#170/1165 ●連載
★タイトル (GSC ) 03/09/17 16:09 ( 89)
わたしのコンサート鑑賞 (10) / 竹木 貝石
★内容 03/09/17 16:36 修正 第2版
次女のQ子が入場券を買ってくれて、親子3人で音楽会に行ってきた。
以下、その模様を記す。
イツァーク・パールマン バイオリン リサイタル
2003.9/14(日) 15時30分開場 16時開演
愛知県芸術劇場 コンサートホール S席 13000円
私にとって1年半ぶりのクラシックコンサート、パールマンの生演奏を聴くのは、こ
れが3回目、あるいは4回目だろうか?
私はいつも音楽会で眠ってしまうので、今日はたっぷり昼寝をしておいて、3時すぎ
に家を出た。
駅まで7分、西日を真正面に受けて歩くのは暑いが、木陰に入ると涼しい。
JRから地下鉄への乗り換え通路は昔と少しも変わっていないが、60代も後半にさ
しかかった今の私には感慨深いものがある。出改札口や階段や点字ブロックの上を歩き
ながら、過去の輝かしい思い出や空しい記憶の断片を漠然と回想しつつ、「良くも悪く
も、過ぎ去った日々はもう二度と戻ってこない。これから先はただ老い衰えていくの
み」と、妙にわびしい気分になるのだった。
栄(さかえ)の地下街を通って芸術劇場に入る辺りは、若者達で混雑していて活気が
あり、さすがは大都会の中心地だけある。我が町を「大名古屋」と誇ってみたり、「名
古屋は偉大なる田舎なり」と卑下してみたり、市民の気持ちは様々だが、名古屋の道路
と地下街は確かに立派なものだ。けれども、名古屋市内の町名を省略して呼ぶように変
更したのは、はたして良かったのかどうか? 例えば、昔の栄町を「栄」と呼び変え、
錦通りを単に「錦」、桜通り5丁目を「桜5丁目」、川名本町を「川名」などという風
に、住居表示を短くしたために、情緒も魅力もない地名となってしまった。
『芸術劇場』も、図書館・美術館・音楽会場などを総合した立派な建物だが、音響効果
は、以前の『文化講堂』の方がはるかに勝っていた。
今日の演奏会は〈大ホール〉ではなく〈コンサートホール〉で行われるが、それでも
収容人員は約2000人だから、当然反響音の多い設計になっている。こんな広い会場
で残響音ばかり聴いていて、はたして生の演奏を聴いたことになるのかどうか甚だ疑問
である。クラシックのコンサートは、出来れば数百人、せいぜい千人までが限度なの
だ。
ホール入り口で手渡された各種音楽会の宣伝用チラシは、いずれも良質の紙に印刷さ
れていて、A4サイズの物だけでも34枚、全てクラシックコンサートの予告パンフで
ある。このことから見ても、まだまだ日本人の暮らしにはゆとりがあり、純音楽のファ
ンも少なくないことが分かって、いささか安堵した。
会場はほぼ満席で、招待券の観客らしき子供やお年寄りも大勢来ていたが、幸いマ
ナーの悪い人はなく、終始静かだった。1曲の演奏が終わる毎に、文字どおり『万雷』
の拍手がしばし鳴りやまず、パールマンの知名度と人気の高さがうかがい知れる。
私達の座席はS席なのに、二階12列の右端で56〜58番と、あまり良い場所では
ない。しかし、いざ演奏が始まってみると、バイオリンとピアノの音が不思議にも右前
下の方から聴こえてきて、残響が左の方向へ広がって行く感じで、思いのほか聴きやす
かった。これがS席の特典なのかも知れない。
パールマンは私より年上の筈で、小児麻痺のため脚が不自由だから、椅子に腰掛けた
まま演奏する。舞台を出入りする時には松葉杖(多分ロフストランドクラッチ)を使
い、バイオリンの持ち運びはピアノ伴奏者が行っているそうだ。パールマンはハンディ
を見事に克服し、世界一流のバイオリニストとなった。若い頃の演奏は、「技術的に完
璧だが音色は平凡」であったのが、今は逆に、「技術面で若干の乱れはあっても音色は
抜群」というように変わってきている。
以下、個々の演奏について感想を述べる。
プログラムの最初は、バッハのソナタ第6番。正直言って、終楽章以外はつまらなか
った。その主な理由は、伴奏のピアノが騒々し過ぎて、右手の細かい連続音がバイオリ
ンの音をかき消してしまう。以前の伴奏者サミュエル・サンダースは、いつから交代し
たのだろうか? パールマンのバイオリンもいまいち本調子が出ず、出だしのE線の音
が軽々しい感じに聴こえた。それにもう一つ、演奏が速過ぎる。近年発売されるCDの
多くは、バロックやモーツァルトの音楽をやたらとハイテンポで演奏したがる傾向にあ
り、私には腹立たしくさえある。古き良き時代の音楽は、もっとゆっくり落ちついた演
奏でなければなるまい。
プログラム2番目は、ベートーベンのソナタ第7番。私はベートーベンの曲の中では
バイオリンソナタが一番好きで、モーツァルとのそれよりも聴き心地がいい。今回の第
7番もなかなかの名曲であり、第三楽章の軽快なリズムは〈スプリングソナタ〉を思わ
せ、第四楽章の襲いかかってくるような迫力は〈クロイツェルソナタ〉に似ている。さ
りながら、パールマンの演奏技法やスタイルは、バロック音楽や古典派の曲よりも、ロ
マン派以後の音楽に向いている。以前にも同じようなことを書いたが、主催者や運営者
は、ソリストによくマッチしたプログラミングを考えるべきであり、バッハやベートー
ベンの演奏では、パールマンのもてる力を十二分に発揮することは出来ない。
休憩20分を挟んで、プログラム3曲目は、ドビュッシーのソナタ。これは最高だっ
た。雰囲気も音質も音量も技巧も全て申し分無く、正に名曲であることを再認識した。
プログラムの4曲目以後は小品で、あたかもアンコール曲を挽くような具合に、パー
ルマン自身が1曲ずつ紹介しては演奏してくれる。彼は声が良いし発音も明瞭だが、な
にしろ私は英語のヒアリングが苦手な上に、記憶力もお粗末だから、正確に記述するこ
とは出来ない。
4 マヅルカ: ……
5 マヅルカ: ショパン作曲 クライスラー編曲
6 Serenade of Espania: ……
7 シチリアーノとリゴードン: クライスラー作曲
8 アオペ ガ ホダイラ: ハイフェッツ (無伴奏)
9 スペイン舞曲: ファリャ作曲
小品はどれも味わい深い演奏で、低音部と最高音部の美しい音質は、長年に渡る私の
不満を一挙に解消してくれた。
既に往年の大家達は皆この世を去り、今やパールマンだけが、我々世代の最後の先輩
名人として活躍している。
私はパールマンのLPレコードを持っているがCDは無いので、出口で2枚購入して
帰った。
Itzhak Periman 『バイオリン小品集 No.1』
Itzhak Periman 『クライスラー バイオリン曲集』