かないんだ。裏がありそうで」
「裏? 誰かが裏で何かしていたっていうんですか?」
「そう言っている人がいるんだよ」
「誰が」
「管理官だよ」
あと数日で、警視庁捜査一課から、警視が管理官として赴任することになっていた。
「それで事情を聞きたいというので、わるいが、ミツさんと、明子巡査、
二人で、管理官のところに行ってくれないか」
「分かりました」と明子巡査。
「ミツさんが休んでいる間に、
コバとカトーちゃんでガイシャの部屋をガサ入れしたよ」とデカ長。
「何か出てきた?」ミツさんはコバの方を見た。
「「愛と誠」全集。アネロス他アナルグッズ多数。
あと、自分が磔になった写真多数」とコバ。
「自分が磔になった写真?」
「あれは露出狂かなあ」とカトーちゃん。
「今日だが、コバ、カトーちゃんは、ストリップ劇場への聞き込みを頼む」
「了解」
「ミツさんと明子は管理官の方を頼む」
「了解」
「啓子巡査は、証拠品あさりに付き合ってくれ」
「まだ何かあるんですか」と光男が聞いた。
「裸の磔の写真が大量にあって、ちゃんと見れていないから、
ちゃんと見ておきたいんだよ」
(そんな事に俺の啓子巡査を使うのか)と光男は思ったが、
定年間際の窓際警部補には何もいうことはできない。