#437/598 ●長編 *** コメント #436 ***
★タイトル (CWM ) 13/11/22 00:21 ( 97)
love fool 04 つきかげ
★内容 13/11/22 00:38 修正 第2版
其の四
そして、その夜。
ロミオとベンヴォーリオは、マキューシオにつれられるまま、そのパーティ会場に
ついた。
そこは、外見はまるきり倉庫であったが。
中で鳴り響く轟音に、その身を震わせているかのようだ。
回りは大きな空き地になっており、そこにバイクを停めた三人は会場へと向かう。
マキューシオは狼のマスクで顔の上半分を覆い、ロミオは道化、ベンヴォーリオは
悪魔の仮面を着けている。
会場の入り口には、背が高く分厚い身体をした黒服のおとこたちが、並んでいた。
マキューシオは、涼しげに笑うと、招待状のカードを黒服に差し出す。
無表情の黒服は、そのカードを一瞥してマキューシオに頷いて見せた。
マキューシオは、手をひらひらさせながら通りすぎようとしたが、黒服が呼び止め
る。
「武器の持ち込みは、禁止している。預からせてもらおう」
マキューシオは黒服に笑みを返し、ホルスターに入ったままのS&W M19を黒服に
渡した。
ベンヴォーリオもそれに倣い、ホルスターごとコルトパイソンを差し出す。
ロミオだけが、躊躇っている。
マキューシオは、楽しげに笑いながら、肘でつついてロミオを促す。
ロミオは、意を決したようにガンベルトをはずし、ソード社製のツーハンデッドソ
ードのように巨大な銃を差し出した。
黒服は、表情を強ばらせる。
その巨大なソード社製の銃を扱うおとこは、この街にはひとりしかいないはずであ
った。
それを、知らないものはいない。
ガンベルトごとその銃を受け取った黒服は、ぐっとロミオを見つめる。
慌ててマキューシオが、その黒服に抱きついた。
「いいおとこだねぇ、あんた」
黒服は、少し鼻白む。
「その銃のことなら、気にするな」
マキューシオは目配せすると、無理矢理黒服のポケットに札をねじ込んだ。
「こいつは、かっこをつけたくて、レプリカを持ち歩いてるんだ。そいつはただの
32口径コルトだよ。犬も殺せない、豆鉄砲さ」
マキューシオは、黒服の頬に口づけする。
黒服は、諦めたようにその銃を持って、後ろにさがった。
そして三人は、会場の中に足を踏み入れる。
音が、物理的な圧力をもってロミオたちを包み込んだ。
電子的サウンドが、機銃掃射のように鳴り響いている。
シンセサイザーが、麻薬に浸った脳が見る夢のような、高速のメロディを奏でてい
た。
さらに、光が狂ったように、乱舞している。
あたりは、輝く宝石でできた、カレイドスコープのようであった。
その無数の花火が炸裂するただ中のような空間で、スーポーツカーのように優美な
ボディラインを持つおんなたちが踊っている。
彼女たちは、深海を遊弋する魚のように、穏やかに踊っていた。
しかしその回りは、光と音の空爆を受けているように、音が炸裂し光が疾走してい
る。
「ようこそ、子供たち」
気がつくと、ロミオたちの前に梟の仮面をつけた太ったおとこが、笑みを浮かべて
立っている。
ロミオは、仮面の下の顔が、キャピュレットの当主のそれであることに気がついた。
そうやら向こうも、彼がロミオであることに気づいているようだ。
しかし、そんなことを感じさせぬ笑みを浮かべたまま、梟の仮面をつけたおとこが
言う。
「おれがおんなであれば、放ってはおかないほど好いおとこぶりだな、子供たち」
マキューシオは、優雅に一礼した。
梟おとこは満足げに頷き、言葉を重ねる。
「ここは、顔を忘れ、名を忘れ楽しむ場所だ。子供たち、おまえたちが誰かは知ら
ぬが、存分に楽しんでいけ。優しい夜が駆け足で去り、残酷な朝が来るまでの間だ
けはな」
そういい終えると、梟おとこは一礼して奥へとさがってゆく。
会場の奥には仕切りが作られ、小部屋のような場所があった。
そこには豪華なソファが置かれ、テーブルには酒と料理が並べられている。
梟の仮面を外したキャピュレットは、ソファへと腰をおろす。
その隣には、精悍な顔立ちの若者がいた。
「今のは、ロミオではないのですか?」
問いかける若者に、キャピュレットは杯を口に運びながら一瞥をくれ、答えた。
「ティボルトよ、どうやらそのようだな」
ティボルトと呼ばれた若者は、顔を蒼ざめさせると立ち上がる。
その腰には、大きな純白の拳銃が吊るされていた。
460ウエザビーマグナムという巨大な銃弾を撃ち出す、ホワイトホースと呼ばれ
る銃だ。
「ティボルト、何をする気だ」
「決まってるじゃないですか」
ティボルトは、叫ぶように言った。
「モンタギューは我らの敵だ。叩き出して、土を食わせてやる」
「やめておけ」
キャピュレットは、静かに、しかし断固とした口調で言った。
「ロミオ、あいつはな、蜘蛛だ」
ティボルトは、怪訝な顔でキャピュレットを見る。
「家にある蜘蛛の巣が邪魔だからといって、取り除くのは馬鹿者のすることだ。そ
んなことをすれば、家はあっという間に虫に食われて崩れてしまう」
キャピュレットは笑みを浮かべていたが、鋭い眼光でティボルトを見ている。
「二年前、ロミオはこの街をのっとろうとしたチャイニーズマフィア15人を血祭
りにあげた。その時おまえは、何をしていたのだ、ティボルト」
ティボルトは、蒼ざめた顔で、キャピュレットを睨みつける。
キャピュレットは、優しげと言ってもいい口調で、話し続けた。
「ティボルト、死んだ弟の子供であるお前をおれは、我が子として育ててきた。し
かしな、お前がおれに従わぬのなら、ここの主がだれであるか、お前に教えなけれ
ばならなくなる」
ティボルトは、口を開こうとして、やめる。
そして言った。
「判りました、父さん」
キャピュレットは、鋭い眼差しのまま笑みを浮かべ、頷く。
「判ったなら、座れ。そして、酒を飲め。おまえも、楽しむがいい、我が子よ」