AWC 呪いと奇跡と祝福と


        
#171/1165 ●連載
★タイトル (yc8     )  03/09/22  18:39  ( 89)
呪いと奇跡と祝福と
★内容
感触
コロモントの風そよぐ草花の丘に
空気の振動という優しく切なげなまなざしを受け
また旅人が通り過ぎてゆく

第一章 運命の剣

語り草
 クリケ・レードは旅人であった。何処の生まれかは知らない。誰もそんな事は尋ねな
かったし、例えそう問われたとしても「つまらない場所さ。」と答えた事だろう。彼は
そういう人なのだ。
 擦り切れた分厚いマントと薄汚れた長剣。クリケの身上は、そのくらいだった。彼は
二十代前半、地方領主のいさかいや小競り合いがある度にその愛用の剣を振い、生活を
してきた。この頃の彼には特筆する様な出来事は何も無い。背徳・裏切り・絶望。大半
がそんな話だった。この頃の彼の肖像が一枚残っている。彼の表情に何処か焦燥感と翳
りがあるのは、自分の人生に対する後ろめたさがあったからに違いない。
 彼は二十二歳の時に、一度仕官を勧められている。その時の貴族の名はユールリィア
ム候といった。リュネイル王国最大の商業都市マインの支配者で、南部の新興勢力ポル
ニカ連合の度重なる侵略から国境を守ってきた歴戦の勇将である。彼はリュネイルとポ
ルニカの国境に位置するセルバスティアノ城塞の警備隊長に推薦してくれた。クリケが
ポルニカによる第三次マイン侵攻で敵の先鋒の大将(名は知られていない)を討ち取っ
た時である。危険を顧みず戦いの中に突出していった彼はまだ希望に満ち溢れる無垢な
青年だったのであろう。仕官の誘いを断っている。
「私は何よりも自由を愛したのだ。」
 これは彼が晩年自分の人生を振り返ってもらした一言である。その性格は一途で何処
かあどけなさを残したモノであったらしい。
 彼はその言葉どおりどのようなしがらみにも束縛されず、自由奔放な人生を送った。
しかし、この事は彼にとって時に危険な要因になったであろう。彼が生きた時代は「あ
の頃は良かった。」と晩年の彼が語った程、安定していたとも平和であったとも言い難
かった。富を求める血に飢えた賞金稼ぎ共は何処にでも転がっていたし、時には名誉を
求めてクリケに挑む若き騎士もいたであろう。何よりも一度(ひとたび)戦が起これば
移り気に旅して回る彼など、敵方のスパイと疑われても仕方なかったのではないか。ク
リケ・レードを批判している訳ではない。彼の生きた時代とはそういう時代だったので
ある。

予感
 ガランガラン。
 ドールネディの鐘の音がする。来客を告げる合図だ。オルファルリアは魔法書の執筆
を取り止め、鷲ペンをユークリッド製の事務机に置いた。ぎしぎしと軋むオーク材で出
来た椅子から立ち上がる。オルファルリアは時折きらきらと魔法が零れ落ちるローブの
裾から懐中時計をスラリと取り出した。象牙の針が十二時五分を指している。
「や、もうこんな時間か。」
 オルファルリアは事務机の本立てから一冊のファイルを引き出した。彼の勝手な用事
が一杯詰まったスケジュール帳だ。
「ウル・カトゥータの魔剣物語執筆、ガマガエルの脂絞り、サン・エンデル卿の妹の誕
生日に送る祝辞の作成…。」
 フンフン、おや?
『剣の使徒が十二時十五分にやって来る。』
 これだけ、文字の形が違う。どうやら誰かが勝手にスケジュール帳に書き込んだらし
い。十五分の「十」の部分がやけに大きく記されていた。
 ガランガラン。
 おっと!来客をあまり長い間待たせる訳にはいかない。オルファルリアはスケジュー
ル帳を机に仕舞い、いつも魔法使い同士で連絡を取り合う時に使っているゴシック調の
浮き彫りが施された楕円形の鏡台にちょっと自分の姿を映してみた。ほっそりとした身
体、うっすらと透けそうな白い肌、とんがった耳。耳をピクピクと動かしてみた。つい
でに目をすっと細めてみせる。
 オッケイ!いつものオルファルリアだ。
「はいはい、今行きますよ!」
 オルファルリアは外套掛けからホワイトグリーンのマントを選び、慎重に纏った。お
とつい買ったばかりの百パーセントコットンで縫い上げられた舶来品なのですぐに綻び
を作りたくないのだ。胸の所で真っ赤なチェリーボタンを三つ掛けた。そして、ちょっ
と格好悪いが星型のステッキを手にする。最後に、無数の星々が鏤められている、これ
またホワイトグリーンのとんがり帽をちょんと頭に乗せた。
「うん、良し。」
オルファルリアはもう一度鏡に姿を映して装いを確認した後、ステッキを宙に踊らせな
がら部屋を出た。
* ***** ****** ******
『昨日は中秋の満月であった。私は、この日の為に慎重に選んだ魔法の呪文を月に向か
って囁いた。私の祈りは天に届き、月に住まう天使ミシュケルより啓示があった。それ
によると、どうやら乱れた世に秩序をもたらすとされている剣の使徒が近々姿を現すら
しい…。』
 そこで、オルファルリアの魔法書の記述は中断されていた。開けっ放しになっていた
南側の窓からシルフェス(風の精霊)のいたずら風が吹き込んで来た。魔法書のページ
がパラパラと音をたててめくれ上がった。白紙、白紙、白紙。彼の魔法書はこれから記
されていくのだ。

待ち人
 やっと待ち望んでいた人が来てくれる!
 家に帰って来るなり、マイラン・ラロウンは小躍りした。ライト・ブルーのスカート
が揺れた。今夜催された月夜の夜会でジャヤワナという老魔女が彼女に教えてくれたの
だ。「次の満月の夜、貴女の家から十五分南に歩いた所にある大きなブナの切り株に腰
掛けて待ちなさい。そうすれば、貴女が会いたいと想っていた人がやって来るでしょ
う。」ジャヤワナは「十」の部分を強調した。
 マイランは階段を駆け上がり、自室の窓を目一杯開いてみた。満天、星で埋め尽くさ
れていた。涼しい風が彼女の部屋に舞い込んでくる。
「あの人、何処まで来たかしら。」
 彼女は一人胸疼く衝動に耐えきれず、声を出してしまった。次の満月の夜に孤独から
開放されるのだ!
 一人ぼっち、大人になってからずっと一人ぼっち。それも、もう終わり。





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