AWC もうひとりの私(tp version) [4/7] らいと・ひる


        
#229/598 ●長編    *** コメント #228 ***
★タイトル (lig     )  04/07/26  00:05  (348)
もうひとりの私(tp version) [4/7] らいと・ひる
★内容
■Side B


 校内には妙な噂が流れていた。川島美咲は殺されたのではないか、そしてそ
の犯人として一番疑わしいのは同じ部活の水菜香織だということ。
 あくまでも噂ではある。けど、ここ二、三日は警察の人らしき見かけない大
人が校内をうろうろしているのをゆかりは目撃していた。だから、そんな噂も
半ば嘘ではないのではないかと思えてきたりする。
 でも、彼女はそんな噂になぜかほっとしている自分が嫌になる。
 もし殺されたということであれば、自殺の予兆に気付いてとめられなかった
ゆかり自身の罪も許されるから。そんな風に人の命を軽く考えてしまっている
自分自身が怖くなる。
 どんな真実があっても彼女はもう帰ってこない。それだけは心に刻み込まな
いと。
 考えているだけで憂鬱になる。どちらにせよゆかりは悩み続けなければいけ
ないらしい。
 もう、ため息しか出てこない。


「香村さん」
 放課後、廊下に出たところでゆかりは呼び止められる。振り返って、顔の筋
肉が引きつっていくのを感じた。そういえば昨日、帰り道に見られていたこと
を思い出す。
「な、なんでしょうか? 堀瀬さん」
 あの子はゆかりの機嫌の悪そうな顔を見て一瞬焦ってたけど、すぐに柔らか
い笑顔を向ける。
「少し話があるんですけど、いい?」
 由衣が自分に用件があるとはめずらしい事もあるのだと、彼女は思う。
「いいけど」
 ぶっきらぼうにゆかりは答えた。
「ありがとう」
 あの子は安心したかのように明るい顔になる。もっと表情が乏しい子かと思
っていたけど、意外にくるくると変わるんだ。ゆかりはそう素直に感心してし
まった。
「どーする? どっか人のいない場所行く? それともここで話す?」
 ただ、ゆかりの方は露骨に嫌な顔のままだった。
「んーと、できれば人のいない場所の方がいいんですけど」
「じゃあ、中庭行こ。あそこなら誰も来ないし静かだと思うよ」
 ゆかりはそのまま階段を下りていく。後ろからは由衣がおとなしくついてき
た。
 そういえば、と彼女は思い出す。中庭ってたしか事件が起きた場所だったの
ではないか。由衣は当然現場を見ているのだろう。美咲が亡くなった場所に連
れて行こうなんて、どうかしていた。自分だって少なからず影響を受けて思い
出してしまうに決まっている。
 それでもいったん口に出したことだからと、そのまま進むことにした。
 一階の渡り廊下の途中で二人は上履きのまま外へ出る。中庭はコンクリート
だから、そんなに汚れないだろう。
 振り返って由衣を確認すると、立ち止まって深呼吸を何度かするような仕草
をしている。よく見るとかすかに足が震えていた。
「だいじょうぶ?」
 ゆかりは心配になって声をかける。もしかしたら、すごく無神経な事をして
しまったと後悔をした。
「うん、だいじょうぶだって」
 あの子は気丈に笑っていた。たぶん無理をしているのだろう。
「それで……話って」
 早いところ話を終わらせてこの場から移動した方がいいかもしれない、そう
ゆかりは思った。
「うん。あのね、香村さんて教室で川島さんと親しく話してたじゃない。だか
らね」
 由衣は予想外の事を訊いてくる。
「え? ゆかり親しくなんかしてないよ」
 それは事実だった。親しくなりたかったけど、友達ですらなかった。
「だってこの間」
 ゆかりはつい最近の教室での出来事を思い出す。美咲の気まぐれで助かった
こと、そのあと公園で見かけて何度か言葉を交わしたこと。
「あの時はたまたま助けてくれたから……その、お礼言っただけだよ。親しい
なんてとんでもない」
「え? じゃあ、私の勘違い?」
 由衣は目をまるくして、ちょっと驚いたような表情になる。
「うん」
「そっか……あーあ、初めから躓いちゃった」
「それだけ?」
「はい。それだけです」
 あの子は肩を落として寂しそうな顔をする。いったいゆかりに何を期待して
いたのだろう。美咲の何を訊きたかったのか。
「ごめんね」
 由衣を見ていたらいたたまれない気持ちになり、ゆかりは謝罪の言葉がいつ
の間にかこぼれていた。
「うん。ありがと。じゃあ」
 背中を向けてその場を去ろうとしたあの子の後ろ姿を見て、ゆかりは思わず
声をかける。
「待って」
 由衣の足が止まった。ゆかりは続けて問いを投げかける。
「どうして川島さんの話を訊きたかったの?」
 一瞬の沈黙の後、あの子の顔がこちらへと向く。
「真犯人を見つけるためだよ」
「真犯人?」
 そう言われて、どうやらゆかりは自分自身が今回の事件をまったく把握して
いない事に気付いた。噂さえきちんと聞いていないのだから当たり前ではある。
「そうだよ」
 でも、それは警察の仕事じゃないかと、ゆかりは思う。まるで探偵みたい。
「どうしてそんな探偵みたいなマネをするの?」
「水菜さんって子が疑われているのは知ってる?」
「うん、まあ」
 名前だけしか知らないけど。
「彼女はね、私の知っている限りそんな事をするような人じゃないの。なのに
疑われて、悔しいじゃない。みんな、くだらない噂だけで真実も確かめようと
しない。簡単に信じちゃうんだよ。そんなのってないよ」
 静かな怒りが込められた言葉。
 ゆかりには意外だった。あの子が他人のために一生懸命になっているところ
なんて。
 いつも誰かの顔色を窺いながら話を合わせて、誰にでもいい顔をしているの
だと思っていた。優等生ぶって、他人を見下しているのだと思っていた。
 でも、こんなにも純粋な気持ちを持っている。
「つまり疑いを晴らしたいんだ?」
「うん」
 あの子はまっすぐな目でゆかりを見つめていた。なんの迷いもないような純
粋な瞳で。
 はっきりいって水菜香織という子が羨ましかった。こんなにも思ってくれる
友達がいるなんて幸せなのだろう、そんな風にさえ感じた。
「ゆかりはさ、一緒に犯人を捜すなんてコトできないけど。でも、何か情報を
仕入れたら真っ先に堀瀬さんに知らせてあげる」
「ありがと」
 由衣は今までで一番の笑顔をゆかりに向けてくれた。ちらりと見えたキバの
ような八重歯がなんかかわいいな、なんて思ったりする。


 由衣を初めて見かけたのは去年の春休みの終わり頃だった。
 部活へ向かう為の登校途中の桜並木の下を、ゆかりと同じ長い髪の少女がふ
わふわと歩いているのを見てどこのクラスの子だろうかと思った。歩く姿から
醸し出される雰囲気がとても柔らかで、優しさに溢れる聖母のような印象があ
った。
 春休み中なのであの子も部活に向かう途中だったのだろう。ゆかりは声をか
けることもなく、そのまま後ろ姿を目で追いながら学校へと向かった。
 新学期が始まったらあの子と同じクラスになれるのかな、なんてちょっと想
像しながら最後まで声をかけることもなく校門に入る。そしてあの子は体育館
の方へ、ゆかりは校舎内へ。
 部活が終わって下駄箱で靴に履き替えていると、なにやら騒がしい女生徒の
集団が背中を過ぎていく。
 四人ほどのグループで、その中心にはあの長い髪の少女がいた。なにやら楽
しげなその様子にゆかりは羨ましさを感じていたのだ。
 新学期が始まって、クラスにあの子がいた時、ゆかりはそれほど驚きを感じ
なかった。なぜだか、まるでそうなるのが当然のように感じていた。
 だから、もしかしたら友達になれるのではないかと淡い期待もしたものだ。
 でも、彼女はわりと八方美人の性格のようで、どんな相手にも柔らかい笑顔
で接していた。別にそれは個人の自由だし、ゆかりがどうこう口を出せる問題
でもなかった。
 ある日、ゆかりが昔裏切られた子とあの子が楽しそうに話をしているのを見
てしまった。その瞬間、どうしようもない理不尽な憤りを感じてしまったのだ。
今思えば誰が悪いわけではない。裏切られるような事をした自分も悪いし、そ
んな事を由衣は何も知らなかったのだから。
 でも、それからだろうか。あの子の優等生っぽい雰囲気が気に障って、何か
につけて嫌うようになっていった。
「バカだね」
 ゆかりはそう呟く。


■Side A

 初っ端から躓いてしまった事に由衣は落ち込んでいました。近場のクラスメ
イトからと思ったのが間違いのもとなのかもしれません。
 悔やんでいてもしょうがないと、彼女は気持ちを切り替えます。
 次は部活の仲間に聞いてみることにしようと、体育館へと向かいます。練習
はすでに始まっていますが、用事があったことにすれば多少遅れて参加して文
句は言われないでしょう。
 練習している部長から鍵を預かり、誰もいなくなった部室で急いで着替えま
す。
 再び体育館に戻って顧問の教師が来ていない事を確認すると、1年生が練習
している場所で紗奈を探します。そして「おいでおいで」と手招きしながら、
ステージ横の器具倉庫室へと誘います。
「なんですか?」
 ドアを開けて入ってきた紗奈は訝しげな顔をします。
「うん、ちょっと聞きたいことがあってね」
「なんでしょうか?」
「この間の話。川島さんが亡くなった日のこと」
 彼女はさらに眉をひそめます。
「……それで?」
「矢上さんは、たしか屋上に誰かがいるのを見たんだってね」
「はい」
「いつ見たの? 中庭に入ってから? それとも音がした時? どんな人だっ
たの?」
「なんでそんな事聞くんですか? 警察の人にはすべて話したんですけど」
 紗奈は早く話を止めたい様子で、少し苛ついている。
「私はさ、見ていないんだよね。気になるじゃない」
 由衣は彼女の顔をまっすぐ見つめる。逃げ出さないように。
「中庭に入ってからです。ほんの一瞬でしたから、ほとんどわかりませんでし
たよ」
「制服とか着てた? ほら、色加減ぐらいは認識できたかなって」
「警察の人にもおんなじ事を聞かれました」
 苦笑いをしながら紗奈は少しうつむく。
「で? 矢上さんはなんて答えたの?」
「紺色の物がふわりって。だから誰かのスカートかなって、そう思ったんです。
去っていく足が見えました。もちろん、上履きとかは見えませんでしたよ。た
だ、あの時はわたしもパニクってたんで、もしかしたら思い違いという可能性
もありますが」
「そう、ありがとう」
 由衣は紗奈を解放すると、しばらくその場で考え込みました。
 もしあの時、誰かが下を向いていて、自分たちが現場に到着したのを確認し
たのなら、すぐにその場を離れようとするはずです。その時にスカートが翻っ
て紗奈に目撃されたのでしょうか?
 紺色のスカート。普通に考えれば女子生徒に限られます。女の先生でもいた
かもしれませんが、タイトなものが多いので翻る可能性は低いでしょう。誰か
が故意にそれを見せたのでないのなら、現段階では屋上にいた人物は、うちの
学校の女子生徒である可能性が高いです。
「ほっちゃん!」
「へ?」
「何やってんの? 顧問くるよ」
 成美が不思議そうな顔でこちらを見ていました。



 家に帰ると練習でクタクタになった身体にムチを打って由衣は机に向かいま
す。母親には「あら、勉強しているなんてめずらしい」なんて嫌味を言われま
したが、実際には勉強とは違うので少しだけ心苦しくはあります。本当は調べ
た情報をノートにまとめているだけなのですから。
 ノートには香村ゆかりと川島美咲の繋がりが勘違いだったこと、矢上紗奈が
目撃した『去っていく人影』と『紺のスカートらしき物』から推測されること、
そしてあの日の自分の行動と犯行時刻らしきものを予想して書き込んでいきま
す。
 それから、美咲の人物像も改めて見直してみることにしました。
 彼女はわりと気分屋でもありますが、基本的には陽気な人なのでしょう。部
活ではテンションも高く、笑い転げて止まらないこともありました。たまに気
分が悪くて部活を休む時がありましたが、練習に出るときはいつも必死で頑張
っているようにも思えました。
 由衣が彼女と二人っきりで話したことはありませんでしたが、部活の仲間と
ともに馬鹿話に華を咲かせたこともあります。そういう事があって、陽気な人
というのが由衣の印象に残っている彼女の姿なのです。
 少なくとも端から見ている限りは、誰かから恨みを買いそうな性格ではなか
ったと思えます。
 もちろん、美咲のプライベートを知らないので、誰の前でも陽気だとは言い
切れませんが。

 大まかな人物像をまとめたら次は動機です。美咲をなぜ殺したかったのか?
 こればかりは漠然としすぎていてわかりません。一番情報を集めなければな
らない部分です。

 最後に校内へどうやって侵入したかです。生徒がすべていなくなる二十時に
は昇降口の扉はすべて鍵がかけられ、出入り口は警備員室脇の教職員出入り口
のみとなります。しかも屋上には鍵がかかっていて、簡単には侵入はできない
はずです。校内に侵入したとしても屋上の鍵をどうやって手に入れたのか? 


 次の日は放課後まで待たずに、休み時間の間にも由衣は情報収集に走り回り
ました。
 警備員室へ行って事件の日に朝練の届けが出されている部をチェックし、そ
れらの部の部長に会ってその日の事についていろいろ話を聞きます。ほとんど
の生徒が由衣より後の時間に学校に到着していたようです。もちろん、誰かが
虚言をしているのなら、それらは覆されますが今はそれだけの証拠もありませ
ん。
 放課後になり、由衣は考えながら階段を昇って屋上へと続く扉の前へと立ち
ます。
 目の前には大きく「立ち入り禁止」と書かれた札がかかり、木製のその扉は
けして容易に開かないようにと、何重にも板が打ち付けてあります。もちろん、
打ち付けてある板は最近のもので、たぶん事件が起きた事への配慮でしょう。
 その前で腕組みをしながら考えて、何も思いつかないのでそのまま降りてい
きます。途中の階でクラスの子に会いました。
「なにやってるの堀瀬さん?」
「うん。屋上の鍵ってどうやって入手したのかなって」
「なにそれ?」
「事件のあった日、何者かが屋上の鍵を開けたわけでしょ。簡単には手に入ら
ない場所にあるものをどうやって手に入れたか、ってのが謎なのよ」
「あれ? 堀瀬さん知らなかったんだ」
「なにを?」
「屋上のドアって鍵壊れていたんだよ」


 つまりは誰でも出入りは可能だったということでした。一部の生徒しか知ら
ないということで、教師にまでは伝わっていなかったそうです。先日の事件が
起きるまでは。
「はぁ……」
 ため息しかこぼれません。
 どうやら由衣はものすごく無駄な時間を過ごしてしまったらしいです。
 本当は探偵なんか向いていないんじゃないかと再び落ち込みます。このまま
だと『真犯人を見つけてやる』という意気込みさえ萎んでいきそうです。
 由衣は強引に頭の中で切り替えをし、屋上の件についてはクリアとすること
にしました。手帳には「鍵の謎」の部分に打ち消し線を引いて「壊れていた」
とだけ書いておきます。
 あとは校内への侵入経路を探すべく、校舎をぐるりと回ってみます。どこか
に秘密の抜け穴はないかと探し回っても何も見つかりません。こういう場合は
さっきのように誰かに聞くのがいいのでしょうか。
 とりあえず誰かに会わないかと由衣は体育館の方へと向かいます。すると、
ちょうど前から歩いてきた顧問の教師と目が合ってしまいます。
「こら! 堀瀬! 着替えもしないで何やっとる!」
 その後、彼女は説教をされ罰として校庭を百周走ることになりました。今日
はツイていない日なのでしょうか。


 練習が終わった後の歓談の場でも由衣は思いきり笑われてしまいました。遅
刻して説教を受けて校庭百周ですから、当たり前といえば当たり前なのですが。
「間抜けだよねぇ」
「サボるならもっとうまくやらないと」
「そうそう、詰めが甘いよ」
 たしかに由衣が悪いのです。
 言われっぱなしではさすがの彼女も気分が悪いですが、嫌なことは忘れて例
の件を聞いてみることにしたのも由衣らしさでもありました。
「ねぇ、あのさ。校内に入る抜け穴みたいなのがあるって噂聞いたことある?」
「なにそれ?」
「幽霊とかそういう類の話?」
 慶子がふいに予想外の方向へと話を持っていきます。
「なにそれ?」
 由衣はあまりの突飛さに、ついつい逆に聞き返してしまいました。
「だから、夜遅くに校内を見回っていた警備員が人影を見つけるのよ。で、追
いかけていくとどこかでその人影が忽然と消えてしまうの。抜け穴があるんじ
ゃないかって必死で警備員は探すんだけど、そんなものはどこにもないの」
「あれ? あたしは図書館の本棚の一つを動かすと秘密の入口があるって聞い
たよ。そこに逃げ込んだって」
 浩子がさらに話を広げた。
「ちょっと待て。それは実話なのか?」
 暴走しそうな二人を成美が止めました。
「ううん、聞いた話」
 慶子と浩子の声がハモります。
「えっと、私が聞いてるのは現実の話だよ。屋上の鍵が壊れてて、教師側がそ
れに気がついていなかったみたいな事がないかなって」
「へぇー、屋上の扉って鍵壊れてたんだ」
 慶子が感心したかのように呟きます。やはり本当に一部の生徒のみ知りうる
事実だったようです。
「だいたい、そんな穴が空いてたらとっくに学校側で直してるんじゃない」
 成美が現実的な指摘をします。
「だって屋上の鍵は放置されてたけど」
「屋上は外部から侵入される確率が低いからチェックが甘くなるけど、一階部
分なら泥棒に侵入される可能性が高い。その為に警備員がチェックしてるんで
しょ」
 理屈に関しては成美の方が上でした。
「そうかぁ」
 こんな簡単に行き詰まってしまうとは、いったいどうしたものかと由衣は頭
を抱えます。
「ほっちゃんっていったい何を調べているの?」
 浩子が素朴な疑問を口にします。
「うん。今回の事件の真相かな」
「そんなものは警察に任せておけばいいじゃん」
 浩子の意見はごもっともです。でも、それには時間がかかりすぎます。
「でも、水菜さんが疑われたままってのはかわいそうだよ」
「それは仕方ないって。一番疑われやすい立場にいるんだから」
 慶子のその言葉に、由衣はなぜかカチンときてしまいました。
「ホントなのかもわからないのに疑うなんてひどいよ」
「わからないから疑うんだよ。誰しも真実がわからないってのは不安なんだよ。
例えば犯人がまったくわからないまま何日か過ぎたとする。そうなると犯人の
可能性は全生徒に及ぶんだよ。しかも動機すらわからないとなると、自分が次
に殺されるんじゃないかって不安になる。誰一人として信用できない。そんな
状況の方が危険で酷い状態だよ」
 成美が極めて冷静に事務的に状況を説明してくれます。でも、そんなことを
由衣は簡単に納得できるわけがありません。
「だからって誰か一人だけを疑って満足するなんて間違っているよ!」
 由衣は高ぶった感情を静めようとみんなの輪から離れて部室へと行きました。
先に着替えている先輩に「すみません」と謝って荷物を持ち出し、一階の空き
教室で着替えて帰ってしまいました。
 彼女がこんなにもみんなの前で怒りを露わにしたのは初めてだったのかもし
れません。

 しかしながら、水菜香織以外の人が疑われていたとしたら、由衣はこんなに
も一生懸命になることができたでしょうか。

 例えばクラスメイトの香村ゆかり。

 彼女が犯人と決めつけられていたら、由衣はいったいどんな行動に出たので
しょうか。






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