AWC She's Leaving Home(4)改訂版ぴんちょ


        
#742/1159 ●連載    *** コメント #741 ***
★タイトル (sab     )  09/10/18  20:12  ( 87)
She's Leaving Home(4)改訂版ぴんちょ
★内容
翌日学校で、授業の間の休み時間、前の席のモーヲタが熱く語っていた。
「いやー、youtubeの恋愛レボの再生回数、150万回超えたよ。俺だけでも
千回は再生してるけどな。1日3回、年間千回ぐらい。でも2重カウント防
止だから正味150万回再生されてんのかな。俺はもう6年も再生している
けどね。本当に俺の四季折々に折り重なっている感じでさあ、なんでそんな
に聴くかっていうと、うざったくないのがいいんだよね。自分を主張してこ
ないんだよね。透明なんだよ。透明だけれども輝いている。ダイヤモンドは
永遠の輝き。ダイヤモンドっていうのはダイヤモンドが輝いているわけじゃ
なくてカットした所で光が反射しているんだよ。もー娘も一人ひとりじゃな
くて11人の星座の様なフォーメーションが輝いているんだよ。わかる? 
それは質量をもたない。肉体を持たない。うんちもしなけりゃまんこもしな
いんだよ。だから近づく事が出来ないんだよなあ。そんなに清いものが俺に
似合うわけないものな」
「でもタバコは吸うわ結婚はするわ」
「だからタバコを吸ったのは体なんだよ、体なんてどうでもいいんだよ、伊
勢神宮の材木と同じでどうでもいいんだよ。そんなもの大事にしていたら法
隆寺になっちゃうだろう。そんなもの何時か朽ち果てるんだから。祇園精舎
の鐘の音諸行無常の響きあり。モー娘が永遠である為には体の清さなんて求
めちゃあダメなんだよ」
「モー娘って、オナペットにならない?」
「ならないなあ」

昨日読んだブログの医大生の生活って遠くから眺める星座のような感じがす
る。自分にはそんな事は起こらないって感じがする。それからアベ君、日比
谷高校を落っこちてここに来て医学部を目指している彼にもそういうオーラ
を感じる、と思いつつ彼の背中を見る。休み時間も勉強している。でもモヤ
シじゃなくて剣道をやっていて意地悪じゃないし自分の弱みも平気で話して
くるのに、このモーヲタとは大違い。あの人は星座になるんだろうなあ。
私はアベ君のそばに座って言った。「ちょっと聞きたい事があるんですけど」
「なに?」アベ君は顔を上げる。
「アベ君って一日何時間ぐらい勉強してんの?」
「ずーっとだよ」
「ずーっと?」
「寝ている以外はずーっとだよ」
「ふーん。じゃあ私には無理ね」
「何が」
「私なんてひっくり返ったって医学部なんて行けないよね」
「そりゃあ分からないよ。受験なんてテクニックだから。方法さえ間違えな
ければ誰でも行けるよ」と言って参考書の表紙をさすったがそれは参考書で
はなくて和田式勉強法の本だった。それからアベ君は受験が如何にテクニッ
クに過ぎないか語った。「僕はその事に気が付くのが遅くて、本当に時間を
無駄をしてしまったよ。2年の時からK先生(旧帝大卒。推定年齢50歳)
についてみっちり手ほどきを受けていたんだけど。あの先生は、数学は答え
が解ってしまえば後は読むだけになっちゃうから、とにかく一回目が大切だ
から一回目は必ず自分で解いて、出来る事なら自分だけの解法や公式をあみ
出すぐらいの積もりで底力をつけて欲しいとか言うんだ。だからそう思って
頑張ってきたんだけれども、夏休みにS台で会った奴にそう言ったら大爆笑
されたんだよ。オリジナルの解法なんて書いてどうするんだと。だいたい東
大二次って何人受けるのか知ってんのか。4千人以上受けんだぞ。それを少
数の教師が短期間で採点するんだから、オリジナルの解法なんて書いたら一
発ではねられるって。だからチャートとかで定石を大量に暗記しておいて、
似たような問題が出たら書き写しておけば部分点をもらえる、って言うんだ。
進学校じゃあみんなそうしているって言うんだ。そんな筈ないだろうと思っ
てそいつに薦められた東大受験攻略法みたいなのを読んだらそう書いてある
んだよ。本当に進学校にいないと不利だよなあ」とアベ君は言った。「僕は
そんなテクニックじゃなくてやっぱり実力を見てもらいたいし更に言えば人
間性みたいなものを見てもらいたいんだけれどもね」
「人間性なんて関係ないよ」と私は言った。「患者は人間性なんて求めてい
ないし、若くて健康で生き生きしていたら、お医者さんがね、それだけでしょ
んぼりしちゃうんだから、その上性格までよかったら救われないよ」
へー、みたいな顔をアベ君は私を見ていたが、「とにかくそういうわけでも
う数学の授業には出ないんだけれども」と言って一枚のチラシを出した。
「医学部に興味があるんだったらこういうのに興味ある?」
「なに、これ」私はチラシを見た。人体の不思議展。人間の格好はしている
のだけれども血管だけしかない人間。金魚みたい。その横に皮だけの人間が
写っている。皮で人間の形を作ったのではなくて、皮だけ残してみんなくり
ぬいた人間。「これ、本物なんでしょう」
「当たり前じゃない。こんなもの偽物でどうする。行く?」
「うーん」
「医学部受ける奴はみんな行くんだよ。医学部に行けば解剖もあるしね。解
剖は重要だからね。イニシエーションみたいなものだからね」
「イニシエーション?」
「うん。なんていうか、同じ釜のメシを食うっていうかね。俺の酒が飲めな
いのか、みたいな感じ」
同じ釜のメシをみんなで食べる、と聞いて給食を思い出した。私はあれが苦
手だった。不味いとかじゃなくて、みんなと一緒のものを食べなければいけ
ないと思うと緊張してしまって。じゃあお前だけお弁当でいいよ、というわ
けには行かない。だってそんな事したら学校が適当なものになってしまうか
ら。だから学校がちゃんとしている為には教師は厳しくなければならず、給
食が終わる頃にスプーンをもってやってきて食べ残したものを私の口に詰め
込まなければならなかったのだ。教師も医者も人間的であったらいけないん
だ。人情があったりうんちをしたりセックスをしちゃいけないんだよ。そん
な事したら星座が汚れてしまうじゃないか。だから星座の一員になりたかっ
たら本当に厳しい人間にならないと駄目だ。解剖ぐらいでびびっていら全然
駄目だ。
「どうする。行く?」とアベ君。
「行くよ。だってイニシエーションなんでしょう」




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 続き #743 She's Leaving Home(5)改訂版ぴんちょ
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